【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

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18.煽り上手のライラに踊らされるハンター

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「それは大変でしたね」

 ほんの少し剣を触っただけで強くなった気になっている貴族も、その貴族の機嫌を取る使用人達も大嫌いなマックスは益々冷ややかな目つきになっていった。



 今回、ライラが警ら隊ではなく王宮騎士団を選んだのはノアとデレクの将来のためだった。彼等の次の就職先として考えられるのはどこかの貴族家に雇ってもらうか、騎士として身を立てる事だろう。
 彼等の身分からすれば警ら隊が良いのかもしれないが、実力を考えると警ら隊に入ると浮いてしまう。

(王宮騎士団が真面なら2人の就職先候補に入れてもいいと思うのよね。どうやら貴族嫌いの団長さんみたいだし、さっきの副団長さんは気が短そう。しっかり煽ってあげなくちゃ)

 プリンストン侯爵家が無くなる前に少しでも多くの候補を見つけておきたいライラは今回の襲撃を喜んでいた。



「所用ができたものですから学園を早退することになりましたの。学園を出た先にある雑木林で賊が襲撃してきたので連れてきた⋯⋯わたくしが知っているのはその程度ですわ」

「結構な人数だったようですが護衛はひとりだけですか?」

「ええ、武器の選択もできない愚か者でしたから護衛と御者の2人でお釣りがくるほど」

「でも、ご令嬢の手を煩わせた。失礼ながら力不足だったということのような気が致します。勿論、王都に賊が出て貴族令嬢や馬車などに被害が出た事を第三騎士団に抗議さ⋯⋯」

「全ての賊を前もって討伐しておく事など第三騎士団でも無理だとわかっておりますわ。それに⋯⋯失礼を承知で申し上げれば、あの二人はこちらに所属しておられる騎士よりも強いと断言できますもの」

「は? ああ、はい」

 高飛車で傲慢な物言いをするライラに返事をする気もなくなったマックス。白けた場の空気にノックの音が響きノアを連れたハンター副団長が帰ってきた。

「団長?」

(貴族の前ではいつもわざとらしいほど丁寧な対応をするマックスが腕を組んで貴族を睨みつけてる⋯⋯何があったんだ? 貴族の機嫌を損ねると騎士団全体が迷惑を被るからって言ってるくせに)

(お嬢様、わざと相手を怒らせましたね。王宮騎士団を選んだ時点で何か狙ってるとは思っておりましたが⋯⋯一体何を考えておられるのか)

「自信がおありなのは当然ですわ。でも、先程窓から訓練の様子を見せていただきましたけれど⋯⋯ふふっ」

 少し顎を上げ小馬鹿にしたように笑ったライラが、ハンター副団長を見ながらもう一度『くすっ』と笑った。予想通り、マックスより気が短いハンターが青筋を立て顔を真っ赤にした。

(お嬢様! まさか!!)

 ノアの顔が引き攣り予想通りの展開が起きた。



「ほう、随分と自信がおありのようで」

(きた! やっぱり、ハンター副団長なら期待に応えてくれると思ったの!)

「ええ、彼等はたかだか貴族の護衛や御者にしておくのは勿体ないと思っておりますの。騎士が彼等くらいの腕前ならば今回のような事など起こってなかったかもしれませんわねぇ」

「では、ぜひお手合わせしていただきましょうか? 護衛にしては立派な獲物を腰に下げておられますしなぁ、腕前がそれに見合うなら楽しめるかもしれませんな」

「ぜひ、見てみたいですわ。ノア、失敗したらクビにするから本気でおやりなさい。わかりましたね」

「⋯⋯はい」


「そうだわ! 折角ですもの、御者のデレクも呼んでいただけますかしら? 騎士が御者に負けるなんて一見の価値があると思いませんこと?」

 ライラの偉そうな態度にマックスの忍耐力も限界を超えた。

「そこまで仰られるとは、随分と彼等を信用しておられるらしいですな。まあ、井の中の蛙かもしれませんがね」



 渋るデレクが呼ばれて訓練場にやって来た。

「お嬢、何考えてるんすか? 今日の仕事はもう終わり、閉店休業っすよ」

「オージエ産のコニャック、リムーザン地区の木で作られた樽で熟成」

「おー、やるやる! 誰でもいい、お嬢様の御為に頑張らせていただきまっす」

 デレクは無類の酒好きだが量より質を大事にしている。最近のお気に入りのコニャックを鼻先にぶら下げると簡単に釣れた。

「デレク、あんた軽すぎ。負けたら一年間酒禁止で」

 ノアが大きな溜息をついてペナルティ宣言をした。

「オッケー、見たところ⋯⋯うん、大丈夫そうだし? さっき準備体操し損ねたのがちと痛い」

「俺はしっかり走り込みしてましたけどね」


 たかが御者のくせに武器だけは立派なものを持っていると馬鹿にしていた騎士達がその様子を見てゲラゲラと笑い出した。

「お貴族様の為、酒の為に俺たちに勝とうって?」

「もう一人も随分とヒョロイし」

「第三騎士団がどれほど戦い慣れてるか教えて差し上げるチャンスだぜ」



「平民を破落戸やから守るのが俺たちの仕事なんで言葉が汚くて申し訳ない」

「構いませんわ、それだけ自信がおありなのでしょうから。楽しみですわ」

 ライラに踊らされていたとマックスが気付いた時には模擬試合の準備が終わって騎士と対峙し剣を構えたノアを見た時だった。

 審判を務めるハンターが声を上げた。

「はじめ!!」


 ノアがレイピアと共に手にしているのはマン・ゴーシュと呼ばれる幅の狭い両刃の直剣。

 余裕ある態度だった騎士があっという間に追い詰められ、周りでヤジを飛ばしていた騎士達が黙り込んだ。

「⋯⋯有言実行ですね」

「戦いの時はパリーイング・ダガーを使っておりますけれど、今回は模擬試合だから遠慮したのでしょう」

「何が狙いですか?」

 目の前ではサクッと勝ちを決めたノアにハンター副団長が2戦目を挑んでいた。


「⋯⋯ノア達の世界を広げたいと思っておりますの。彼等の実力に合う世界を見るチャンスになるかと思いまして」

「騎士団に入れて欲しいという事ですか?」

「失礼な言い方ですけれど、選ぶ権利はノア達の方にあると思っております」


「ノアですか⋯⋯彼の実力ならハンターが負けるかもしれません。と言うことは御者の方も相当な腕前ということですね」

「ノアで副団長が出てきたなら、デレクの時は団長の番が来そうですわ」

「そんなに?」

「副団長だけでなく団長も戦闘狂でいらっしゃるようにお見受けいたしておりますの。不真面目なデレクも団長相手なら真面目になるかも」

 ははっと苦笑いを浮かべた団長がのんびり地面に座り込んで欠伸をしているデレクを見やった。ハンターの剣が折れて『おー!!』という歓声が響いた。

「そこまで! 勝者、ノア」



 ガシガシと頭をかきながらデレクが立ち上がると、マックスが剣を手にした。

「俺が相手をしよう」

「えー、お嬢~。堪忍してくださいよぉ。2、3人まとめてくる方が楽そうなんすけど?」

「あら、2回も戦う気なのね。どなたかお相手してくださらないかしら?」

「ちっ!」


 剣を持った3人の騎士がデレクを取り囲んだ。

「たかが御者のくせに、俺達を舐めるのも大概にしろよ!!」

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