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第五章 良き出会いに乾杯

01.飲んでみたいような飲みたくないような

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「たっだいま~! ミリー、手紙読んだ~? 大・成・功!! 完全勝利に拍手~」

 バーンと音を立ててドアを開けたシモンが両手を広げて部屋に飛び込んできた。

「お帰り! 長旅お疲れ様~。頑張ったシモンには臨時ボーナ⋯⋯」

 部屋の隅に置かれたミリー専用の机⋯⋯子供用の勉強机に向かって次の企画を書き留めていたミリーの笑顔が固まった。

 襟元のボタンを外したシンプルな白いシャツとブーツインしたグレーのズボン、Hバック型のブレイシーズ(サスペンダー)はゴートスキン山羊革のベルトに革のループを付けてボタンに留めるタイプ。少し埃っぽい気がするのは帰国した足でそのままここに来たからだろう。

「で、後ろにいるのはどなたかしら? お会いした事がない方がいらっしゃるみたいだけど、先触れなどは頂いてなかったはずよね」

 冷ややかなイリスの声でシモンの足が止まり、後ろから着いて来ていたビリーとネイサンの足も固まってしまった。

(ヤバい! ビリーの事、連絡してなかったんだっけ? えーっと、えーっと、手紙に書こうとして⋯⋯書こうとして⋯⋯あ、あぁぁぁ! 書いてないぃぃぃ)

 大がかりな共同事業を始める相手だから『もっと詳細に話を詰めたい』と粘られて渋々同行を許可したシモンは、エスキニアから帰ってくる間中様々な質問を浴びせられたが、ほとんど答えられないまま終わった。

(ミリーの存在はシークレットだって覚えてたけど、どうやってビリーを説得しようって悩んでるうちに⋯⋯うっかり忘れちゃってたよ~)



「せっかく大成功して帰ってきたのによお、でっかい貸しを作ったんじゃねえの?」

「今回の貸しは大きすぎて、返すのに一生かかるんじゃないかしら?」

 全員が一斉にミリーの方を見ると『すん』となった顔がシモンを見つめていた。



「えーっと、紹介します。こちらはエスキニア王国のラバント子爵家⋯⋯から籍を抜けたビリー様です。
ビリー、目の前のデカいのが商人ギルドのギルド長レオンで、ブランドール公爵家の次男。それから、レイモンド子爵夫人のイリスはギルド長の秘書⋯⋯だよね。で、その⋯⋯ミ、ミリーは⋯⋯ミリーはそのぉ⋯⋯⋯⋯⋯⋯レオンの隠し⋯⋯子とか」

「⋯⋯んなわけあるかぁぁ!」



「ゴホン⋯⋯大変失礼致しました。初めまして。レオン・ブランドールと申します。堅苦しい事は苦手なので私の事はレオン、彼女達の事もイリスとミリーでお願いします」

 イリスの紹介をすればミリーの事にも言及しなければならなくなる。

 下手な事を言ってミリーに言質を取られれば貸しが増えてしまう。今はシモンが盛大にタゲを取っているので⋯⋯レオンとイリスは『君子危うきに近寄らず』を決め込んだ。

(さらっと流した意味に気付いて忖度してくれ! 頼む)



「ご連絡もせず押しかけてしまい申し訳ありませんでした。ラバントの籍は抜け平民となりましたので、私の事はビリーとお呼び下さい。
新規事業計画についてより詳しく打ち合わせできればと思い、シモンに無理を言って同行させていただきました事を心よりお詫び申し上げます」

「⋯⋯⋯⋯あ、ああ。どうぞソファにお掛け下さい。新規事業計画ですね⋯⋯えーっとそれはですね⋯⋯」

(マズい。俺が知ってる内容なんてシモンと大して変わらねえんだけど。イリスが知ってたり⋯⋯)

 チラッとイリスの顔を伺うと、子爵夫人手ずからお茶の準備を始めていた。

(はしてねえみたいだな。うーん、しかもイリスが無言でお茶の準備をする時はブチギレてる時だし)

 今、ミリーの様子を伺うのは地雷だらけの戦地に素足で踏み込むようなもの。シモンがエスキニア王国に向かった直後にブランドール公爵達がやらかしたせいで、レオンはミリーに頭が上がらない。

(あの時の事をなんにも言わねえのが逆に怖いんだよなぁ。普段のミリーなら『貸しだからね!』とかって意気揚々と叫びそうなのによう)

 レオンの心境を言葉にするなら『虎の尻尾を踏みたくない』



 凍りつくような緊張感の中で無言無表情のミリーは全く関係ない事を考えていた。

(この国ではサスペンダーじゃなくてブレイシーズって言うんだっけ。あれってH型からX型になってY型に変わるんだよね。私的にはY型が一番かっこいいと思うんだよなぁ⋯⋯シオンのY型を売り出したら売れるかな? 皮なめしと服飾のギルドとコラボしたら結構売れるんじゃないかな? 後でイリスに聞いてみよう)

 手持ちの資金を増やしたいミリーは、新規企画の覚え書きに『Y型ブレイシーズ』と書き込んだ。



 怒っていると示す為にイリスが淹れた、非常に美味しいが途轍もなく胃の痛くなるお茶を黙々と飲む男4人。

 静まり返った部屋にイリスが本のページを捲る音と、ミリーの持つペンが紙の上を滑る音だけが響いていた。

(ビリー様が付いてくるのは想定済みだったけど、まさか直接ここに連れてくるとは思わなかったなぁ。さっき普通に話してたのを見られたから、お子ちゃまバージョンは使えないし⋯⋯どうしようかなあ)

 実里からすれば15歳のシモンは子供どころか孫のような感じで、可愛くて仕方ないけれど危なっかしくてハラハラする。

(そろそろかなぁ⋯⋯もう少しシモンを締めといた方が良いかなぁ。シモンって警戒心が薄すぎるから心配なんだよね)



「イリス~、ちょっぴりお腹空いたからお菓子食べたいなぁ。おねだりしても良い?」

「マドレーヌとエクレアはどうかしら?」

 空気を読んだイリスがお茶とお菓子をソファの前にあるローテーブルに運んで来た。

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