【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

文字の大きさ
17 / 49

17.久しぶりの訓練?

しおりを挟む
 馬車の速度が落ち左側から剣のぶつかる音が聞こえてきた。両側から挟み撃ちするつもりなのだろう、暫くすると右側でも戦っている気配がしはじめた。

 ドサリと重く何かが倒れる音がした直後にまた斬り合う音。

 ノアやデレクの声はしないが、戦う音の合間に『くそぉ~』『おらぁ!』と下品な声が聞こえてくる。

(結構な人数がいるみたいだけど、あの声からすると大した腕ではないのかも)

 これならあっという間に終わるかもなどとライラが呑気に分析をしていると、右側の扉をこじ開けようとする音と『急げ』という声が響いてきた。



 外から強引に扉を引っ張る気配に合わせてライラが鍵を開けると力を入れていた男が扉と一緒に吹っ飛んだ。

「お気に入りの馬車ですのに、馬車を壊した責任は取って下さいね」

 馬車から降りたライラがぶつぶつ言いながらスモールソードを構えた。



「お嬢、暴れたかったんなら先に言っといてくれたらもうちょい残しておいてやったのによお」

「久しぶりですから、一人か二人いれば十分ですわ」

「くそぉ、女を狙え! 誰か、馬車に乗り込め!!」

「あら、わたくしより狙っているものがあるのではなくて?」



 賊が力任せに振り上げたのは最近流行りはじめた両手剣のツヴァイヘンダー。長大で重量のある巨大な剣は柄を長く改良した武器で、振り回して使う事で鎧を破壊するほどの威力を発揮する。

「鎧なんて着ておりませんのに⋯⋯武器は時と場所を考慮するべきだと習いましたわ。しかもそのように振り上げては⋯⋯重い剣には上から下に振り下ろす動作は向いてないはず」

 男達はデレクとの戦いで既に体力の限界に来ているようで脂汗を流しゼェゼェと荒い息を吐いているが、戦っていたはずのデレクは馬の近くで飄々としている。


 ライラは賊と間合いを取り、相手が剣を振り上げたタイミングで隙だらけの胴を狙ってスモールソードで切りかかった。

「ぐえっ!」

 膝をつき悲鳴を上げた男の後ろから巨大な剣が振り下ろされた。

「てめぇ!!」

 ピシッと音がしてダガーが突き刺さった男が尻餅をついた。

「ぎゃあ!」


「お嬢、隙だらけ。今のは危なかったぜ」

「ありがとう、助かったわ」



「お嬢様、お礼なんて仰らなくていいです。デレクは手を抜いていただけですからね。真面目に働いていたらお嬢様が、馬車から降りる必要などなかったはずです」

「でもよ~、お嬢もストレス溜まってるみたいだったし、たまには運動しても良いかなぁ。はい、ごめんなさい。あんまりしょぼいんでやる気が失せました」



「彼等を警ら隊に⋯⋯いえ、王宮騎士団に引き渡しましょう。雇い主はもう聞けたかしら?」

「はい、しっかりと話してもらいましたが思った相手と違っておりました」

「あら、でもまあ良かったわ、馬車の扉を修理しなくちゃいけないし制服も新調しなきゃいけないの。請求書を送っておかなくてはね」

 切られて蹲る男達は呑気な会話を聞いて肩を落とした。

「こんなに強いなんて聞いてねえよ」



 男達は護衛を連れた貴族令嬢から鍵のかかった箱を奪う簡単な仕事だと聞いていた。護衛と言っても平民の学生が一人いるだけで御者はいつもやる気がなさそうにしていると。

 賊が乗ってきた荷馬車に彼等を押し込み、余った馬を引いて王宮騎士団の司令部へ運んだ。

「こんにちは、大量のを運んでまいりましたの。責任者の方おられますかしら?」

 乾いた血がついた制服姿のライラにギョッとした騎士がガタンと音を立てて立ち上がった。

「そ、その血はどうなさったのですか!?」

「学園からの帰り道に賊に襲われましたの。で、その時の返り血ですわね。わたくしはライラ・プリンストンと申します」

「プリンストン⋯⋯侯爵家のご令嬢ですか!? こちらへどうぞ」

 詰所から出てきた騎士に賊や荷物を渡しているノア達を確認した後、案内役の騎士の後に続いたライラは意外に立派な家具が置かれている応接室らしき部屋に案内された。

「こちらでお待ちいただけますでしょうか、ただいま騎士団長に声をかけて参ります」

「宜しくお願いします」


 窓側に立ち外を覗くと騎士達が訓練しているのが見えた。その中には小柄な女性騎士も⋯⋯。

(うーん、思ったより⋯⋯訓練は別メニューなのね。あ、あの人凄い!)



 訓練風景を夢中で見ていたライラはドアの開く音で振り返った。

「お待たせいたしました。第三騎士団団長のマックス・ファイフと申します。賊を運んで下さったとお聞きしましたが?」

 てっきり護衛に守られた貴族令嬢が褒め言葉を期待してしゃしゃり出てきたのだろうと思っていたマックスは、乾いた返り血のついたライラを見て内心動揺していた。

(これ見よがしな格好で来たのは治安が悪いと抗議しにきたのか? 横柄なプリンストン侯爵家の娘だからな、何を言い出すつもりなのか⋯⋯)

 王都の治安を守る第三騎士団はこういった貴族からの苦情が多く頭を抱えている。


「初めまして、ライラ・プリンストンと申します。時間がなかったものですから、このようななりで失礼いたしました」

 慇懃無礼なマックスの態度を気にもとめずライラは優雅なカーテシーをしてマックスに違和感を抱かせた。


「どうぞ遠慮なくお掛けください。ソファの事なら心配いりませんので」

 ソファが汚れるのを気にしているライラが立ったままでいた事に気付いたマックスが声をかけると、チラッと名残惜しげに窓の外を見たライラがソファに座った。

 ドアが開き熊のような大男が無骨そうな手つきでお茶を運んできた。

(大きな手⋯⋯まるでおままごとの茶器を持ってるみたいに見えるわ)

「ありがとうございます」

「彼は副団長のハンター・アースキンです」

(ハンター⋯⋯熊のハンター⋯⋯)

 ライラは表情筋に力を入れてにっこりと微笑んだ。

「ライラ・プリンストンと申します。どうぞお見知りおきを」

「アースキンと申します。一緒にお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」


「勿論ですと申し上げたいところですが、わたくしは大した情報を持ち合わせておりませんの。護衛のノアに聞いていただくのが宜しいかと存じます。賊の討伐はノアと御者のデレク担当でしたがデレクは馬車を離れないはずですから」

 ノアを迎えに行くのか、ハンターが無言で部屋を出て行った。

「失礼ですが、それは返り血ではありませんか?」

「はい、賊に馬車の扉を壊されてしまったものですから。ほんの少しばかり応戦致しましたの」

「護衛がいながら令嬢が応戦しなければならないとは、そこそこ強い相手だったんですね」

 取り敢えず形ばかりのご機嫌取りをするマックスの口元は笑みを浮かべているが冷ややかな目つきが気持ちを表している。

「とんでもありませんわ。御者がわたくしのために手を抜いてくれただけですから」

(護衛達がお嬢様のご機嫌取りのために弱った鼠を差し出したと言いたいのか。本当は護衛達がショボすぎて賊が馬車に辿り着いただけじゃないのか?)

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。 父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。 そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。 本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない! これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。 8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

処理中です...