【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

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44.臍を曲げたライラの硬さは?

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「なんだと!! 貴様、言うに事欠いて、私が貴様のような小娘を利用するだと! 自身が平民になった事を忘れたようだな、不敬罪で首を刎ねてやる!!」

「ご随意に致されませ。わたくしは可能性を示唆したのみではございますが、首を刎ねたその後で曇ったまなこが平民の小娘にを押し付けようとしただけだったと気付かれたなら、後の世のためになりますでしょう」

「なんと、このような傲慢な物言いをする者など信用なりません。陛下、どうかこの者の詮議をお許し下さい!」

 頭に血が上った宰相は今にも衛兵を呼びそうな勢いで国王に詰め寄った。



「ライラよ、冤罪だと言い切るのであればそれを証明してみせよ」

「ない事を証明するのは悪魔の証明でございますので、それは少々難しいかと思われます。わたくしにできるのはほんの少しばかりの説明だけでございます」

 呼び出された時から納得のいかなかったライラは慇懃無礼な物言いをしはじめた。

(突然参内しろと言ったかと思えば色眼鏡で見て勝手に罪を捏造して不敬罪とか⋯⋯もうこの国出てってもいいかな)


 ノア達と別れて国を出るのがベストだと思っていた頃にハーヴィーからの手紙が届いたが、それはライラにとって行き先が決まっただけの事だった。
 貴族として得ていた特権は告発と会社の立て直しをした上に資産の殆どを放出した事で相殺しているつもりのライラは、平民になったのだからノブレス・オブリージュはもう関係ないと考えていた。

 何も無くなったライラにはこの国にこだわる必要もない。


「つまり、口先で誤魔化すしかできないと言うのだろう? 陛下の温情でも期待するつもりか?」


「左様でございますか⋯⋯では、どうぞ逮捕なり監禁なりお好きになされませ。わたくしはない事を証明できないと申しましたが、宰相閣下はと信じておられるのですから、それを証明されれば宜しいのではありませんか?」

 ノア達に不快な思いをさせてしまうのは申し訳ないが、『犯罪者の娘は犯罪を犯す』と信じているこの男には何を言っても伝わらないだろうとライラは諦念の心境に達した。

(やっぱり、ノア達には新しい職場に移動してもらっておけばよかったわ)


「上手く隠しているつもりだろうが司法を騙すの⋯⋯」

「エントラーゼ、ちと黙らぬか。余はライラに聞いておる」

「は、申し訳ございません」

 国王に向けて頭を下げる前にチラッとライラを見たエントラーゼ宰相がきつい目で睨んできた。

「その説明とやらを申してみよ」

「宰相閣下の仰っておられる事についてですが、大前提が間違っていると言わなくてはなりません」

「な!」

「わたくしのような犯罪者の子は必ず罪を犯す⋯⋯そう考えておられるのではないかと。方法を知っているのだから必ず行動に移すと思われた根拠は『蛙の子は蛙』だから。それ以外には考えつかないでおります」

「ふむ、エントラーゼ。其方はどう思うかの?」

「そ、それは⋯⋯島の位置に問題があります! 態々国より遠く、犯罪が行われた場所の近くの島を内密に購入したなど、告発すると見せかけながら準備していたとしか思えません」

「様々な理由で遠くの国に別荘を建てる方もおられますでしょう?
海の近くに住みたかっただけかもしれませんし、温暖な気候が気に入ったのかも。
青く透き通った海と珊瑚礁。広い大地は馬を走らせるのに適しておりますし」

 ライラはあまりに頑迷固陋がんめいころうな宰相に腹を立て本当の事を言いたくなくなってしまった上に、つい悪い癖を出して時と場所も考えず煽ってしまった。

「⋯⋯とは言うものの、実際はまだ行った事もございませんのでどのような状態なのかも何に使えるのかもわかっておりませんが。
知識のある者全てがそれを悪用すると宰相閣下がお考えになられていると思えません。であれば、わたくしが元プリンストン家の者だったからそのような疑いを持たれたのでございましょう」

「エントラーゼ、言いたいことがあるなら申してみよ」

「それは⋯⋯ならば何故砂糖についての資料を集めたのだ?」

「暇だったからかもしれませんし⋯⋯いずれ近くに行く可能性があるならば特産品の調査をしてみたかったからかもしれませんわ」

 真面に説明するつもりなどなくなったライラは、国王の前だと言うのに緊張感も何もなく微笑んだ。

(国のトップが色眼鏡で見るなら真面に説明する意味なんてないもの。なによりも、ハーヴィーの思いをこの人達に話したら汚れてしまう気がするわ)


 断頭台に引き摺り出される夢に怯えて飛び起きながら戦ってきたライラ。ハーヴィーと2人だったから恐怖を乗り越えられたけれど、逃げられればと何度思ったことか。

 そんな事など思いもせず、大罪を断ずることができたと喜んだだけの目の前の男達。


 逃げなかったのは人としての矜持だったのか⋯⋯理由は自分でもよく分かっていないが、走り続けた先にあるものは知っていたし覚悟も決めて生きてきたライラには怖いものなどなかった。

(あの時、連座で処刑されなかっただけで、その時の残りカスが今私の前に現れただけだもの)


 何故ハーヴィーがライラに島や資産を残したのか、その気持ちを目の前の人達が理解できるとは思えない。

(こんな人達にハーヴィーと私の夢をいじくりまわされるなんて真っ平ごめんだわ!
そんな事になるくらいなら冤罪でも不敬罪でもお好きにどうぞ!!)

 臍を曲げた⋯⋯腹を括ったライラは岩より硬いと言ったのはハーヴィーとノア。



「陛下!! 何勝手な事をなさってるんですか!?」

 バーンと大きな音を立てて両開きの扉が開いた。

「ターニャ王女、もうちっと王女らしい登場はできんのか」

「ライラの保護の方が先ですわ! 鳥頭のエントラーゼ宰相とライラを会わせてはならないと申したではありませんか!!」

 ターニャは騎士服に帯剣したままでこの謁見室に飛び込んできた。扉の近くで衛兵が平然とした顔で扉を閉めていたので、この程度のことは日常茶飯事なのだろう。



「ライラが犯罪を計画しているなどと言う妄想に取り憑かれた法務大臣の間抜けと鳥頭の話しをお信じになられるなんて、歴代一の愚王と呼ばれたいのですか!?」

「平民の娘一人の扱い程度で愚王となるなら、とうの昔にそう呼ばれておるであろう。少なくとも王女の教育には失敗しておるでな」

「陛下、それはわたくしに対して仰せだと理解して宜しいのですか?」

 まさかの親子喧嘩&夫婦喧嘩勃発にライラは頭を抱えたくなった。



「ターニャ様、陛下の御前でございます。入り口の衛兵に剣をお預け下さいませ」

「其方の首を刎ねた後ならな。ライラを利用し陛下を誑かして、己の意のままに法を改正しようと画策しておるであろうが!」

「何のことを仰っておられるのか分かりかねますな」

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