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〈フレドリクサス編〉
15『ありがとう、よかったらどうか、これからも』①
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時刻は、夕方の六時。
ヨシは、自分の家の玄関扉をくぐりました。
「ただいま――」
不機嫌な声が、薄暗い玄関にさびしく響きます。
カッ! 廊下の電気がついたと思うと、奥のリビングからヨシの父親が、
ドカドカと足音を立てながらやってきました。
「おい、小僧! こんな時間まで勉強もせずに出歩くとは、どういう了見だ!」
口やかましくヨシに食いかかりながら、父親は両手を強く握りしめます。
「……べつに。たいした用事じゃないさ。ちょっと探し物をね」
そう言いながら、ヨシは靴をぬいで、廊下へと歩き出します。
「探し物だと? 笑わせるな! 門限は五時だと、いつも言っとるだろ!
それともわしの言うことが聞けないのか、このならず者め!」
「心配しなくても」ヨシはピタリと立ち止まり、父親に堂々と向き合います。
「ぼくは父さんが思っているみたいな、不良男になるつもりはないよ。
ならず者だなんて、古い言い回しだなあ。しかも心外だよ。
ぼくが父さんに逆らったこと、今の今まで一度でもあった?」
「その憎たらしい態度が、すでにわしに逆らっていると言っとるんだ!
ずっと昔からそうだぞ。お前は、わしの言うことさえ聞いていればいいのだ!」
父親は、しつこく廊下につばを吐きながら怒鳴り続けます。
今日のヨシは、虫の居所が特別悪いのです。これ以上は、限界でした。
「だったら、父さんもたまには、一つぐらいぼくの言うことを聞いてくれよ!
いつもいつも頭ごなしに勉強しろだの、門限はこうだの、言うことを聞けだの、
イマドキの父親として、情けないと思わないの!?
ホントに勘弁してほしいよ、ぼくは、ウンザリしてるんだから」
せきを切ったようにあふれ出した言葉が、父親の五臓六腑に刺さりました。
十歳を迎えたさとい息子の、突然の反抗。
しかし、感情を爆発させたその言葉は、父親の逆鱗に触れてしまったのです。
父親は、破裂寸前の赤ら顔をして、つかつかとヨシのほうへ歩みより――
次の瞬間、家じゅうに反響したのは、鋭く突き刺さるようなはたき音でした。
――五分後。
ヨシは、薄暗い自室の壁によりかかりながら、うずくまっていました。
真っ赤に腫れた左頬を、片手でいたわりながら。
「……まったく、なんちゅー親やねん」
突然、だれかの声がして、ヨシは表情を上げました。
目の前に、あのルドルフが立っています。
まるで当たり前のように、両手を組みながら。
「あれがお前さんのオトンかいな。よくもまあ、あないな父親んもとで、
十年もいっしょに暮してこれたもんやなあ。
ワイやったら、とうの昔にみだれ引っかきでいてまってから、
とっとと家出しとるで、ホンマに」
ルドルフは、なぐさめるつもりなのか、ヨシの方へと歩みよってきました。
「……どうやって入ってきたんだよ?」
「まあ、そこはシュレデンガー・ラボの企業秘密や。細かいことは気にしいなて。
……殴られたんか、その頬?」
「……イマドキ、めったにないだろ。慣れてるよ、こんなのとっくに」
「はぁ~。ジブン、強がりもええけど、
外出禁止もくろたんやろ。それも無期限の。おまけに、晩飯ぬきときた。
どっか、児童相談所に電話一本でも入れたほうが、ええんとちゃうか?」
「だめだ!」ヨシはかたくなに首を振りました。
「それじゃあ、負けを認めたことになるじゃないか。そんなの、ゼッタイ嫌だ!」
「……オカンはどうしてん?」
「母さんは……ぼくよりも父さんの言いなりなんだ。
だから、ぼくのことなんか、いつもほっといてるよ……こんな時も」
「なんや、ごっつセレブな夫婦も、一皮むいたら、お粗末なもんやな。
ま、外出禁止中でも、ワイらがなんとかして、この家から出したるよって」
ルドルフは、右手をヨシのひざの上に、ポンと乗せました。
「ワイがおらんと、ジブン、この先もあのドラギィたちと接触でけへんやろ」
そうです。
ヨシは、あきらめないと宣言したのです。彼らの目の前で、はっきりと。
ヨシは、返事に戸惑いました。こんなに猫から優しくされるなんて、
十年間生きてきて、夢にも思わなかったのですから。
それとも、裏がある? いや、そんなふうには毛先ほども見えません。
結局ヨシは、何も言わずに片足で、ちょんと、ルドルフを押すのでした。
「おーっとっと。ははっ、今のは、感謝のしるしと受け取ったるで。
しっかし、驚いたわ。まさか相手も、ケッタイな物を所持しとったとはな」
「ケッタイな物?」
「よう思い出してみい。あのドラギィたち、妙な装備しとったろ。
人間の子どもらも、手首におかしなリストバンドつけとったし、
あれつこて小さくなったり、大きくなったりしとんのやろな」
「つまり、あいつらのバックに、だれかがいる……」
「せや。ワイが持っとる研究施設と同等の科学力を有した、だれかがな」
つまるところ、これからも一筋縄ではいかない。
ヨシはひとり、心の奥底で肝に銘じるのでした。
ヨシは、自分の家の玄関扉をくぐりました。
「ただいま――」
不機嫌な声が、薄暗い玄関にさびしく響きます。
カッ! 廊下の電気がついたと思うと、奥のリビングからヨシの父親が、
ドカドカと足音を立てながらやってきました。
「おい、小僧! こんな時間まで勉強もせずに出歩くとは、どういう了見だ!」
口やかましくヨシに食いかかりながら、父親は両手を強く握りしめます。
「……べつに。たいした用事じゃないさ。ちょっと探し物をね」
そう言いながら、ヨシは靴をぬいで、廊下へと歩き出します。
「探し物だと? 笑わせるな! 門限は五時だと、いつも言っとるだろ!
それともわしの言うことが聞けないのか、このならず者め!」
「心配しなくても」ヨシはピタリと立ち止まり、父親に堂々と向き合います。
「ぼくは父さんが思っているみたいな、不良男になるつもりはないよ。
ならず者だなんて、古い言い回しだなあ。しかも心外だよ。
ぼくが父さんに逆らったこと、今の今まで一度でもあった?」
「その憎たらしい態度が、すでにわしに逆らっていると言っとるんだ!
ずっと昔からそうだぞ。お前は、わしの言うことさえ聞いていればいいのだ!」
父親は、しつこく廊下につばを吐きながら怒鳴り続けます。
今日のヨシは、虫の居所が特別悪いのです。これ以上は、限界でした。
「だったら、父さんもたまには、一つぐらいぼくの言うことを聞いてくれよ!
いつもいつも頭ごなしに勉強しろだの、門限はこうだの、言うことを聞けだの、
イマドキの父親として、情けないと思わないの!?
ホントに勘弁してほしいよ、ぼくは、ウンザリしてるんだから」
せきを切ったようにあふれ出した言葉が、父親の五臓六腑に刺さりました。
十歳を迎えたさとい息子の、突然の反抗。
しかし、感情を爆発させたその言葉は、父親の逆鱗に触れてしまったのです。
父親は、破裂寸前の赤ら顔をして、つかつかとヨシのほうへ歩みより――
次の瞬間、家じゅうに反響したのは、鋭く突き刺さるようなはたき音でした。
――五分後。
ヨシは、薄暗い自室の壁によりかかりながら、うずくまっていました。
真っ赤に腫れた左頬を、片手でいたわりながら。
「……まったく、なんちゅー親やねん」
突然、だれかの声がして、ヨシは表情を上げました。
目の前に、あのルドルフが立っています。
まるで当たり前のように、両手を組みながら。
「あれがお前さんのオトンかいな。よくもまあ、あないな父親んもとで、
十年もいっしょに暮してこれたもんやなあ。
ワイやったら、とうの昔にみだれ引っかきでいてまってから、
とっとと家出しとるで、ホンマに」
ルドルフは、なぐさめるつもりなのか、ヨシの方へと歩みよってきました。
「……どうやって入ってきたんだよ?」
「まあ、そこはシュレデンガー・ラボの企業秘密や。細かいことは気にしいなて。
……殴られたんか、その頬?」
「……イマドキ、めったにないだろ。慣れてるよ、こんなのとっくに」
「はぁ~。ジブン、強がりもええけど、
外出禁止もくろたんやろ。それも無期限の。おまけに、晩飯ぬきときた。
どっか、児童相談所に電話一本でも入れたほうが、ええんとちゃうか?」
「だめだ!」ヨシはかたくなに首を振りました。
「それじゃあ、負けを認めたことになるじゃないか。そんなの、ゼッタイ嫌だ!」
「……オカンはどうしてん?」
「母さんは……ぼくよりも父さんの言いなりなんだ。
だから、ぼくのことなんか、いつもほっといてるよ……こんな時も」
「なんや、ごっつセレブな夫婦も、一皮むいたら、お粗末なもんやな。
ま、外出禁止中でも、ワイらがなんとかして、この家から出したるよって」
ルドルフは、右手をヨシのひざの上に、ポンと乗せました。
「ワイがおらんと、ジブン、この先もあのドラギィたちと接触でけへんやろ」
そうです。
ヨシは、あきらめないと宣言したのです。彼らの目の前で、はっきりと。
ヨシは、返事に戸惑いました。こんなに猫から優しくされるなんて、
十年間生きてきて、夢にも思わなかったのですから。
それとも、裏がある? いや、そんなふうには毛先ほども見えません。
結局ヨシは、何も言わずに片足で、ちょんと、ルドルフを押すのでした。
「おーっとっと。ははっ、今のは、感謝のしるしと受け取ったるで。
しっかし、驚いたわ。まさか相手も、ケッタイな物を所持しとったとはな」
「ケッタイな物?」
「よう思い出してみい。あのドラギィたち、妙な装備しとったろ。
人間の子どもらも、手首におかしなリストバンドつけとったし、
あれつこて小さくなったり、大きくなったりしとんのやろな」
「つまり、あいつらのバックに、だれかがいる……」
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