【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

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43.平民のライラには女の武器が⋯⋯

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「恐れながら申し上げます。発言を宜しいでしょうか」

「申せ、但し挨拶も媚もいらぬ。何なりと申してみよ」


ライラと申します。王都の外れでのどかに暮らしておりますわたくしどものような、矮小な存在に参内せよとの知らせをいただきました事が不思議でなりません」

「其方らが国外へ行くつもりと連絡が来てのう」

(そう言うことか⋯⋯やっぱりプリンストンの生き残りとして要注意人物指定されていたのね。それにしても、態々陛下が尋問する?)

「どなたかの不安を煽りでも致しましたでしょうか? 特筆することもないような物見遊山の旅でございますれば、ご心配いただくほどの価値もないかと存じます」


「サン・ダマングスの北には何がある?」

 旅の準備を見張られていたのだろう、ライラ達の最終目的地がバレており国王にまで伝わっている。

「どのようにしてお知りになられたか存じませんが、臣下として不義を働くような事も人道に悖る行いに手を出すつもりもございません」

「サン・ダマングスと言えば砂糖プランテーションのメッカであったな」

「はい、サン・ダマングスには我が父プリンストンやターンブリー家が奴隷を売り渡した砂糖プランテーションが多数ございます」



「陛下、発言をお許しください。ライラ・プリンストンがその地を選ぶには理由があるはずと言う者がおります。の者が不正摘発のために調べた知識を有効活用するつもりであるとか、まだ公になっていない売買のルートを引き継ぐつもりではないかと。でありますれば、身柄を拘束し詮議するべきであると進言いたします」

 最初から苛立たしげな態度だった男が国王が小さく頷いたのを確認しながら、ライラを逮捕するべきだと口角に泡を飛ばす勢いで言い募った。


「ライラよ、宰相の発言を聞いて其方はどう思う?」

「わたくしのこれまでを思えば、ご指摘のようなご不安を持たれるのは自然の事であったと猛省致しております。
ですが、それを行うのであれば侯爵家や会社の影に隠れて行ったほうが安全であったとは思われませんでしょうか?
あの時点では彼等の行いは公になっておらぬどころか、疑いを持っておられた方もおられなかったように記憶しております。
ならば態々国中の目を集めた上で罪を犯そうとするのは荒唐無稽。それよりも、漸く自分の思うままに生きることが出来るようになっただけだとはお思いになられないのでしょうか?」

「正義を振り翳したはずが世の非難を一身に集め、個人資産まで投げ出さざるを得なかった。それを恨んでのことでしょう!?」

 エントラーゼ宰相は根強く残る悪評の『蛙の子は蛙』を信じている一人なのかもしれない。ライラの説明を聞いても一歩も譲る気配がないどころか益々ヒートアップしている様子さえ見えた。

「元より非難断罪される覚悟でございました。一族連座で処刑される覚悟のもとにはじめたのですから非難は当然、資産など残すつもりはございませんでした。
にも関わらずわたくし一人が生き恥を晒してはおりますが、彼等と同じ舞台に上がるつもりはございません」

「誰しも死を恐れる。告発した功により己の身の安全のみ嘆願するつもりであったのでしょう」

「それならば財を持って他国へ逃げ出すことを選んでおりました。その方が安全で確実でしたもの」

(それが出来ればハーヴィーは生きてたのかしら⋯⋯ううん、ハーヴィーは彼を置いては行けなかったのよね)



 ハーヴィーが心から愛していた⋯⋯ジェラルド・メイヨー。

『私にライラがいるように、彼にとってのライラになりたいだけなんだ』

『意味がわかんないわ。ジェラルドにとっての何?』

『能天気さと無鉄砲な勇気⋯⋯包容力。意味不明なほどいつも前向きなライラは、私に安心と勇気を与えてくれる存在なんだ。私もそんな存在になれたらいいなって思うんだ。ライラをみてると常識の方がおかしく思えて、それに囚われてるのがバカらしくなるから』

『間違い無く貶されてるけど⋯⋯まあ、ハーヴィーが元気になるなら許す!』

(私にとって安心と勇気を与えてくれる人はノアだった。ノアが私にくれたものをハーヴィーが受け取って⋯⋯ハーヴィーはジェラルドに渡してあげたかったんだよね。だけど⋯ジェラ⋯)



 物思いに耽っていたライラの耳にエントラーゼ宰相の冷ややかな声が聞こえてきた。

「このところ『砂糖』について調べておられるとか。砂糖プランテーションに金の匂いを嗅ぎつけられましたか?」

 ライラの想像以上に行動を見張っているのかここ最近の他国との手紙のやり取りが多すぎたのか、エントラーゼ宰相はかなり正確な情報を持っているに違いない。

「もし仮にそうだとして何か問題がございますでしょうか? わたくしは『砂糖』に興味を持っただけ、それを調べる事に疑義を挟まれるのは納得がいきませんわ」


「地図上ではトリニダラス島と記述されているようですね。馬車で1ヶ月以上かかりますが本土と島の間は船でほんの1時間」

「その通りですわ。色々と情報をお持ちのようですし、小出しになさらずはっきりと仰っていただけますでしょうか?
知られて困る事がございませんので、ご期待に添えず申し訳ないのですが動揺とか言い訳とかはできませんの」

 プリンストン侯爵令嬢だった頃の名残りで艶やかに微笑んだ口元を隠そうとして、扇子がない事に気付いた。

(女の武器がないのは不便だわ。平民はこんな時どうするのかしら)



「世間の関心が薄れはじめたので亡きハーヴィー・ターンブリーから島と資産を遺産として受け取られた。奴隷ファクターの情報もお持ちですし、傾いた貿易会社をあっという間に立ち直らせた手腕で船の手配などもお手のものでしょう。
砂糖プランテーションを立ち上げれば成功される事は間違いない」

 エントラーゼ宰相の演説にライラは吹き出しそうになった。成功間違いなしだと言われたのは嬉しいが、彼は大前提が間違っている事に気付いていない。

(そう言えば、宰相と法務大臣が徒党を組んで犯罪を行う者達への処罰を厳しくしようとしていたわね)


 法務大臣と宰相が提言しているのは犯罪が起きてから取り締まるだけでなく、犯罪を計画し実行に向けた準備行為があった時点で処罰しようというもの。

 ライラが組織した集団が犯罪を計画し実行する為の準備行為を行ったとして呼び出し、それを認めさせ処罰することができれば大きな一歩になると考えたのだろう。

 ライラには下地となる知識はあったが今までは資金に問題があったので見逃していた⋯⋯泳がしていた。

 ところが、計画を実行できるだけの資金と土地を手に入れたライラが情報収集をはじめ、現地調査に向かう準備まではじめた為国王に進言して呼び出した。


「わたくしの行動を犯罪の準備行動だと決めつけられるならば、証拠を示していただきませんと納得致しかねます。でなければ宰相閣下の大願成就に利用するつもりだと誤解されかねない行いだと愚考致します」


(やっぱり⋯⋯扇子が欲しいわね)

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