【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との

文字の大きさ
43 / 49

43.平民のライラには女の武器が⋯⋯

しおりを挟む
「恐れながら申し上げます。発言を宜しいでしょうか」

「申せ、但し挨拶も媚もいらぬ。何なりと申してみよ」


ライラと申します。王都の外れでのどかに暮らしておりますわたくしどものような、矮小な存在に参内せよとの知らせをいただきました事が不思議でなりません」

「其方らが国外へ行くつもりと連絡が来てのう」

(そう言うことか⋯⋯やっぱりプリンストンの生き残りとして要注意人物指定されていたのね。それにしても、態々陛下が尋問する?)

「どなたかの不安を煽りでも致しましたでしょうか? 特筆することもないような物見遊山の旅でございますれば、ご心配いただくほどの価値もないかと存じます」


「サン・ダマングスの北には何がある?」

 旅の準備を見張られていたのだろう、ライラ達の最終目的地がバレており国王にまで伝わっている。

「どのようにしてお知りになられたか存じませんが、臣下として不義を働くような事も人道に悖る行いに手を出すつもりもございません」

「サン・ダマングスと言えば砂糖プランテーションのメッカであったな」

「はい、サン・ダマングスには我が父プリンストンやターンブリー家が奴隷を売り渡した砂糖プランテーションが多数ございます」



「陛下、発言をお許しください。ライラ・プリンストンがその地を選ぶには理由があるはずと言う者がおります。の者が不正摘発のために調べた知識を有効活用するつもりであるとか、まだ公になっていない売買のルートを引き継ぐつもりではないかと。でありますれば、身柄を拘束し詮議するべきであると進言いたします」

 最初から苛立たしげな態度だった男が国王が小さく頷いたのを確認しながら、ライラを逮捕するべきだと口角に泡を飛ばす勢いで言い募った。


「ライラよ、宰相の発言を聞いて其方はどう思う?」

「わたくしのこれまでを思えば、ご指摘のようなご不安を持たれるのは自然の事であったと猛省致しております。
ですが、それを行うのであれば侯爵家や会社の影に隠れて行ったほうが安全であったとは思われませんでしょうか?
あの時点では彼等の行いは公になっておらぬどころか、疑いを持っておられた方もおられなかったように記憶しております。
ならば態々国中の目を集めた上で罪を犯そうとするのは荒唐無稽。それよりも、漸く自分の思うままに生きることが出来るようになっただけだとはお思いになられないのでしょうか?」

「正義を振り翳したはずが世の非難を一身に集め、個人資産まで投げ出さざるを得なかった。それを恨んでのことでしょう!?」

 エントラーゼ宰相は根強く残る悪評の『蛙の子は蛙』を信じている一人なのかもしれない。ライラの説明を聞いても一歩も譲る気配がないどころか益々ヒートアップしている様子さえ見えた。

「元より非難断罪される覚悟でございました。一族連座で処刑される覚悟のもとにはじめたのですから非難は当然、資産など残すつもりはございませんでした。
にも関わらずわたくし一人が生き恥を晒してはおりますが、彼等と同じ舞台に上がるつもりはございません」

「誰しも死を恐れる。告発した功により己の身の安全のみ嘆願するつもりであったのでしょう」

「それならば財を持って他国へ逃げ出すことを選んでおりました。その方が安全で確実でしたもの」

(それが出来ればハーヴィーは生きてたのかしら⋯⋯ううん、ハーヴィーは彼を置いては行けなかったのよね)



 ハーヴィーが心から愛していた⋯⋯ジェラルド・メイヨー。

『私にライラがいるように、彼にとってのライラになりたいだけなんだ』

『意味がわかんないわ。ジェラルドにとっての何?』

『能天気さと無鉄砲な勇気⋯⋯包容力。意味不明なほどいつも前向きなライラは、私に安心と勇気を与えてくれる存在なんだ。私もそんな存在になれたらいいなって思うんだ。ライラをみてると常識の方がおかしく思えて、それに囚われてるのがバカらしくなるから』

『間違い無く貶されてるけど⋯⋯まあ、ハーヴィーが元気になるなら許す!』

(私にとって安心と勇気を与えてくれる人はノアだった。ノアが私にくれたものをハーヴィーが受け取って⋯⋯ハーヴィーはジェラルドに渡してあげたかったんだよね。だけど⋯ジェラ⋯)



 物思いに耽っていたライラの耳にエントラーゼ宰相の冷ややかな声が聞こえてきた。

「このところ『砂糖』について調べておられるとか。砂糖プランテーションに金の匂いを嗅ぎつけられましたか?」

 ライラの想像以上に行動を見張っているのかここ最近の他国との手紙のやり取りが多すぎたのか、エントラーゼ宰相はかなり正確な情報を持っているに違いない。

「もし仮にそうだとして何か問題がございますでしょうか? わたくしは『砂糖』に興味を持っただけ、それを調べる事に疑義を挟まれるのは納得がいきませんわ」


「地図上ではトリニダラス島と記述されているようですね。馬車で1ヶ月以上かかりますが本土と島の間は船でほんの1時間」

「その通りですわ。色々と情報をお持ちのようですし、小出しになさらずはっきりと仰っていただけますでしょうか?
知られて困る事がございませんので、ご期待に添えず申し訳ないのですが動揺とか言い訳とかはできませんの」

 プリンストン侯爵令嬢だった頃の名残りで艶やかに微笑んだ口元を隠そうとして、扇子がない事に気付いた。

(女の武器がないのは不便だわ。平民はこんな時どうするのかしら)



「世間の関心が薄れはじめたので亡きハーヴィー・ターンブリーから島と資産を遺産として受け取られた。奴隷ファクターの情報もお持ちですし、傾いた貿易会社をあっという間に立ち直らせた手腕で船の手配などもお手のものでしょう。
砂糖プランテーションを立ち上げれば成功される事は間違いない」

 エントラーゼ宰相の演説にライラは吹き出しそうになった。成功間違いなしだと言われたのは嬉しいが、彼は大前提が間違っている事に気付いていない。

(そう言えば、宰相と法務大臣が徒党を組んで犯罪を行う者達への処罰を厳しくしようとしていたわね)


 法務大臣と宰相が提言しているのは犯罪が起きてから取り締まるだけでなく、犯罪を計画し実行に向けた準備行為があった時点で処罰しようというもの。

 ライラが組織した集団が犯罪を計画し実行する為の準備行為を行ったとして呼び出し、それを認めさせ処罰することができれば大きな一歩になると考えたのだろう。

 ライラには下地となる知識はあったが今までは資金に問題があったので見逃していた⋯⋯泳がしていた。

 ところが、計画を実行できるだけの資金と土地を手に入れたライラが情報収集をはじめ、現地調査に向かう準備まではじめた為国王に進言して呼び出した。


「わたくしの行動を犯罪の準備行動だと決めつけられるならば、証拠を示していただきませんと納得致しかねます。でなければ宰相閣下の大願成就に利用するつもりだと誤解されかねない行いだと愚考致します」


(やっぱり⋯⋯扇子が欲しいわね)

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました

さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。 時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。 手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。 ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が…… 「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた ホットランキング入りありがとうございます 2021/06/17

捨てられた私は遠くで幸せになります

高坂ナツキ
恋愛
ペルヴィス子爵家の娘であるマリー・ド・ペルヴィスは来る日も来る日もポーションづくりに明け暮れている。 父親であるペルヴィス子爵はマリーの作ったポーションや美容品を王都の貴族に売りつけて大金を稼いでいるからだ。 そんな苦しい生活をしていたマリーは、義家族の企みによって家から追い出されることに。 本当に家から出られるの? だったら、この機会を逃すわけにはいかない! これは強制的にポーションを作らせられていた少女が、家族から逃げて幸せを探す物語。 8/9~11は7:00と17:00の2回投稿。8/12~26は毎日7:00に投稿。全21話予約投稿済みです。

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

処理中です...