病弱設定されているようです

との

文字の大きさ
67 / 145
第四章 ご利用は計画的に

25.頼る相手を間違えた他力本願

しおりを挟む
 部屋の端に並んだ長テーブルには様々な料理が並べられ、気に入った品を選ぶビュッフェスタイル。客の一人一人からメイド達が注文を聞いて料理を取り分け、カトラリーが準備されたテーブルに運んで行く。

 椅子に座った客達は白葡萄で作られる貴腐ワインの独特な芳香を楽しみ、光に翳して黄金色に輝く様を楽しんだ。

「うーん、これは⋯⋯想像していたよりも甘いな。気を付けていないと飲み過ぎてしまいそうだよ」

「本当に。デザートワインや食前酒にお勧めと言われるのは納得ですわね。香りは⋯⋯蜂蜜に似ているのかしら」

「⋯⋯フォアグラに合うね。いやぁ、話には聞いていたがこんなに美味しいとは」

「美味しいのは間違いないのだけど、何故オススメがフォアグラなのかしら。どなたかご存知?」

「貴腐ワインの濃厚な甘みとフォアグラのねっとりとした脂の甘みが、濃厚な味わいを引き立て合うと言われておりましたね。どうやって入手したのか、ビリー殿の手腕に最敬礼したい思いですよ」

 婦人の問いかけに答えたのは長年ビリーと懇意にしている商人で、入手ルートがないこの国でも情報収集だけは欠かさない。

 パーティーが落ち着いた頃を見計らってビリーを問い詰める気満々でいる。

「フォアグラの産地と貴腐ワインの産地が同じ地域なことが多いからと言うのもあるでしょうね。『マリアージュの原則』でしたか。
こうして味わってみると、なんとしてでもこの国に輸入出来るようにしたいものです」

 マリアージュの原則とは、ワインと料理を組み合わせる際にそれぞれの味わいや特徴の「調和と対比」を意識して、美味しさを最大限に引き出すための考え方。

「うむ、確かにかなり甘い。甘いのは苦手な筈なんだが本当に美味い」

 稀少なワインと高級なフォアグラのお陰で、トールのやらかしやジーニアの一人劇場で盛り下がっていた場に笑顔と会話が戻ってきた。





 ビリーが話をしている年配の夫妻は親戚らしく、笑顔を浮かべた顔からはビリーへの信頼や愛情が滲み出していた。その近くに座っている商人らしい男達は、貴腐ワインの入手ルートを聞き出そうと張り切っているように見えた。

「1年ぶりだが元気にしているようで安心したよ」

「叔母上と叔父上もご健勝のようで⋯⋯」


「いや~、こんな珍しい品をどこから入手したのか是非お聞きしたいですなぁ」

「花祭りの屋台でも驚きましたよ。飴細工は王都でも見た事がない筈です」



 ビリーを中心に盛り上がる親戚や商人達を忌々しげに睨みつけたジーニアは、ソファの背にもたれて両足を投げ出して座るトールを見て溜め息を吐いた。

(トールの側にいるのは王都から連れてきた下品で無作法な友人だけ。役に立つかもって思ってたのに、時間を無駄にしただけじゃないの! もっと早くにトールを切り捨てられれば良かったのに)

「なあなあ、それってすっげえ珍しいワインだろ~? グラスなんてケチくさい事を言わずにボトルで持ってこいよ」

 山のように料理を盛った皿を使用人に運ばせ、稀少なワインをがぶ飲みする者達の顔は日々の淫蕩な暮らしのせいで土気色をしている。

「フォアグラ、美味え! マジ最っ高!」

「俺っちのグラスが、空なんだけど~! おーい、逃げないでご領主様が呼んだ大切な大切なお客様の俺達にお酌くらいしていけよお」

 高価な料理を食い散らかして下卑た笑いを浮かべ、グラスを傾ける者の向かいに座っていた男が、危険回避の為に部屋から出ようとしていたメイド達を大声で呼び止めた。

「今年は特に酷いわね」

「アレをこのままのさばらせておくのは⋯⋯」

「ヘイリー様はなんでアレを廃嫡しておかなかったのか不思議でならん」


(トールの友人は年々質が落ちていくばかりだわ。一度もわたくしの役に立てていないし、やっぱりトールはもう切り捨てるしかないのかしら。でも⋯⋯その後はどうしよう。
花祭りに来るのなんて薄鈍の田舎者ばかりで、王都への伝手を作れる人はいなさそうだし)

 王都へ顔を出す勇気を出さない限りトールの手綱を締めるわけにはいかないジーニアだが、そろそろ限界がきていると認めざるを得なくなってきた。

(みんなが羨むような殿方が、わたくしを求めて遠路はるばるやってきたって言うシチュエーションが素敵だと思ってたのに、トールが役に立たないんじゃどうにもならないじゃないの。
それにしても、誰もわたくしの事を気にかけないなんて)

 ビリーのいる辺りから楽しそうな笑い声が聞こえてくるたびにジーニアの眉間に皺が寄り、トールの近くから下卑た叫び声が聞こえるたびにジーニアの持つ扇子がピキピキと音を立てた。

「お、奥様⋯⋯何かお持ちしますか?」

「今回のパーティーの主役である奥様を無視して盛り上がるだなんて信じられません」

(ヤバいヤバい⋯⋯このままじゃ、後で癇癪をおこされちゃうじゃない!)

(トール様は仕方ないけど、ビリー様は何をしてるのよ!? いつもみたいに奥様のご機嫌をとってくれなくちゃ困るんだけど)



 テーブルの端でチマチマと料理を口にしていたシモンとネイサンの耳に客人の声が聞こえてきた。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

きんもくせい
恋愛
リルベール侯爵家に嫁いできた子爵令嬢、ナタリーは、最初は純朴そうな少女だった。積極的に雑事をこなし、兄と仲睦まじく話す彼女は、徐々に家族に受け入れられ、気に入られていく。しかし、主人公のソフィアに対しては冷たく、嫌がらせばかりをしてくる。初めは些細なものだったが、それらのいじめは日々悪化していき、痺れを切らしたソフィアは、両家の食事会で……

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

処理中です...