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第四章 ご利用は計画的に

29.夢を掴む者と残される者

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「そんな場所が欲しいとか、なんか裏があるんじゃないか。お前が大人しく木こりだの炭焼きだのする姿が想像できねえんだが?」

 話の重大さに誰も気づいていないが、トールの言葉遣いが時折乱れて平民のようになるのはそれが素だからだろうか。

「そうよ! 今までは使用人に傅かれて優雅に暮らしていたのに、突然木こりになるなんて出来るわけがないじゃない! わたく⋯⋯家族や領民を捨てて自分勝手に野垂れ死ぬのがあなたの願いだとでも言うの!?」

「野垂れ⋯⋯それほど悪くない人生になりそうな気がしてるんですが⋯⋯貧乏暇なし、時々休憩⋯⋯みたいな」

 破滅すると決めつけているジーニア達の言葉に苦笑いを浮かべたビリーの横で、招待客達が吹き出した。

「ビリーなら『時々休憩』とやらをやれるかもしれんぞ?」

「いつだったか⋯⋯農民達と一緒になって泥まみれになってたわね」

「ミミズを見つけて大泣きしたのは何歳の時だったかなぁ」


「ミミズって⋯⋯あれは3歳くらいだったんじゃないですかね。今ではミミズは非常に有益だと知ってますから、見つけたら感謝して土に戻していますよ。
それは兎も角として呑気な独身ですから、小さな畑を作って野兎を探して⋯⋯切った木で火を起こして『悠々自適』に暮らすのも悪くないかと。
有効利用できそうにない林なら隠遁生活には向いてそうですし、子爵家にとって資産価値なしと判定された場所なら遠慮せず譲渡を願い出られます。
それに近くにある小さな村に実験的にとうもろこしを植えていますが、それ以外にも有用な農作物が育たないか研究出来たらいいとか。まあ、取り敢えず生活には困らない気がすると言うのが本音ですが、私がどんな暮らしをするのかについては一切口を挟まないでいただきたいのです」

 あくまでも『今は』無価値の林だから欲しがっても文句は言われないと思っているフリで話を続けた。のんびり暮らしたいのがビリーの最大の願いで、細々と隠遁生活を送れれば良いと思っている⋯⋯ビリーの話ぶりで誰もがそう信じ込んだ。

(悠々自適だなんて、ジーニア達に酷使され過ぎて疲れ果てたのかしら)

(子供の頃、学者になりたいと言っておったなぁ。あの頃の夢を思い出したのか?)



「ふーん、研究ねぇ。どうせ惨めな貧乏暮らしになるって分かりきってるのに、口を挟む気はないけどよぉ」

(父上でさえ開墾を諦めたんなら問題はないのかもな。法律を盾にしてもっと金になるものを欲しがられても面倒だしなぁ。でも、ビリーがいなくなったら領地に戻れって言われそうだし⋯⋯)

「⋯⋯雑木林の件については、母上が使えないって言ってんなら良いんじゃねえか? その代わり後からもっと寄越せとか別の物も欲しいとか言っても聞かんからな」

「勿論です。遺産相続についてはこれ以上望みません。ですが後ひとつ⋯⋯セルジオに領主代行の権限を与えて下さい。いずれにしてもセルジオは亡き父上の遺言で『永代において家令を命ずる』とされたパウエル家の当主ですから、このままラバント子爵家に仕えてくれるはずですが。
領民への連絡や商人達との折衝を『領主代行』がやってきましたから、突然いなくなれば不安になる人もいるかもしれませんが、家令として知られているセルジオが『領主代行』として顔を出せばトラブルは避けられるのではないかと思います。私も安心してここを出ていけますし。
その代わりに私は、価値なしと言われている雑木林以外には何も要求しないとお約束します」

 ジーニアとトールは『ビリーは働いていない』といつも口にはするが、実際はビリー達の仕事内容など全く分かっていない。領主と領主代行と家令の違いなど考えた事もなく、権限の違いは法的責任を伴うと気付いていない。

(何年もの間守り続けた領地と領民を守る為に、セルジオの地位をより堅固にしておきたいんだ。兄上に任せたらあっという間に破産して、領民達が路頭に迷う事になるのは間違いない)

 ヘイリーの突然死で引き継ぎもなく領主になったのは不運だったのかもしれないが、ヘイリーが存命の頃に嫡子としての勉強から逃げ続けていたトールの責任でもある。

 長子が爵位を継ぐと法で決められている事に胡座をかき、棚ぼたを狙って遊び呆けていたトールに不安を感じていたヘイリーが、将来を託したのはセルジオだった。

『法改正がなされないうちに私にもしものことがあれば、子爵家はお前に頼む』

『トールが爵位を継いでも、ビリーは領地や領民を見捨てられないだろう。ジーニアとトールに利用されて一生を終わらせるわけにはいかんのだ。どうかビリーを守って欲しい』



 領主代行であれば領主が不在の間、その権限を委任され領地全体の統治や管理を行う「代理人」的な役割を行える。領主がセルジオを正式な領主代行として認めてしまえば、働く気も考える頭もないトールを言いくるめることなど簡単に出来る。

(領主代行になれば家令としての立場よりも権限が強く広範囲になる。王都にいる兄上や前領主夫人である母上にも強く出られる)

「では、契約書の内容をご確認下さい。問題がなければ母上と兄上のサインをお願いします」

「ちょっと待って! もう契約書を作っているの!?」

「えぇぇ! もう契約書作ってんのかよ!」

「はい。兄上が王都に帰られる前にサインしていただきたいと思っていましたので」







「⋯⋯あの虫に毒があるって、ネイサンは知ってた?」

「いえ、ミリー様はご存知だったんじゃないですかね」



  《 第四章 完 》
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