病弱設定されているようです

との

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第四章 ご利用は計画的に

12.仲良く喧嘩しな🎵

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「栄養が足りとらんと⋯⋯そりゃ、見ての通りの貧乏村やし、食べもんもそげになかとやもんで⋯⋯んでもとうもろこしを食って皮膚病とか聞いた事なかですわい」

「とうもろこしが悪いわけではないんですが、以前主食にしていた雑穀とは違って料理する前にやらなきゃいけない事があって、それを知らないと今回のような症状が出る事があるらしいんです」

「やらにゃならんと? 代行様からはなんも聞いとらんとよ⋯⋯代行様はいーつもワシらを気にかけて下さるええお方やで、ワシらを病気にするようなお方ではなかよ」

 尊敬する領主代行を貶されたと勘違いした村長が不満げに鼻を鳴らし、部屋の隅に控えていた村長の妻がシモンを睨みつけた。

「顔を隠したまんまのこん男に代行様の事をわるう言われるのは我慢できんとよね! 代行様はワシら貧乏人の救世主じゃ言われとるとよ!」

「領主代行様が悪いわけではなくて、この国ではとうもろこし自体がまだ新しい食材だからご存知ないだけだと思うんです」

 情報源はどこで仕入れたのか分からないミリーの知識だけ⋯⋯それしか持ち合わせていないシモンとネイサンは、村長達を説得しようとしつつも正直に言えば『半信半疑』の状態でしかない。

(でも、ミリーの手紙の内容は理にかなってる。無意味な事だったとしてもこれ以上悪くなることはないから、試してみる価値はあると思うんだ)

 シモン達が運んで来た干し肉などを差し出すと村長は途端に顔を顰めた。

「そったらモンを出されてもワシらには金がなかとよ。話がそれだけなら⋯⋯」

「これは今夜の宿代だと思って受け取って下さい。皆さんの栄養不足は間違いないし、とうもろこしが関係なかったとしても健康の為に食べる食材を増やすのは良い事だと思うんです。
今後は消石灰や木灰などを溶かした水の上澄みにとうもろこしの粒を漬け込んでおいてから調理するようにして下さい」

「食料にするのはその後⋯⋯アク抜きするとね。あげな食べもんにアクがあるとは思えんとやけどねえ」

 とうもろこしの栽培が拡大し雑穀から切り替えられ主食として用いられるようになってきたが、元々とうもろこしを主食にしていた国では普通に行われていたこの作業が伝わっていなかった。そのせいでペラグラと言うこの病は貧困層に多くの被害者を出している。

(食に困らない富裕層には縁のないこんな病気が、対応策を知らない人達をどれほど苦しめてるんだろう。我が国でも多分⋯⋯)

「効果があったと思えたら領主代行様に伝えて下さいませんか? 同じ症状で悩んでいる人達の所に牛や鶏を増やせるかもしれません」

 ペラグラは体力のない女性や子供から発症する事が多い。本当に領民の事を考えている領主代行ならきっと何らかの手を打つはず⋯⋯。





 翌朝、日の出とともに出発しようとしていたシモン達の所に、村長夫婦と見知らぬ男が数人やって来た。

「こん男の嫁が一番症状が重いで⋯⋯挨拶したいと言うとっとやけん」

「あの⋯⋯正直、信じてええか分からんと。けど、少しでも何とかなってくれたら⋯⋯こまい子がおりまして、そん子も顔やらボロボロになっとっと。教えてもろうて感謝しとっと⋯⋯です」

「少しでも症状が軽くなっていく事を祈っています」


 これは皮膚病みたいな感染する病ではないとミリーの手紙には明言されていた。それを心から信じられるなら、憔悴し切った男達に伝えたい言葉があった。


《お子さんや奥様の側に行っても大丈夫ですよ⋯⋯側にいて励ましてあげて下さい》



 次の町か村に着いて食料を手に入れられたら、この村宛に送ろうと決めたシモンは馬車のステップに足をかけた。

「にいちゃん、これあげゆ~」

 振り返った先には白い小さな花の束を持った少女がいた。顔を薄汚れた布で包み、目だけが見えているのは発疹が出ているからだろう。

「かあちゃんね、ずーっとねとっとやけど⋯⋯げんきなる?」

「うん、みんなで元気にな~れって言ってあげようね」

「これ、ちれいやね。おひめさんみたい」

 かがみ込んで花を受け取ろうとしたシモンのストールに少女が手を触れ⋯⋯。



「うわぁ! ほんまもんのおひめさんやぁ」

「⋯⋯天使さまやったと?」

 滑り落ちたストールの中から現れたのは、朝日に光り輝くハニーブロンドと、柔らかな笑顔を浮かべながらもどこか憂いを感じさせるこの世のものとは思えない美貌。

 居合わせた村人達全員が一斉に膝をつき、両手を合わせて涙を流し始めた。

「ひぃっ! や、やめて下さいぃぃ。か、か、勘違いですからぁぁぁ」


 手持ちの食料を全て村に寄付したせいで朝食にありつけなかったシモンが空腹に耐えている様子が、一般ピープルには『病に心を痛める天使』に見えていた。

(シモン様はお腹の虫が騒がないように耐えてるだけなのに、また勘違いされてますよ~)

「この方の事は他言無用でお願いします。そのお礼にまた食料をお届けするとお約束致しますので」

 ラバント領の端にある村で原因不明の病に苦しんでいた村人達が健康を取り戻したのは⋯⋯天界から舞い降りた天使と眷属から賜った『神のお告げ』だと国中に広まるのはまだかなり先の話である。






 グクゥ⋯⋯キュルル⋯⋯

「はぁ、お腹減ったねえ。町はまだ見えない?」

「林檎とかオレンジとか⋯⋯一つくらい残しておけば良かったんですよ。ぜーんぶあげようねって言い出したシモン様のせいなんですから、文句言わずに我慢して下さい! 私だって腹ペコなんですからね」

「ねえ、たんぽぽって食べられるの?」

「知るわけないじゃないですか!」

 その頃、天使シモン眷属ネイサンは今日も仲良く喧嘩していた。

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