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第五章 良き出会いに乾杯
02.成功の影に失敗ありor一歩進んで二歩下がる?
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「わぁ、エクレア大好き~」
ソファにポスンと座ったミリーは、目の前に座っているシモンとビリーを無視したままエクレアに手を伸ばした。
「熊は貴腐ワインって飲んだことある?」
「あ? まあ、それなりにな」
「白ワイン用の品種のブドウがなんとかって言う黴に感染して糖度が高くなるんだっけ。んで、香りも良いんだよね~。フォアグラやブルーチーズとか⋯⋯チョコレートも合うんだったはず。飲んでみたいなぁ⋯⋯8歳じゃなきゃ『1本くらいくすねてこい』って言えたのに~。フォアグラだって食べた事ないし~」
「黴に感染した葡萄で出来たワインと青黴の生えたチーズだろ? そう考えると、なんかなぁ」
「⋯⋯ねえ」
「え~! 黴よりフォアグラの作り方の方がエグいじゃん。ガチョウの肝臓を無理矢理肥大化させるんだよ? 動物虐待だよ、美味しいけど。食べた事ないから知らんけど」
「まさか俺に奢れとか言ってんの? 手に入るかって言われりゃなんとかなるけどよお。もしかして、ミリーが俺に貸しを作るってやつか?」
「あの~」
「やだわ~! 高位貴族の金持ち自慢が始まったよぉ。嫌な熊だね~、熊は我儘言わずにどんぐりでも食べてろっての」
「ねえ⋯⋯ねえってば」
「人間って怖えよな。考える事がエゲツないと言うか、貪欲すぎてマジやばい」
「でもでも、その貪欲さがあったからこそ出来たのが貴腐ワインだよ? 収穫許可が遅れたけど諦めないで作ったら、なんと凄いの出来ちゃった的な? そう言うしつこさって好きだなぁ。熊みたいになんでも持ってる奴にはわかんないかもな~。羨まし~、可哀想~、どんぐり食べる?」
「ねえ! 僕、頑張ってきたと思わない!? ご苦労さんとか言いたくなったりしない!? ミリーもレオンも、なんで僕を無視するの!?」
「あれあれぇぇ!? シモンちゃんが拗ねてる~⋯⋯頑張ったでちゅね~。お利口さんでちゅね~。はい、しゅうりょ~。
熊~、この国の物流ってどうなってるの? 輸送は当然馬車でしょ? なら保存方法は? 鮮度とか安全性はどうやって調べてるの? 毒味? やっぱ命掛けて毒味するの?」
「⋯⋯ネイサン、僕の扱いってこれで合ってるんだっけ?」
「しばらくの間は仕方ないかもしれませんね。ミリーさんのご機嫌が治るまで諦めましょう」
「ミリーはぁ、ぷんぷんでちゅかなね~。ぽやっとくんはゆるちゃないでちゅ~。
んでなんだっけ⋯⋯そうそう、ブドウが貴腐化し偶然できあがった貴腐ワインはね『ワインの王にして王のワイン』って絶賛された事があるって知ってる? 知らないよね~。
黄金色に輝く様が金が含まれているかもとかって騒がれて、分析された事もあるんだから、凄いんだよ~」
いつもと同じく筋肉マッチョなレオンが座った椅子がギシギシと鳴り、ソファの真っ中にドカンと座り腕を組んだちっこいミリーの前にはお菓子の乗った大皿がある。
本棚の前にいたイリスは妖艶な笑みを浮かべて目の前で繰り広げられる喜劇を楽しみながら、書類から目を逸らしていたレオンの前に、どんと音を立てて分厚い本を置いた。
「お仕事、頑張って下さいね。ギルド長?」
「お、おう」
ミリーの話に合わせながら様子を伺っていたレオンがハッと我に返ってペンを手にした。
「ミリー⋯⋯勝手に決めて悪かったとは思うけど、そんなに怒る事ないじゃん」
ミリーの前には怒りの元⋯⋯シモンとビリーが座っている。ネイサンはイリスによって部屋の隅に回収済み。
鬱なパーティーの中で自分勝手なジーニア劇場に耐えたビリーは雑木林の権利をもぎ取った。その上、雑木林とビリーに対してラバント子爵家からのあらゆる関与を禁止した契約書にサインもさせた。
契約に関してはシモンは完全勝利で、本当なら祝杯をあげていたはず。
「シモンは私と結んだ契約を覚えているよね? 契約が破られた場合のペナルティも知っていて今回の愚行を犯した。覚悟はできてる?」
ミリーの存在を他に知らしめた場合、シモンは最も高値をつけた人に売り飛ばされる。
「そ、そんな⋯⋯本気じゃないよね! 侯爵家の子息を勝手に売るなんて出来ないよ。それに人身売買は禁止されてる」
「確かに人身売買は禁止されてるけど、法には抜け道があるって平民でも知ってる。今回の場合で言えば、シモンは多額の結納金を払った者の元に婚約者として行くの。その後で夫になるか男妾になるか、売り飛ばされるかは神のみぞ知るって感じかな⋯⋯。
公には縁談って事になるから、法律はシモンを守ってくれない。貴族社会でも平民の中でもよくある事じゃないの」
「そんな!」
「ミリー様、お話の途中ですがよろしいでしょうか」
「よろしくありません。ビリー様のターンはこの後ですから順番をお待ちください」
「しかし⋯⋯どうやら私がここに伺ったせいでとんでもない事になっているようですから、見過ごすわけにはまいりません!」
「ビリー殿」
声を荒げるビリーの名を呼んだレオンが、大きな身体で威圧しながら小さく首を横に振った。
「シモン⋯⋯ビリー様をエスキニアからお連れするなら前もって連絡をするべきだったよね。私との約束を忘れたのは私を侮っていたから、本当に売り飛ばされるとは思ってなかった。契約を甘く見てたら人生詰んでしまうって15歳にもなって甘ちゃん過ぎる。パパとママに助けてもらうつもりでも、正式な契約書にサインをしてるから逃げられないんだよ?」
ミリーと初めて会った頃、欲しい稀覯本の為にシモンは闇金から金を借りようとしていた。
(あの時、本当にお金を借りてたら間違いなく売り飛ばされてた。シモン程の容姿ならどれだけの高値でも買いたいって客がつくのは間違いないもん。そんな事になったらどんな扱いを受けるか想像もしてないから、ぽやっと君って命名されちゃってるんだよ?)
本で読んだ知識ではあるが、売られた少年少女の悲惨な末路はいくつも思い浮かぶ。
見目が良ければ高額で取引され、貴族であればそれ以上の高値がつく。その後は人権などない世界に放り込まれ、心と身体を病んで死んでいくのみ。
真っ青な顔でガタガタと震えるシモンの横でビリーが拳を握りしめていた。
(って、このくらい脅せば少しは気合が入ったかなぁ)
「シモンにはでっかい貸しひとつだからね! 楽しみにしといて。でも、次はないからちゃーんと覚えといてよ。ぽやっと君のチョロすけ君」
ソファにポスンと座ったミリーは、目の前に座っているシモンとビリーを無視したままエクレアに手を伸ばした。
「熊は貴腐ワインって飲んだことある?」
「あ? まあ、それなりにな」
「白ワイン用の品種のブドウがなんとかって言う黴に感染して糖度が高くなるんだっけ。んで、香りも良いんだよね~。フォアグラやブルーチーズとか⋯⋯チョコレートも合うんだったはず。飲んでみたいなぁ⋯⋯8歳じゃなきゃ『1本くらいくすねてこい』って言えたのに~。フォアグラだって食べた事ないし~」
「黴に感染した葡萄で出来たワインと青黴の生えたチーズだろ? そう考えると、なんかなぁ」
「⋯⋯ねえ」
「え~! 黴よりフォアグラの作り方の方がエグいじゃん。ガチョウの肝臓を無理矢理肥大化させるんだよ? 動物虐待だよ、美味しいけど。食べた事ないから知らんけど」
「まさか俺に奢れとか言ってんの? 手に入るかって言われりゃなんとかなるけどよお。もしかして、ミリーが俺に貸しを作るってやつか?」
「あの~」
「やだわ~! 高位貴族の金持ち自慢が始まったよぉ。嫌な熊だね~、熊は我儘言わずにどんぐりでも食べてろっての」
「ねえ⋯⋯ねえってば」
「人間って怖えよな。考える事がエゲツないと言うか、貪欲すぎてマジやばい」
「でもでも、その貪欲さがあったからこそ出来たのが貴腐ワインだよ? 収穫許可が遅れたけど諦めないで作ったら、なんと凄いの出来ちゃった的な? そう言うしつこさって好きだなぁ。熊みたいになんでも持ってる奴にはわかんないかもな~。羨まし~、可哀想~、どんぐり食べる?」
「ねえ! 僕、頑張ってきたと思わない!? ご苦労さんとか言いたくなったりしない!? ミリーもレオンも、なんで僕を無視するの!?」
「あれあれぇぇ!? シモンちゃんが拗ねてる~⋯⋯頑張ったでちゅね~。お利口さんでちゅね~。はい、しゅうりょ~。
熊~、この国の物流ってどうなってるの? 輸送は当然馬車でしょ? なら保存方法は? 鮮度とか安全性はどうやって調べてるの? 毒味? やっぱ命掛けて毒味するの?」
「⋯⋯ネイサン、僕の扱いってこれで合ってるんだっけ?」
「しばらくの間は仕方ないかもしれませんね。ミリーさんのご機嫌が治るまで諦めましょう」
「ミリーはぁ、ぷんぷんでちゅかなね~。ぽやっとくんはゆるちゃないでちゅ~。
んでなんだっけ⋯⋯そうそう、ブドウが貴腐化し偶然できあがった貴腐ワインはね『ワインの王にして王のワイン』って絶賛された事があるって知ってる? 知らないよね~。
黄金色に輝く様が金が含まれているかもとかって騒がれて、分析された事もあるんだから、凄いんだよ~」
いつもと同じく筋肉マッチョなレオンが座った椅子がギシギシと鳴り、ソファの真っ中にドカンと座り腕を組んだちっこいミリーの前にはお菓子の乗った大皿がある。
本棚の前にいたイリスは妖艶な笑みを浮かべて目の前で繰り広げられる喜劇を楽しみながら、書類から目を逸らしていたレオンの前に、どんと音を立てて分厚い本を置いた。
「お仕事、頑張って下さいね。ギルド長?」
「お、おう」
ミリーの話に合わせながら様子を伺っていたレオンがハッと我に返ってペンを手にした。
「ミリー⋯⋯勝手に決めて悪かったとは思うけど、そんなに怒る事ないじゃん」
ミリーの前には怒りの元⋯⋯シモンとビリーが座っている。ネイサンはイリスによって部屋の隅に回収済み。
鬱なパーティーの中で自分勝手なジーニア劇場に耐えたビリーは雑木林の権利をもぎ取った。その上、雑木林とビリーに対してラバント子爵家からのあらゆる関与を禁止した契約書にサインもさせた。
契約に関してはシモンは完全勝利で、本当なら祝杯をあげていたはず。
「シモンは私と結んだ契約を覚えているよね? 契約が破られた場合のペナルティも知っていて今回の愚行を犯した。覚悟はできてる?」
ミリーの存在を他に知らしめた場合、シモンは最も高値をつけた人に売り飛ばされる。
「そ、そんな⋯⋯本気じゃないよね! 侯爵家の子息を勝手に売るなんて出来ないよ。それに人身売買は禁止されてる」
「確かに人身売買は禁止されてるけど、法には抜け道があるって平民でも知ってる。今回の場合で言えば、シモンは多額の結納金を払った者の元に婚約者として行くの。その後で夫になるか男妾になるか、売り飛ばされるかは神のみぞ知るって感じかな⋯⋯。
公には縁談って事になるから、法律はシモンを守ってくれない。貴族社会でも平民の中でもよくある事じゃないの」
「そんな!」
「ミリー様、お話の途中ですがよろしいでしょうか」
「よろしくありません。ビリー様のターンはこの後ですから順番をお待ちください」
「しかし⋯⋯どうやら私がここに伺ったせいでとんでもない事になっているようですから、見過ごすわけにはまいりません!」
「ビリー殿」
声を荒げるビリーの名を呼んだレオンが、大きな身体で威圧しながら小さく首を横に振った。
「シモン⋯⋯ビリー様をエスキニアからお連れするなら前もって連絡をするべきだったよね。私との約束を忘れたのは私を侮っていたから、本当に売り飛ばされるとは思ってなかった。契約を甘く見てたら人生詰んでしまうって15歳にもなって甘ちゃん過ぎる。パパとママに助けてもらうつもりでも、正式な契約書にサインをしてるから逃げられないんだよ?」
ミリーと初めて会った頃、欲しい稀覯本の為にシモンは闇金から金を借りようとしていた。
(あの時、本当にお金を借りてたら間違いなく売り飛ばされてた。シモン程の容姿ならどれだけの高値でも買いたいって客がつくのは間違いないもん。そんな事になったらどんな扱いを受けるか想像もしてないから、ぽやっと君って命名されちゃってるんだよ?)
本で読んだ知識ではあるが、売られた少年少女の悲惨な末路はいくつも思い浮かぶ。
見目が良ければ高額で取引され、貴族であればそれ以上の高値がつく。その後は人権などない世界に放り込まれ、心と身体を病んで死んでいくのみ。
真っ青な顔でガタガタと震えるシモンの横でビリーが拳を握りしめていた。
(って、このくらい脅せば少しは気合が入ったかなぁ)
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