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第八章 いざ、決戦!
12.気色悪いほどの賛美に包まれて
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「最後は才色兼備と聞こえが高い社交界の華、ミッドランド侯爵家令嬢のユーフェミア様です」
「ユーフェミア様だわ」
「なんて美しい⋯⋯天使の降臨かも」
「わたくしの憧れの方なの!」
ユーフェミアの名前が呼ばれ演壇に立つと生徒達がざわめきはじめた。
喜びを噛みしめるように隣の生徒と手を取り合う者や、顔を赤らめて興奮を抑えきれない様子の者、口元が緩んでだらしない顔になっている者⋯⋯。
「ご紹介に預かりましたミッドランド侯爵家ユーフェミアと申します。年はそれほど変わりませんので、ユーフェミアと気さくに呼んでいただければ嬉しく思います。
わたくしはこの国で最も厳しいと言われております『ラグズラット女子修道院』を昨年卒業したばかりの若輩者でございますので、皆様の前に立つのはいささか荷が重く思えてもおりますけれど、精一杯努めさせていただく所存でございます。
まずは挨拶や言葉遣いを見直し、感情の抑制の必要性や沈黙が美徳と言われる理由について、上位の方々との接し方などご一緒に考えてまいりたいと存じます。
国の違いや爵位の上下を超えた交流ができれば幸いに存じます」
ノーブルやデブルスの時とは違い会場に響き渡る拍手が鳴り止まず、拍手をしながらひとり2人と立ち上がる者がではじめる始末。
(すっご~い! 半分以上立ってない? 久しぶりに見たけど私的には『こいつは誰だ?』って感じだよ~。修道院で覚えた『秘技、猫被り』なのかもだけど、目線がねえ⋯⋯4歳差なら許容範囲って言ってるよ~。婚約者いるって聞いてるけど、真実の愛狙いかな? 派手に動いてクソ皇子捕獲からの帝国送還にしてくれたらラッキーかも。それにしても王子は立ち上がってないんだ)
興奮した生徒達の拍手が鳴り止まない。困ったように苦笑いをして首を傾げていたユーフェミアがパンパンと手を叩いた。
「皆様、これからのスケジュールについてのお話などがございますので、ご着席いただけますかしら」
立っていた生徒が慌てて座り、背を伸ばして居住まいを正した。
「ゴホン! えー、では私から今後のスケジュールを説明する。Sクラス、AクラスとBクラス、Cクラスの3グループに分け、明日の3時限目と4時限目に第一回の授業を行う。Sクラスはデブルス閣下、AとBクラスはユーフェミア様、Cクラスは私ノーブルが担当する。
利用する教室については朝会の時に担任から連絡がある。授業中に時間を設けるので、質問事項をまとめておくように」
残り時間は講師と生徒達の交流会となり、ダンスレッスンや剣術の練習に使われている多目的ホールへ移動した。
ホールの隅に休憩用の椅子が置かれ、テーブルクロスの掛けられた長机には軽食とお菓子やジュースが準備されている。
あちこちに花が飾られ、黒服の使用人が料理やお菓子などをサーブできるようにスタンバイしている様は、学園の授業と言うよりもどこかのお茶会のような華やかさだった。
早速料理を吟味しはじめた者や友達同士で話し込む者もいたが、大半は講師や皇子・王子の周りにに群がっている。ミリーが目立たないようにカサンドラやカミーユとホールの隅で話をしていると、ユーフェミア賛美の声が聞こえてきた。
「この会場は、ユーフェミア様のご提案だとお聞きしましたわ」
「ええ、せっかくの交流会ですから、楽しくお話できた方が宜しいかと思いましたの」
「流石、素晴らしいご配慮に感謝いたしますわ」
(通りで使用人の中に2人、見た覚えのある奴がいるはずだわ)
「私の家は商会を持っておりまして⋯⋯」
「であれば近隣諸国について興味を持つのは至極当然。分からないことがあればいつでも聞きに来るといい」
「我が伯爵家は2代前に陞爵したばかりなものですから、不勉強を実感していると父上が言っておられるのです」
「低位貴族と高位貴族には大きな隔たりがあるからな。高位貴族の責務について学ぶには、国の成り立ちとそれを支えた貴族について学ぶ事からはじめたまえ」
「みんな頑張ってんなあ。カサンドラはビシバシとマナーを鍛えてもらったら良いんじゃねえか?」
「あんたの言葉遣いもね。平民よりも破落戸っぽくなってるもん」
「猫なら5・6匹被れるぜ? あのマナー講師には負けるがな」
(カミーユはやっぱり何か知ってるのかなぁ。それともただの印象?)
「正直言って、みんなの様子が気持ち悪かった。なんか怪しい教祖様を崇めてるみたいな感じでさ。わざわざ『この国で最も厳しい修道院』って言ってる時のドヤ顔とか、自慢してるみたいだったじゃん」
国の違いと口にしたのは明らかに皇子に対するアピールだが場を弁えていない。貴族のマナーを教える講師が爵位の上下なしの交流を希望するのも完全に間違っている。
(ユーフェミアに不信を抱いたのはオーレリア様かイリスから前情報があったからかなぁ。どちらかの指示で一緒にいてくれるんだろうなって思ったりもするんだけど、聞く勇気がないんだよね)
そうだと言われたら仕事だから一緒にいるのだと言われるのと同じ。今までのような『普通の友達』の距離感でいてはいけない気がする。
(仕事で友達のふりをしてくれてるってなったら泣けちゃいそう)
クソ皇子のせいで一緒に行動するほど仲が良いのはカサンドラとカミーユくらいで、その他のクラスメイトとは少し距離がある。
(高位貴族からのイジメに巻き込まれたくないとか、ブルードレス達に目をつけられたくないとか⋯⋯気持ちがわかるだけに、こっちからは寄ってけないもんね)
ブルードレスとは⋯⋯入学式で着ていたドレスの色⋯⋯クラスの間者で、イライザ・ゲインズ侯爵家令嬢。ミリー命名の『わ娘』で、使用人のメイ・ターナー子爵令嬢を先輩への伝令に使っている。
情報を流している先は掴めていないが、2年生の公爵令嬢が怪しいと睨んでいる。
(ゲインズ侯爵家とは親戚で、6代前に王女が降嫁した元王太子妃候補のひとり。2ヶ月前に突然婚約を白紙にしたキャロリーヌ・フォックスが怪しいよね)
ミリーに暴言を吐く高位貴族の後ろで、扇子を片手に高みの見物をしているのを見かけた事が何度かある。
もうひとりはイライザの腰巾着でニール・オブライアン伯爵家令息。クソ皇子の御機嫌取りをする為に情報を提供している。
(猫被りに喧嘩を売る日が楽しみ~。屋台骨をぐらつかせて、その下も一気に叩き潰しちゃおう)
「ユーフェミア様だわ」
「なんて美しい⋯⋯天使の降臨かも」
「わたくしの憧れの方なの!」
ユーフェミアの名前が呼ばれ演壇に立つと生徒達がざわめきはじめた。
喜びを噛みしめるように隣の生徒と手を取り合う者や、顔を赤らめて興奮を抑えきれない様子の者、口元が緩んでだらしない顔になっている者⋯⋯。
「ご紹介に預かりましたミッドランド侯爵家ユーフェミアと申します。年はそれほど変わりませんので、ユーフェミアと気さくに呼んでいただければ嬉しく思います。
わたくしはこの国で最も厳しいと言われております『ラグズラット女子修道院』を昨年卒業したばかりの若輩者でございますので、皆様の前に立つのはいささか荷が重く思えてもおりますけれど、精一杯努めさせていただく所存でございます。
まずは挨拶や言葉遣いを見直し、感情の抑制の必要性や沈黙が美徳と言われる理由について、上位の方々との接し方などご一緒に考えてまいりたいと存じます。
国の違いや爵位の上下を超えた交流ができれば幸いに存じます」
ノーブルやデブルスの時とは違い会場に響き渡る拍手が鳴り止まず、拍手をしながらひとり2人と立ち上がる者がではじめる始末。
(すっご~い! 半分以上立ってない? 久しぶりに見たけど私的には『こいつは誰だ?』って感じだよ~。修道院で覚えた『秘技、猫被り』なのかもだけど、目線がねえ⋯⋯4歳差なら許容範囲って言ってるよ~。婚約者いるって聞いてるけど、真実の愛狙いかな? 派手に動いてクソ皇子捕獲からの帝国送還にしてくれたらラッキーかも。それにしても王子は立ち上がってないんだ)
興奮した生徒達の拍手が鳴り止まない。困ったように苦笑いをして首を傾げていたユーフェミアがパンパンと手を叩いた。
「皆様、これからのスケジュールについてのお話などがございますので、ご着席いただけますかしら」
立っていた生徒が慌てて座り、背を伸ばして居住まいを正した。
「ゴホン! えー、では私から今後のスケジュールを説明する。Sクラス、AクラスとBクラス、Cクラスの3グループに分け、明日の3時限目と4時限目に第一回の授業を行う。Sクラスはデブルス閣下、AとBクラスはユーフェミア様、Cクラスは私ノーブルが担当する。
利用する教室については朝会の時に担任から連絡がある。授業中に時間を設けるので、質問事項をまとめておくように」
残り時間は講師と生徒達の交流会となり、ダンスレッスンや剣術の練習に使われている多目的ホールへ移動した。
ホールの隅に休憩用の椅子が置かれ、テーブルクロスの掛けられた長机には軽食とお菓子やジュースが準備されている。
あちこちに花が飾られ、黒服の使用人が料理やお菓子などをサーブできるようにスタンバイしている様は、学園の授業と言うよりもどこかのお茶会のような華やかさだった。
早速料理を吟味しはじめた者や友達同士で話し込む者もいたが、大半は講師や皇子・王子の周りにに群がっている。ミリーが目立たないようにカサンドラやカミーユとホールの隅で話をしていると、ユーフェミア賛美の声が聞こえてきた。
「この会場は、ユーフェミア様のご提案だとお聞きしましたわ」
「ええ、せっかくの交流会ですから、楽しくお話できた方が宜しいかと思いましたの」
「流石、素晴らしいご配慮に感謝いたしますわ」
(通りで使用人の中に2人、見た覚えのある奴がいるはずだわ)
「私の家は商会を持っておりまして⋯⋯」
「であれば近隣諸国について興味を持つのは至極当然。分からないことがあればいつでも聞きに来るといい」
「我が伯爵家は2代前に陞爵したばかりなものですから、不勉強を実感していると父上が言っておられるのです」
「低位貴族と高位貴族には大きな隔たりがあるからな。高位貴族の責務について学ぶには、国の成り立ちとそれを支えた貴族について学ぶ事からはじめたまえ」
「みんな頑張ってんなあ。カサンドラはビシバシとマナーを鍛えてもらったら良いんじゃねえか?」
「あんたの言葉遣いもね。平民よりも破落戸っぽくなってるもん」
「猫なら5・6匹被れるぜ? あのマナー講師には負けるがな」
(カミーユはやっぱり何か知ってるのかなぁ。それともただの印象?)
「正直言って、みんなの様子が気持ち悪かった。なんか怪しい教祖様を崇めてるみたいな感じでさ。わざわざ『この国で最も厳しい修道院』って言ってる時のドヤ顔とか、自慢してるみたいだったじゃん」
国の違いと口にしたのは明らかに皇子に対するアピールだが場を弁えていない。貴族のマナーを教える講師が爵位の上下なしの交流を希望するのも完全に間違っている。
(ユーフェミアに不信を抱いたのはオーレリア様かイリスから前情報があったからかなぁ。どちらかの指示で一緒にいてくれるんだろうなって思ったりもするんだけど、聞く勇気がないんだよね)
そうだと言われたら仕事だから一緒にいるのだと言われるのと同じ。今までのような『普通の友達』の距離感でいてはいけない気がする。
(仕事で友達のふりをしてくれてるってなったら泣けちゃいそう)
クソ皇子のせいで一緒に行動するほど仲が良いのはカサンドラとカミーユくらいで、その他のクラスメイトとは少し距離がある。
(高位貴族からのイジメに巻き込まれたくないとか、ブルードレス達に目をつけられたくないとか⋯⋯気持ちがわかるだけに、こっちからは寄ってけないもんね)
ブルードレスとは⋯⋯入学式で着ていたドレスの色⋯⋯クラスの間者で、イライザ・ゲインズ侯爵家令嬢。ミリー命名の『わ娘』で、使用人のメイ・ターナー子爵令嬢を先輩への伝令に使っている。
情報を流している先は掴めていないが、2年生の公爵令嬢が怪しいと睨んでいる。
(ゲインズ侯爵家とは親戚で、6代前に王女が降嫁した元王太子妃候補のひとり。2ヶ月前に突然婚約を白紙にしたキャロリーヌ・フォックスが怪しいよね)
ミリーに暴言を吐く高位貴族の後ろで、扇子を片手に高みの見物をしているのを見かけた事が何度かある。
もうひとりはイライザの腰巾着でニール・オブライアン伯爵家令息。クソ皇子の御機嫌取りをする為に情報を提供している。
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