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第四章 ご利用は計画的に

28.崖っぷちで悪あがき

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「ちょ、ちょっと待って下さい! 俺はまだ! 俺のアパートメントにビリーを住まわせるなんで冗談じゃない! 王都でまだやる事があるのに、突然帰って来いだなんて横暴だ!!」

(クソ真面目なビリーと同居なんてしたら、女を連れ込めなくなるじゃないか! その前に、溜め込んでる借用書やら督促状なんかを見つけられたら⋯⋯)

 王都での自堕落な暮らしを捨てるなんてとんでもないと慌てふためくトール。好きな時に好きなだけ酒を飲み、気に入った女を気分次第で宿やアパートメントに連れ込み、掛け金を気にせずカジノに通う。

 母親が喜びそうな話を適当に捻り出して手紙に書けば、領地から資金が送られてくる。何年もそんな生活をしているトールもいずれは領地に帰るつもりではいた⋯⋯遊び飽きて身を固める気になったら。

(ビリーのいない領地に戻って領地経営をするなんて、牢に入れられるのと同じじゃないか! しかも手のかかるババアジーニアが漏れなくセットでついてくるんだぞ? そんなの生き地獄じゃねえか)



「安心して下さい。私は王都には行くつもりも兄上のアパートメントに居候するつもりもありませんから」

「で、でも⋯⋯ここを出て行くって言ったじゃないか!」

「少し前から考えてはいたのですが、ラバント子爵家の領地経営から手を引き、平民のビリーとして暮らして行こうかと。
これ以上の話はパーティーの為に来てくださった皆様の前でする内容ではありませんし、詳しい話は場所を変えて話させて下さい。後ほど時間をいただ⋯⋯」

 怒りに震えるジーニアと慌てふためくトールは聞く耳を持たない。

「王都にも行かず仕事もしないだなんて、本当に農民になるつもりだと言うの!?」

(わたくしの言う事を聞かないなんて信じられないわ! トールが王都にいてビリーがいなくなったら誰がわたくしの生活を支えるの!? ドレスやアクセサリーを買うお金は誰が稼ぐと言うの!?)


「考えていたって⋯⋯俺達を見捨てるつもりだっただと言いたいのか!? 領主代理にしてやったのに、農民の方が良いとでも!?」

(ビリーがいなくなったら誰が金を作るんだよ! 王都での暮らしにどれだけ金がかかるか⋯⋯それに、ババアの世話なんかしてられるか!)

「わたくしを見捨てるの!?」
「俺様を見捨てるのか!?」



「⋯⋯農民を卑下しているわけではありませんが、別の仕事を⋯⋯木こりになろうかと考えています」

「⋯⋯木こりですって!?」
「⋯⋯木こりだと!?」

「この国では財産等に対して子供からの請求権を認めていますが、この場合の財産等とは現金だけでなく、有形無形に拘らないと明記されているのはご存知だと思います。
そこで、モラヴィアス王国との国境近くにある雑木林を父上からの遺産としていただきたいのです」

(そういやあ、そんな権利があるって聞いた事があったような⋯⋯えーっと、誰だっけ。権利を放棄させとかないと後々面倒なことになるとか⋯⋯。ビリーの奴が何も言わねえからすっかり忘れてた)



「国境近くの雑木林って⋯⋯そんなものあったか?」

「いつの時代からかわからないほど放置されている雑木林なので、知らないのも当然ですね。でも、木を切り炭を焼いてのんびり暮らすにはちょうど良いのではないかと考えています」

 役に立たない林ひとつで済むならラッキーな気がするが、疑り深いトールはすんなりと首を縦に振る気にならなかった。


「⋯⋯あの雑木林なら覚えてるわ。季節によって紅葉する木が綺麗だったから別荘を建てたいってヘイリーにお願いしたのだけど、毒のある虫が凄くて諦めたの。
開墾して畑にするのも駄目だったってヘイリーが言っていたわ。そんな物を領主代行の地位と交換したいなんて頭がどうかしたんじゃない?」

 畑を増やせば領の収益は上がり、必要以上に税を上げる必要がない。新たな畑の候補地の一つとして挙げられた雑木林だったが、調査の結果には『農地としての適性なし』と記載されている。

 シモンの話を完全に信じたわけではないビリーだが、今の立場を捨てて可能性に賭けてみたいと思わせるだけの説得力はあった。

 何よりもビリーの心を動かしたシオンの言葉は⋯⋯。



『あ、兄君に言われるまま資金を送っておられるビ、ビリー様はその⋯⋯彼等資金援助しているのと同じ事になりはしませんか?』



 シモンの言う『彼等』とは先王の代から王宮内に蔓延る長老達の事。エスキニア王国で古くから続いていた貴族至上主義の理念を今もなお堂々と掲げる老害達は、平民は人ではなく貴族に隷属する為に生かされているとまで言い放つ。

 奴隷制を排除する為に奔走した先王を嘲笑い、己の立場を保持し富を集める為であれば平然と悪事に手を染め、議会を金で操ろうとする。

 平民の自給率向上・物価の安定・他国との不平等な条約や関税の見直し等々⋯⋯革新を求めている新国王は彼等に足を引っ張られ続けている。

(兄上が媚び諂っているのは陛下の政を邪魔する者達だと忌々しく思っていたのに⋯⋯)

 秘密裏にビリーが進めてきた河川貿易の目処が立ち始めた事も、子爵家を離れる決断が出来た事のひとつにある。

 雑木林から切り出された木材がどれほどの価値を生み出すのかは調査しなければ不明だが、それを隠れ蓑にすればより多くの時間を河川貿易に割ける。



「そんな場所が欲しいとか、なんか裏があるんじゃないか。お前が大人しく木こりだの炭焼きだのする姿が想像できねえんだが?」

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