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第四章 ご利用は計画的に
24.飲み過ぎとやり過ぎには注意が必要
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「何をしているの!? 従者ではなくトールを部屋に運んで医者に手当をさせなさい!
あぁ、やっぱり⋯⋯もしかしたらと思ってはいたけれど、やっぱり⋯⋯ビリー、あなたは若くして爵位を継いだトールが憎いのね。だから今回も従者を優先して⋯⋯」
酔っ払いがたった一段の段差で足を踏み外した⋯⋯その程度の出来事で我を忘れて泣き叫んでしまったのは、ジーニアの心の傷が過剰反応を引き起こしたのか。不安そうな顔が招待客の中にちらほらと見受けられる。
「いや~、注目を浴びたいだけだよね。ジーニア様は過去にやりすぎて大失敗したのに⋯⋯年をとってもここまで変わらないってある意味凄いなあ」
自身の母親のせいで社交界に巣食う魑魅魍魎に嫌気がさしているシモンの呟きがネイサンに漏れ聞こえてきた。
「ビリーはいつだって家族より他の者達の事ばかり。でも、トールはあなたのたった1人のお兄様なの。トールが自分の領地に帰って来ないのは何も継げないビリーが自由に暮らせるようにと⋯⋯そうでなければあんなにお酒を飲んだりはしないのに⋯⋯。ビリーが何も継げなかったのはわたくしやトールのせいじゃなくて、ヘイリーが決めた事なのに」
使用人や領民達からの人望が厚いビリーだが、たまにしか会わない招待客達には分からない事があり、普段からジーニアやトールを蔑ろにしていると思わせたいのだろう。
トールが領地に帰らず王都で遊んでばかりなのも、お酒を飲み過ぎるのも家族を冷遇するビリーのせい。領主になったのに弟に実権を握られ家にも帰れない。その悔しさでトールはヤケになっているだけ。
トールの悪評の大元はビリー。人前では見せないビリーの自分勝手な行動がトールを追い詰め自暴自棄になっている。
いつも近くにいる使用人達はジーニアのそんな言葉を信じていないが、滅多に顔を合わせない招待客達の中には『もしかして』と言う気持ちが生まれた者もいるようで、トールとビリーの顔を見比べていた。
「嫡子を厭う次男と言うのはよくある話ですわね⋯⋯」
「ヘイリーはビリーの事を信頼していたと思っていたのに⋯⋯」
思慮深かったヘイリーが全てをトールに継がせようとしたのなら何か理由があったのだろうか。真面目で誠実に見えていたビリーには自分達の知らない一面が隠されているのかも。
疑心暗鬼に囚われ始めた者の目が訝しげにビリーを見つめた。
「⋯⋯兄上に聞いてみてはいかがですか? 痛みがあればすぐに別室で医者の診察を受けてもらいますから。兄上、お加減はいかがですか?」
「は? あ、あれくらいなんともないに決まってるだろ! 足を滑らせたのは俺様じゃなくって、役立たずの従者だしよぉ」
(あぁ、もう⋯⋯煩いわね! せっかくいい雰囲気になってきたのに、役に立たないその口を閉じてなさいよ! トールもビリーも今日に限ってわたくしの言うことを聞かないのはなんでよ!?)
今演じるべきなのは⋯⋯心配する気弱で優しい母か、気になりながらも気丈に振る舞う母なのか。
「でもね、お医者様に診ていただいた方が良いと思うの。心配なんですもの」
前者を選びしつこくトールを心配するフリをしたジーニアだったが、その態度に不信感を抱く者が出始めた。
「ちょっと足を踏み外しただけで心配しすぎじゃないか?」
「気鬱って聞いてたけど、ちょっとヤバくないか?」
「ちょっと無様にこけただけなのに」
「そんな、あんまりですわ。わたくしはトールの事が心配で⋯⋯でも⋯⋯でも、皆様がそう仰られるなら⋯⋯せっかくわたくしの為に集まっていただいたんですもの。パーティーを続ける事に致しましょう」
気弱な母親のフリで無様な醜態を晒したトールを追い出そうとしていたが、引き際を見誤ったと気付いて話を切り替えた。
「ビリー、今日の為に用意したワインを早くお出しして頂戴。折角お越しくださった皆様のお手元にグラスさえ届いていないなんて⋯⋯いつまで経っても心配ばかりかける息子達で⋯⋯本当に申し訳なく思いますわ」
ハラリと落ちかけていた髪に手を遣り、ジーニアは儚げな笑みを浮かべた。
酒に酔って粗相をしでかしたうっかり者の長男と、田舎者で朴念仁な次男に心を痛める母親を演じようとしているらしい。
「皆様、今日はわたくしの為に貴重なお時間をいただき本当にありがとうございます。怪我と言う言葉を聞くだけでヘイリーの事を思い出してしまって、大袈裟にし過ぎたみたいですわ。
わたくしは少し眩暈が⋯⋯失礼して椅子に座らせていただけるかしら。心ばかりのおもてなしを準備致しておりますので、皆様だけでもどうか楽しんで下さいませ」
心に大きな傷を持つ儚げな夫人と言う設定を参加者に思い出させるように、顳顬に手を当てたジーニアは従者の運んで来た椅子にそっと腰を下ろした。
「舞台で言うなら一幕が終わった感じ?」
「これが舞台なら演出家は廃業した方が良いんじゃないですかね」
シモンとネイサンが顔を見合わせて小さく肩をすくめた。
ビリーの合図でメイド達がワインの入ったグラスを運んで来た。
「貴腐ワインです。フォアグラのテリーヌもあちらのテーブルにございますので、宜しければご一緒にどうぞ」
「まあ! 貴腐ワインですって?」
「乾杯などは母の体調が整い次第と考えておりますので、どうぞ遠慮なくお召し上がりください」
あぁ、やっぱり⋯⋯もしかしたらと思ってはいたけれど、やっぱり⋯⋯ビリー、あなたは若くして爵位を継いだトールが憎いのね。だから今回も従者を優先して⋯⋯」
酔っ払いがたった一段の段差で足を踏み外した⋯⋯その程度の出来事で我を忘れて泣き叫んでしまったのは、ジーニアの心の傷が過剰反応を引き起こしたのか。不安そうな顔が招待客の中にちらほらと見受けられる。
「いや~、注目を浴びたいだけだよね。ジーニア様は過去にやりすぎて大失敗したのに⋯⋯年をとってもここまで変わらないってある意味凄いなあ」
自身の母親のせいで社交界に巣食う魑魅魍魎に嫌気がさしているシモンの呟きがネイサンに漏れ聞こえてきた。
「ビリーはいつだって家族より他の者達の事ばかり。でも、トールはあなたのたった1人のお兄様なの。トールが自分の領地に帰って来ないのは何も継げないビリーが自由に暮らせるようにと⋯⋯そうでなければあんなにお酒を飲んだりはしないのに⋯⋯。ビリーが何も継げなかったのはわたくしやトールのせいじゃなくて、ヘイリーが決めた事なのに」
使用人や領民達からの人望が厚いビリーだが、たまにしか会わない招待客達には分からない事があり、普段からジーニアやトールを蔑ろにしていると思わせたいのだろう。
トールが領地に帰らず王都で遊んでばかりなのも、お酒を飲み過ぎるのも家族を冷遇するビリーのせい。領主になったのに弟に実権を握られ家にも帰れない。その悔しさでトールはヤケになっているだけ。
トールの悪評の大元はビリー。人前では見せないビリーの自分勝手な行動がトールを追い詰め自暴自棄になっている。
いつも近くにいる使用人達はジーニアのそんな言葉を信じていないが、滅多に顔を合わせない招待客達の中には『もしかして』と言う気持ちが生まれた者もいるようで、トールとビリーの顔を見比べていた。
「嫡子を厭う次男と言うのはよくある話ですわね⋯⋯」
「ヘイリーはビリーの事を信頼していたと思っていたのに⋯⋯」
思慮深かったヘイリーが全てをトールに継がせようとしたのなら何か理由があったのだろうか。真面目で誠実に見えていたビリーには自分達の知らない一面が隠されているのかも。
疑心暗鬼に囚われ始めた者の目が訝しげにビリーを見つめた。
「⋯⋯兄上に聞いてみてはいかがですか? 痛みがあればすぐに別室で医者の診察を受けてもらいますから。兄上、お加減はいかがですか?」
「は? あ、あれくらいなんともないに決まってるだろ! 足を滑らせたのは俺様じゃなくって、役立たずの従者だしよぉ」
(あぁ、もう⋯⋯煩いわね! せっかくいい雰囲気になってきたのに、役に立たないその口を閉じてなさいよ! トールもビリーも今日に限ってわたくしの言うことを聞かないのはなんでよ!?)
今演じるべきなのは⋯⋯心配する気弱で優しい母か、気になりながらも気丈に振る舞う母なのか。
「でもね、お医者様に診ていただいた方が良いと思うの。心配なんですもの」
前者を選びしつこくトールを心配するフリをしたジーニアだったが、その態度に不信感を抱く者が出始めた。
「ちょっと足を踏み外しただけで心配しすぎじゃないか?」
「気鬱って聞いてたけど、ちょっとヤバくないか?」
「ちょっと無様にこけただけなのに」
「そんな、あんまりですわ。わたくしはトールの事が心配で⋯⋯でも⋯⋯でも、皆様がそう仰られるなら⋯⋯せっかくわたくしの為に集まっていただいたんですもの。パーティーを続ける事に致しましょう」
気弱な母親のフリで無様な醜態を晒したトールを追い出そうとしていたが、引き際を見誤ったと気付いて話を切り替えた。
「ビリー、今日の為に用意したワインを早くお出しして頂戴。折角お越しくださった皆様のお手元にグラスさえ届いていないなんて⋯⋯いつまで経っても心配ばかりかける息子達で⋯⋯本当に申し訳なく思いますわ」
ハラリと落ちかけていた髪に手を遣り、ジーニアは儚げな笑みを浮かべた。
酒に酔って粗相をしでかしたうっかり者の長男と、田舎者で朴念仁な次男に心を痛める母親を演じようとしているらしい。
「皆様、今日はわたくしの為に貴重なお時間をいただき本当にありがとうございます。怪我と言う言葉を聞くだけでヘイリーの事を思い出してしまって、大袈裟にし過ぎたみたいですわ。
わたくしは少し眩暈が⋯⋯失礼して椅子に座らせていただけるかしら。心ばかりのおもてなしを準備致しておりますので、皆様だけでもどうか楽しんで下さいませ」
心に大きな傷を持つ儚げな夫人と言う設定を参加者に思い出させるように、顳顬に手を当てたジーニアは従者の運んで来た椅子にそっと腰を下ろした。
「舞台で言うなら一幕が終わった感じ?」
「これが舞台なら演出家は廃業した方が良いんじゃないですかね」
シモンとネイサンが顔を見合わせて小さく肩をすくめた。
ビリーの合図でメイド達がワインの入ったグラスを運んで来た。
「貴腐ワインです。フォアグラのテリーヌもあちらのテーブルにございますので、宜しければご一緒にどうぞ」
「まあ! 貴腐ワインですって?」
「乾杯などは母の体調が整い次第と考えておりますので、どうぞ遠慮なくお召し上がりください」
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