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45.暴走するターニャ王女
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「何のことを仰っておられるのか分かりかねますな」
「ならば陛下の御前で貿易会社『Stare』と2つの侯爵家の罪の発覚の経緯を話してもらおうか」
「⋯⋯それは既に報告書を提出済みでございます」
「言えぬか。喜べ、貴様の報告書を持ってきてやったぞ」
「⋯⋯」
「おかしいと思っておったのだ。この件の最大の功労者はライラと亡くなったハーヴィーであるのに、それについていつまでも公表されず陛下のお召しもない。
まさか貴様がこのような報告をしておったとは! この場を血で汚すわけにはいかぬ、広場へ出ろ、即刻首を刎ねてやる!!」
すでに剣に手をかけているターニャ王女はエントラーゼ宰相の胸ぐらを掴み上げた。
「ターニャ、落ち着いて順に申してみよ。報告書に虚偽があったと申すか?」
「この鳥頭は⋯⋯事件が発覚したのは匿名の告発者によるものだと報告しております」
「確かに、その様に聞いておる。社の内情に詳しい事から社員か役員の誰かではないかとな」
「役員に違いはありません。告発したのはその当時役員だったライラでしたから。ライラと亡くなったハーヴィーは一年以上かけて調査し大量の証拠を携えて第二騎士団にきたのです。それなのに鳥頭と間抜けは、ライラ嬢はまだ学生で犯罪に加担しておらず受け取った役員報酬も全て会社の再建に充てたのだから見逃すなどと戯言を⋯⋯」
「ふむ、余もその様に報告を受けておる」
「それだけでも腹立たしいのに! 物語や芝居で噂を消そうとしましたが、気がつくとまた同じ噂が流れているのです。
ライラの悪評がいつまで経っても消えず不審に思い調べてみたら、鳥頭と間抜けが『一人罪から逃げ切った娘』だと噂を流しておりました」
「エントラーゼ、それはまことか?」
「そ、そのような事実はございません」
「噂には、犯罪者の子はいずれ犯罪を犯すはずだと言うのもあったな。それを流しておった者は第二騎士団に拘束済み、其方達から依頼されたと申しておる!」
下火になりかけては再燃する噂の正体がようやく分かったライラは、妙にホッとしていた。
(これからは抗議や呪いの手紙が減るかも)
「其方らが内密に人を動かしライラを見張っていた事も調べがついている。それに、罪の捏造を画策していたこともな。ライラの名前で奴隷ファクターと手紙のやりとりをしておったであろう? 手紙は回収済みで筆跡鑑定をしているが、言い訳がしたければ聞いてやらんでもないぞ?」
「エントラーゼ! 其方と言う奴は⋯⋯! 何故そのような事をした、申してみよ!」
怒りで顔を赤くした国王が玉座から立ち上がった。鳥頭⋯⋯エントラーゼ宰相はブルブルと震える手を押さえながら目を泳がせた。
「そうか、其方⋯⋯例の法案を通す為に余を謀ったのだな」
「グレッグ団長も陛下と同じ事を言ってたぞ。間抜けと鳥頭は法案を議会で通しやすくする為の生贄にライラを選んだとな」
エントラーゼ宰相がガックリと膝をつき項垂れた。
「グレッグ団長からの伝言だがな。
貴様の書いた手紙は紛れもなく奴隷売買をはじめる準備と看做される。つまり、貴様達は他人の名を騙り『集団で犯罪を行う準備をしていた』ので逮捕されたとも言える。
予定通りで良かったな」
ターニャ王女の指示で宰相が拘束され、裁判所から帰ってきたばかりの法務大臣も拘束された。
彼等は王を謀ったとして罷免・褫爵・資産剥奪となり終生強制労働。
国王から提示された褒賞を全て断ったライラが望んだのは⋯⋯。
「解放奴隷や移民を受け入れることのできる国家づくりをお願いしたいと思います。
彼等は心や身体に傷があるものも多く、解放された後も貧困に喘ぐことが多いと聞きます。彼等が職を得て家族で暮らせる様な世界になることが願いです」
ライラは宰相達の行為を公にすることは望まなかった。
「噂などいずれ飽きられて消えてしまうでしょうし、人は信じたいものを信じる生き物ですから」
ライラを元にした物語や芝居には本人の希望を無視したまま、続編として『悪意ある噂を流されて耐える』主人公の話が付け加えられた。
(ターニャ様⋯⋯堪忍して下さい)
出版された本や興行収入、関連商品などの収益は基金が設立され慈善団体や貧困層への援助金となった。
ハーヴィーが残してくれた島は土地面積が広く手付かずの自然が残され、点在する小さな村の人々は本土へ出稼ぎに行くか漁で暮らしていた。
広大な土地があるにもかかわらず開発が遅れているのは、島の大半が珊瑚礁に囲まれており大きな船を停泊させる港の建設ができないせいだった。
「珊瑚礁のない山側なら港自体は作れますが、山を迂回して運ぶのも山を越えるのも厳しいですね」
「トンネルを掘ればいいわ。すぐに業者を選定しましょう。但し、ノミとツチで作業する様なところは避けて、地質調査をして火薬を使って作業できるところでなくてはね。
それができるまでは別の方法を取らなくちゃ」
1ヶ月程度で島の様子を調べる予定が半年近くになり、ライラの考える奴隷を一切使わない健全な砂糖プランテーションの構想が固まりはじめた。
ライラの農園『Parvum spina』では雇用契約を結んだ従業員だけを使い、サトウキビを育てて現地で『粗糖』を製造する。いずれ『製糖工場』も設立する予定でいるが、多額の資金が必要になる為かなり先のことになると考えている。
「収穫から『粗糖』作りまでは労働力頼りだと言われているけれど、それにできる限り最新の機材を投入するわ。
奴隷を使うことでしか農場経営出来ない砂糖プランテーションの農場主を見返すのが目標だから」
「意味は『小さな棘』ですか。お嬢様にピッタリです」
「褒めてない、それ⋯⋯」
当初、大量の奴隷を使うのが当たり前の砂糖プランテーションを作ると聞いて難色を示していた村の長老達も、何度も話をするうちにライラの言葉に耳を傾ける様になった。
「奴隷を使わずに⋯⋯」
「村に道路や水道⋯⋯」
「山にトンネル?」
労働者を募集し畑を作る前にインフラの整備をしなければならない。それ以外にも住居や食料の確保など数え上げればキリがない。
潤沢と言えるほどの資金があるわけではなかったが、ライラ達が計画を進めるうちに⋯⋯。
「ならば陛下の御前で貿易会社『Stare』と2つの侯爵家の罪の発覚の経緯を話してもらおうか」
「⋯⋯それは既に報告書を提出済みでございます」
「言えぬか。喜べ、貴様の報告書を持ってきてやったぞ」
「⋯⋯」
「おかしいと思っておったのだ。この件の最大の功労者はライラと亡くなったハーヴィーであるのに、それについていつまでも公表されず陛下のお召しもない。
まさか貴様がこのような報告をしておったとは! この場を血で汚すわけにはいかぬ、広場へ出ろ、即刻首を刎ねてやる!!」
すでに剣に手をかけているターニャ王女はエントラーゼ宰相の胸ぐらを掴み上げた。
「ターニャ、落ち着いて順に申してみよ。報告書に虚偽があったと申すか?」
「この鳥頭は⋯⋯事件が発覚したのは匿名の告発者によるものだと報告しております」
「確かに、その様に聞いておる。社の内情に詳しい事から社員か役員の誰かではないかとな」
「役員に違いはありません。告発したのはその当時役員だったライラでしたから。ライラと亡くなったハーヴィーは一年以上かけて調査し大量の証拠を携えて第二騎士団にきたのです。それなのに鳥頭と間抜けは、ライラ嬢はまだ学生で犯罪に加担しておらず受け取った役員報酬も全て会社の再建に充てたのだから見逃すなどと戯言を⋯⋯」
「ふむ、余もその様に報告を受けておる」
「それだけでも腹立たしいのに! 物語や芝居で噂を消そうとしましたが、気がつくとまた同じ噂が流れているのです。
ライラの悪評がいつまで経っても消えず不審に思い調べてみたら、鳥頭と間抜けが『一人罪から逃げ切った娘』だと噂を流しておりました」
「エントラーゼ、それはまことか?」
「そ、そのような事実はございません」
「噂には、犯罪者の子はいずれ犯罪を犯すはずだと言うのもあったな。それを流しておった者は第二騎士団に拘束済み、其方達から依頼されたと申しておる!」
下火になりかけては再燃する噂の正体がようやく分かったライラは、妙にホッとしていた。
(これからは抗議や呪いの手紙が減るかも)
「其方らが内密に人を動かしライラを見張っていた事も調べがついている。それに、罪の捏造を画策していたこともな。ライラの名前で奴隷ファクターと手紙のやりとりをしておったであろう? 手紙は回収済みで筆跡鑑定をしているが、言い訳がしたければ聞いてやらんでもないぞ?」
「エントラーゼ! 其方と言う奴は⋯⋯! 何故そのような事をした、申してみよ!」
怒りで顔を赤くした国王が玉座から立ち上がった。鳥頭⋯⋯エントラーゼ宰相はブルブルと震える手を押さえながら目を泳がせた。
「そうか、其方⋯⋯例の法案を通す為に余を謀ったのだな」
「グレッグ団長も陛下と同じ事を言ってたぞ。間抜けと鳥頭は法案を議会で通しやすくする為の生贄にライラを選んだとな」
エントラーゼ宰相がガックリと膝をつき項垂れた。
「グレッグ団長からの伝言だがな。
貴様の書いた手紙は紛れもなく奴隷売買をはじめる準備と看做される。つまり、貴様達は他人の名を騙り『集団で犯罪を行う準備をしていた』ので逮捕されたとも言える。
予定通りで良かったな」
ターニャ王女の指示で宰相が拘束され、裁判所から帰ってきたばかりの法務大臣も拘束された。
彼等は王を謀ったとして罷免・褫爵・資産剥奪となり終生強制労働。
国王から提示された褒賞を全て断ったライラが望んだのは⋯⋯。
「解放奴隷や移民を受け入れることのできる国家づくりをお願いしたいと思います。
彼等は心や身体に傷があるものも多く、解放された後も貧困に喘ぐことが多いと聞きます。彼等が職を得て家族で暮らせる様な世界になることが願いです」
ライラは宰相達の行為を公にすることは望まなかった。
「噂などいずれ飽きられて消えてしまうでしょうし、人は信じたいものを信じる生き物ですから」
ライラを元にした物語や芝居には本人の希望を無視したまま、続編として『悪意ある噂を流されて耐える』主人公の話が付け加えられた。
(ターニャ様⋯⋯堪忍して下さい)
出版された本や興行収入、関連商品などの収益は基金が設立され慈善団体や貧困層への援助金となった。
ハーヴィーが残してくれた島は土地面積が広く手付かずの自然が残され、点在する小さな村の人々は本土へ出稼ぎに行くか漁で暮らしていた。
広大な土地があるにもかかわらず開発が遅れているのは、島の大半が珊瑚礁に囲まれており大きな船を停泊させる港の建設ができないせいだった。
「珊瑚礁のない山側なら港自体は作れますが、山を迂回して運ぶのも山を越えるのも厳しいですね」
「トンネルを掘ればいいわ。すぐに業者を選定しましょう。但し、ノミとツチで作業する様なところは避けて、地質調査をして火薬を使って作業できるところでなくてはね。
それができるまでは別の方法を取らなくちゃ」
1ヶ月程度で島の様子を調べる予定が半年近くになり、ライラの考える奴隷を一切使わない健全な砂糖プランテーションの構想が固まりはじめた。
ライラの農園『Parvum spina』では雇用契約を結んだ従業員だけを使い、サトウキビを育てて現地で『粗糖』を製造する。いずれ『製糖工場』も設立する予定でいるが、多額の資金が必要になる為かなり先のことになると考えている。
「収穫から『粗糖』作りまでは労働力頼りだと言われているけれど、それにできる限り最新の機材を投入するわ。
奴隷を使うことでしか農場経営出来ない砂糖プランテーションの農場主を見返すのが目標だから」
「意味は『小さな棘』ですか。お嬢様にピッタリです」
「褒めてない、それ⋯⋯」
当初、大量の奴隷を使うのが当たり前の砂糖プランテーションを作ると聞いて難色を示していた村の長老達も、何度も話をするうちにライラの言葉に耳を傾ける様になった。
「奴隷を使わずに⋯⋯」
「村に道路や水道⋯⋯」
「山にトンネル?」
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