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第四章 ご利用は計画的に
25.頼る相手を間違えた他力本願
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部屋の端に並んだ長テーブルには様々な料理が並べられ、気に入った品を選ぶビュッフェスタイル。客の一人一人からメイド達が注文を聞いて料理を取り分け、カトラリーが準備されたテーブルに運んで行く。
椅子に座った客達は白葡萄で作られる貴腐ワインの独特な芳香を楽しみ、光に翳して黄金色に輝く様を楽しんだ。
「うーん、これは⋯⋯想像していたよりも甘いな。気を付けていないと飲み過ぎてしまいそうだよ」
「本当に。デザートワインや食前酒にお勧めと言われるのは納得ですわね。香りは⋯⋯蜂蜜に似ているのかしら」
「⋯⋯フォアグラに合うね。いやぁ、話には聞いていたがこんなに美味しいとは」
「美味しいのは間違いないのだけど、何故オススメがフォアグラなのかしら。どなたかご存知?」
「貴腐ワインの濃厚な甘みとフォアグラのねっとりとした脂の甘みが、濃厚な味わいを引き立て合うと言われておりましたね。どうやって入手したのか、ビリー殿の手腕に最敬礼したい思いですよ」
婦人の問いかけに答えたのは長年ビリーと懇意にしている商人で、入手ルートがないこの国でも情報収集だけは欠かさない。
パーティーが落ち着いた頃を見計らってビリーを問い詰める気満々でいる。
「フォアグラの産地と貴腐ワインの産地が同じ地域なことが多いからと言うのもあるでしょうね。『マリアージュの原則』でしたか。
こうして味わってみると、なんとしてでもこの国に輸入出来るようにしたいものです」
マリアージュの原則とは、ワインと料理を組み合わせる際にそれぞれの味わいや特徴の「調和と対比」を意識して、美味しさを最大限に引き出すための考え方。
「うむ、確かにかなり甘い。甘いのは苦手な筈なんだが本当に美味い」
稀少なワインと高級なフォアグラのお陰で、トールのやらかしやジーニアの一人劇場で盛り下がっていた場に笑顔と会話が戻ってきた。
ビリーが話をしている年配の夫妻は親戚らしく、笑顔を浮かべた顔からはビリーへの信頼や愛情が滲み出していた。その近くに座っている商人らしい男達は、貴腐ワインの入手ルートを聞き出そうと張り切っているように見えた。
「1年ぶりだが元気にしているようで安心したよ」
「叔母上と叔父上もご健勝のようで⋯⋯」
「いや~、こんな珍しい品をどこから入手したのか是非お聞きしたいですなぁ」
「花祭りの屋台でも驚きましたよ。飴細工は王都でも見た事がない筈です」
ビリーを中心に盛り上がる親戚や商人達を忌々しげに睨みつけたジーニアは、ソファの背にもたれて両足を投げ出して座るトールを見て溜め息を吐いた。
(トールの側にいるのは王都から連れてきた下品で無作法な友人だけ。役に立つかもって思ってたのに、時間を無駄にしただけじゃないの! もっと早くにトールを切り捨てられれば良かったのに)
「なあなあ、それってすっげえ珍しいワインだろ~? グラスなんてケチくさい事を言わずにボトルで持ってこいよ」
山のように料理を盛った皿を使用人に運ばせ、稀少なワインをがぶ飲みする者達の顔は日々の淫蕩な暮らしのせいで土気色をしている。
「フォアグラ、美味え! マジ最っ高!」
「俺っちのグラスが、空なんだけど~! おーい、逃げないでご領主様が呼んだ大切な大切なお客様の俺達にお酌くらいしていけよお」
高価な料理を食い散らかして下卑た笑いを浮かべ、グラスを傾ける者の向かいに座っていた男が、危険回避の為に部屋から出ようとしていたメイド達を大声で呼び止めた。
「今年は特に酷いわね」
「アレをこのままのさばらせておくのは⋯⋯」
「ヘイリー様はなんでアレを廃嫡しておかなかったのか不思議でならん」
(トールの友人は年々質が落ちていくばかりだわ。一度もわたくしの役に立てていないし、やっぱりトールはもう切り捨てるしかないのかしら。でも⋯⋯その後はどうしよう。
花祭りに来るのなんて薄鈍の田舎者ばかりで、王都への伝手を作れる人はいなさそうだし)
王都へ顔を出す勇気を出さない限りトールの手綱を締めるわけにはいかないジーニアだが、そろそろ限界がきていると認めざるを得なくなってきた。
(みんなが羨むような殿方が、わたくしを求めて遠路はるばるやってきたって言うシチュエーションが素敵だと思ってたのに、トールが役に立たないんじゃどうにもならないじゃないの。
それにしても、誰もわたくしの事を気にかけないなんて)
ビリーのいる辺りから楽しそうな笑い声が聞こえてくるたびにジーニアの眉間に皺が寄り、トールの近くから下卑た叫び声が聞こえるたびにジーニアの持つ扇子がピキピキと音を立てた。
「お、奥様⋯⋯何かお持ちしますか?」
「今回のパーティーの主役である奥様を無視して盛り上がるだなんて信じられません」
(ヤバいヤバい⋯⋯このままじゃ、後で癇癪をおこされちゃうじゃない!)
(トール様は仕方ないけど、ビリー様は何をしてるのよ!? いつもみたいに奥様のご機嫌をとってくれなくちゃ困るんだけど)
テーブルの端でチマチマと料理を口にしていたシモンとネイサンの耳に客人の声が聞こえてきた。
椅子に座った客達は白葡萄で作られる貴腐ワインの独特な芳香を楽しみ、光に翳して黄金色に輝く様を楽しんだ。
「うーん、これは⋯⋯想像していたよりも甘いな。気を付けていないと飲み過ぎてしまいそうだよ」
「本当に。デザートワインや食前酒にお勧めと言われるのは納得ですわね。香りは⋯⋯蜂蜜に似ているのかしら」
「⋯⋯フォアグラに合うね。いやぁ、話には聞いていたがこんなに美味しいとは」
「美味しいのは間違いないのだけど、何故オススメがフォアグラなのかしら。どなたかご存知?」
「貴腐ワインの濃厚な甘みとフォアグラのねっとりとした脂の甘みが、濃厚な味わいを引き立て合うと言われておりましたね。どうやって入手したのか、ビリー殿の手腕に最敬礼したい思いですよ」
婦人の問いかけに答えたのは長年ビリーと懇意にしている商人で、入手ルートがないこの国でも情報収集だけは欠かさない。
パーティーが落ち着いた頃を見計らってビリーを問い詰める気満々でいる。
「フォアグラの産地と貴腐ワインの産地が同じ地域なことが多いからと言うのもあるでしょうね。『マリアージュの原則』でしたか。
こうして味わってみると、なんとしてでもこの国に輸入出来るようにしたいものです」
マリアージュの原則とは、ワインと料理を組み合わせる際にそれぞれの味わいや特徴の「調和と対比」を意識して、美味しさを最大限に引き出すための考え方。
「うむ、確かにかなり甘い。甘いのは苦手な筈なんだが本当に美味い」
稀少なワインと高級なフォアグラのお陰で、トールのやらかしやジーニアの一人劇場で盛り下がっていた場に笑顔と会話が戻ってきた。
ビリーが話をしている年配の夫妻は親戚らしく、笑顔を浮かべた顔からはビリーへの信頼や愛情が滲み出していた。その近くに座っている商人らしい男達は、貴腐ワインの入手ルートを聞き出そうと張り切っているように見えた。
「1年ぶりだが元気にしているようで安心したよ」
「叔母上と叔父上もご健勝のようで⋯⋯」
「いや~、こんな珍しい品をどこから入手したのか是非お聞きしたいですなぁ」
「花祭りの屋台でも驚きましたよ。飴細工は王都でも見た事がない筈です」
ビリーを中心に盛り上がる親戚や商人達を忌々しげに睨みつけたジーニアは、ソファの背にもたれて両足を投げ出して座るトールを見て溜め息を吐いた。
(トールの側にいるのは王都から連れてきた下品で無作法な友人だけ。役に立つかもって思ってたのに、時間を無駄にしただけじゃないの! もっと早くにトールを切り捨てられれば良かったのに)
「なあなあ、それってすっげえ珍しいワインだろ~? グラスなんてケチくさい事を言わずにボトルで持ってこいよ」
山のように料理を盛った皿を使用人に運ばせ、稀少なワインをがぶ飲みする者達の顔は日々の淫蕩な暮らしのせいで土気色をしている。
「フォアグラ、美味え! マジ最っ高!」
「俺っちのグラスが、空なんだけど~! おーい、逃げないでご領主様が呼んだ大切な大切なお客様の俺達にお酌くらいしていけよお」
高価な料理を食い散らかして下卑た笑いを浮かべ、グラスを傾ける者の向かいに座っていた男が、危険回避の為に部屋から出ようとしていたメイド達を大声で呼び止めた。
「今年は特に酷いわね」
「アレをこのままのさばらせておくのは⋯⋯」
「ヘイリー様はなんでアレを廃嫡しておかなかったのか不思議でならん」
(トールの友人は年々質が落ちていくばかりだわ。一度もわたくしの役に立てていないし、やっぱりトールはもう切り捨てるしかないのかしら。でも⋯⋯その後はどうしよう。
花祭りに来るのなんて薄鈍の田舎者ばかりで、王都への伝手を作れる人はいなさそうだし)
王都へ顔を出す勇気を出さない限りトールの手綱を締めるわけにはいかないジーニアだが、そろそろ限界がきていると認めざるを得なくなってきた。
(みんなが羨むような殿方が、わたくしを求めて遠路はるばるやってきたって言うシチュエーションが素敵だと思ってたのに、トールが役に立たないんじゃどうにもならないじゃないの。
それにしても、誰もわたくしの事を気にかけないなんて)
ビリーのいる辺りから楽しそうな笑い声が聞こえてくるたびにジーニアの眉間に皺が寄り、トールの近くから下卑た叫び声が聞こえるたびにジーニアの持つ扇子がピキピキと音を立てた。
「お、奥様⋯⋯何かお持ちしますか?」
「今回のパーティーの主役である奥様を無視して盛り上がるだなんて信じられません」
(ヤバいヤバい⋯⋯このままじゃ、後で癇癪をおこされちゃうじゃない!)
(トール様は仕方ないけど、ビリー様は何をしてるのよ!? いつもみたいに奥様のご機嫌をとってくれなくちゃ困るんだけど)
テーブルの端でチマチマと料理を口にしていたシモンとネイサンの耳に客人の声が聞こえてきた。
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