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第四章 ご利用は計画的に

26.第二幕のはじまり⋯⋯面白くならないなら帰るからね!

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「ジーニアの側に自ら足を運ぶ者がいないのはいつもの事だが、今日のビリーはジーニアを完全に放置していると思わんか?」

 今までのビリーはジーニアが1人にならないように客の意識を誘導し、ジーニアやトールが客人を不快にさせないよう間を取り持っていた。

「良いじゃありませんか? ビリーがいなければ子爵領などとっくに荒地になっていたはずなのに、あの2人ときたら感謝どころか不満ばかりですもの。いつまでもジーニアとトールを甘やかしてばかりだったのが間違いなんですから」

 そんな話が出ているとは思ってもいないジーニアはこの状況を打開する『次の一手』を考えるのに忙しい。



 若かりし頃に王都でやらかし過ぎたジーニア⋯⋯学園生時代は王弟を狙い、卒業してからは裕福な高位貴族ばかりに媚を売って全て撃沈。

 見た目や地位が気に入りさえすれば、妻子持ちでも婚約者がいる男でも平気で手を出していた⋯⋯婚約や結婚に辿り着かない関係なら大成功だったとも言えるが。

 バレれば被害者ぶってハラハラと涙を流し、ジーニアの見た目に騙されている愚かな男達と状況を理解していない低レベルの女性の同情を誘って、その場を凌ぐのがジーニアのお決まりのパターン。

 とうの昔にジーニアへの興味が薄れた男達と、ジーニアの脅威がなくなって安堵の溜息を漏らす女性達が彼女の事を思い出すのは、トールが王都でやらかした時だけ。

『流石はあの女の息子だなぁ』

『あの女の血を引いているのですもの。仕方ありませんわね』

(わたくしの美しさが伝説となって語り継がれている可能性だってあると思うの。多分、お馬鹿なトールに任せていたのが間違いだったんだわ)

 顰蹙を買い過ぎた本人ジーニアは王都に足を踏み入れる勇気がないまま領地で鬱々と過ごしているにも関わらず、昔より妖艶な魅力が増えたとさえ思っている節がある。

(いつまでもこんな田舎に燻っているなんてわたくしのプライドが許さないわ。わたくしを馬鹿にしたアイツらを絶対に見返してやるんだから! わたくしの美貌で最高位を手に入れるはずだったのに、田舎者のヘイリーなんかで妥協していなければ今頃は⋯⋯)

 評判が落ち過ぎて誰からも相手にされなくなり、他国から帰ってきたばかりのヘイリーを騙して婚姻に持ち込んだジーニアだが、現状の不満の全ては亡き夫と不甲斐ない息子達のせいだと信じている。

(ビリーが陛下と親しくしてるって聞いたのに卒業した途端疎遠になってしまったから、トールに期待するしかなかったんだもの。
亡くなった夫はケチで偏屈。息子は2人とも役立たずなんて)



 




「トール、最近の王都の様子はどうなのかしら。お話を聞かせて頂戴」

 隣に座っている友人が持つグラスに、ドレッシングだらけのレモンを入れようとしているトールにジーニアが声をかけた。

 ジーニアが座っている椅子は部屋の奥にあるダイスに置かれており、トールが座っているソファとは少し距離がある。

(本当ならトールを隣に座らせてゆっくり話したかったけれど、あの子の周りにいる下品な子達と一緒に座るのはお断りだし、ビリー達のいる場所にわたくしの方から歩み寄ってあげるなんてあり得ないわ)

 冷ややかな心の内とは裏腹なジーニアの優しげな声がホールに響き、客人や使用人達の訝しげな目がジーニアに集まった。

(さっきの続きならさっさと帰ろうかなぁ)

 今のところ、蛇蝎の如く嫌っている種類の女が『愚かで無意味な騒ぎ』を起こしているだけのパーティーに参加しているのが耐えられないシモンはネイサンの耳元に口を寄せた。

「ビリー殿の動きに大きな変化はないし、彼とシオンの商談に結びつきそうな気配がない。帰っても良さそうじゃない?」

「そうですね。今のところ、これ以上ここにいる意味はなさそうです」



「ん? え~っと⋯⋯母上にお話しできるような⋯⋯珍しい事件とか変化はないですよぉ? 議会は相変わらずだし、商人達が扱ってるのは貧相な物ばかり。だよなぁ?」

「あれぇ? 大臣の一人が引退するとかなんとか言ってなかったっけ?」

「えぇぇ、あれってガセだろ~? 棺桶に足を突っ込んでるようなジジイばっかだからさぁ、そろそろ1人くらいはくたばるんじゃないかって、誰かが言い出しただけの」

 無神経な話ぶりに年配客達が顔を顰めているが、下手に口を出せばトール達が何を言い出すか分からない。以前、苦言を呈した親族の1人はトールからグラスを投げつけられ、額に大きな傷を作った事がある。

 それでも彼等が花祭りのパーティーに参加しているのは、孤立無援で頑張っているビリーの為。参加する者がいなければ非難されるのはビリーだと知っているから。

「大臣が引退ですって!? 担当は? 法務大臣とか財務大臣とか⋯⋯誰か詳しい話を知っている人はいないの?」



「ん? ジーニア様の顔つきが変わった。ジーニア劇場第二幕かも」

 フードをしっかりと手で押さえて気配を消していたシモンが呟いて少し身を乗り出した。

「王国の大臣はみ~んなジジイばっかりなんで、全員引退予備軍! 一斉にくたばったらウケるよなぁ」

「うっひゃあ、もしかして王国崩壊の危機ってやつじゃん!」



 最低な物言いに腹を立て、叱責しようと椅子から腰を浮かせた紳士が隣に座る夫人に止められた。

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