DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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③〈フレドリクサス編〉

14『臭くて危ない怪物は、すぐお帰りください!』②

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ルドルフの号令とともに、三十を超える猫どもが、
一斉に黒猫カーの中へ避難をはじめました。

ヨシもこれには腰をぬかしたのか、
脇目もふらずに猫どものあとに続きます――が、

「ああっ!」

ヨシは小石にけっつまずいて、転倒してしまいました。

「小野寺!」

レンは小野寺のもとへ駆けつけようとしますが、
その前に巨大イカの足が伸びてきて、レンを捕えてしまいます。

「逃げろ、小野寺ー!」

(あいつ、今……)

ぼくに手を差しのべようとした?   呆然としてそう思っていると、
もう一本の足が伸びてきて、たちどころにヨシを捕まえてしまいました。


「うわ~~~っ!」「放せよー、コノヤロー!」

ジュンとタクも、イカ足のえじきになっていました。


このままでは、子どもたち四人とも、巨大イカに連れ去られてしまいます!


「フリーナ、ぼくを手伝って!」

フラップは巨大化してから、巨大イカの頭にむかってしゅうっと飛んでいくと、
その先端をつかんで、巨大イカを逃がすまいと引っぱりました。
フリーナも、なんとなく意図を察して、
フラップのもとに駆けつけると、いっしょにその頭を引っぱります。
臭いうえに、ヌルヌルした身体が気持ち悪い!   フリーナにはこたえました。   


フレディはただひとり、空中で立ちすくんでいました。
瞳に涙を浮かべながら、呆然となりゆきを見つめています。

(無理だ。こんなやつ相手に、ぼくらがかないっこない)

もしもこの場に、ぼくがに会った『彼』が駆けつけてくれれば、
状況はまるで違うだろうに。

(ああ何か、この状況を一発で逆転できる方法があれば……)

逆転、する?   逆転させる?

フレディの頭に、砂時計がそっくりひっくり返るような、名案が浮かびました!


「みんな!   少しの間だけねばっててくれ!!」


フレディは、ぐいっと涙をぬぐうと、身体に力をこめて巨大化し、
湖にむかって飛びこんでいきました。

ザッパァァン!

水鳥のように水中へと消えていったフレディ。
フラップとフリーナには、フレディの行動の意図がまったく読めません。

「フレディは何するつもりなのーっ!?」

「分からないよっ!   ……とにかくこいつをっ、足止めするんだっ!」

巨大イカとの攻防が続き、ドラギィたちの引く力にも、限界が近づいてきました。

「あーん!   おたがいっ、元気ドリンクもっ、全部飲み干しちゃったしっ。
このままじゃっ、ホントになんにもっ、できなくなっちゃうヨ~ッ!」


その時でした。
湖の中心が、ザァーザァーと妙に騒がしくなってきたのです。

フラップが目をこらしてみると、とんでもないものが瞳に映りました。

「ああ~っ、なんだあれ!」


渦潮です!   ものすごく大きな!

逆巻くような白波を立てて、
湖に満ちた海水が、湖底へと吸いこまれているように見えます。


ザアアァァァァァァーー!!


渦潮はみるみる大きく、深くまでうねって落ちこんでいき、
視界いっぱいに広がる湖の水が、恐ろしい勢いでなくなっていくのです。
まるで、水底をふさいでいた巨岩のようなコルク栓が、スポンとぬけたよう!


   ぐごごおおぉぉぉーー!?


巨大イカが、出しぬけに声を張り上げたかと思うと、
その巨体がゴムのようにブルブルとふるえはじめました。
やがて、頭のてっぺんから何かに引きよせられるような具合になり、
巨大イカの図体が、ぼんやりと半透明に薄れながら、宙に浮かび上がります。

その拍子に、四人の子どもたちの身体が足からずり落ち、
水面に落下していきました。

「フリーナ!!」

フラップの叫びとともに、フリーナは金色の光の矢になって、
次々と子どもたちをキャッチ。見事、岸の上へと着地しました。

フラップたちの手を離れ、空中へ引っ張られていった巨大イカは、
まるで穴が開いて空気がぬけていく風船のように、
ぐるぐると高速で渦を描きながら、液体よろしく、渦潮の中心へと消えていきます。

湖の水深が徐々に浅くなっていき、渦潮も水かさを減っていくように見えます……。


ゴッポン!

トイレの水が流れ落ちるような、深くにぶい水音。

完全に海水がなくなり、本当の湖底があらわになりました。
水深は、ほんの二十メートル前後でしょうか。こんなにも浅かったとは。

その湖底の中心に、あのテニスコートサイズの扉と、
フレディの姿がありました。

遠いフレディの姿は、握りしめた両手を腰のあたりまで引いたかと思うと、
思いきり、万歳のポーズをしました。

その瞬間、穴の底から――


   ドドドォォォォォーー!!


地中から飛びだす温泉のごとく、輝くようなが湧き出しました。

水は、信じられない速さで、くぼ地に満ちわたってきます。
湖が一秒でも早く、元の姿を取り戻そうとしているのでしょう。

   *

「さあ!   これで何もかも解決だ!」

フレディが悠々と両手を広げながら、こちらへと戻って来ました。
全身がすっかりびしょ濡れですが、かえって活気づいているように見えます。

「フレディ!   キミいったい、何をしたの?」と、タクが聞きます。

「いやなに、湖の底にあった異界穴を使って、逆向きに召喚しただけだよ。
あの扉は、裏世界から例の怪物と、そいつの生息していた環境を呼び出して、
こっち側に留める役割をしていた。なら、その逆もありだと思ってね」

「ドラギィは、そんなことまでできるんだね!」と、レンは感心しました。

「まあ、普通に異界穴を開くよりも高度な技術だから、
この中ではまだ、ぼくにしかできないだろうけどね。
ついでに、あの異界穴をぼくの術で『施錠ロック』しておいた。
これでもうあの猫たちは、ここの異界穴から、例の怪物を呼び出せない。
ぼくの力なしでは、ね――」

といって、フレディは、ヨシのほうを見ました。

ヨシは、完璧にしてやられたような悔やみ顔をして、
ドラギィたちと、レン、ジュンとタクを順々ににらみました。

「小野寺。まだ彼らと続ける気はある?」と、レンは言いました。

「くそっ!」ヨシは吐き捨てるように言います。
「ぼくは、あきらめないからな。覚えてろ!」

ヨシは、後方の黒猫カーへ退却しました。
レンと、フレディの顔をふり返り見ながら。

彼が二台のドアをくぐって閉めたのと同時に、
黒猫カーはけたたましいタイヤの音をうならせながら、
バック走で森の中へと走り去っていくのでした。


「やっと休めます~~」

「ああ~~~。おわったあ~~~」

フラップとフリーナは、すっかり緊張がほぐれて、
みるみる仔犬サイズになっていきました。

「ぼくも、今回はさすがにこたえたな。いろんな意味で……」

フレディも、同じくらいに縮んでいきました。
それから、レンの両腕の中に飛んできて、こう言うのです。

「でも、同じみなしごとして、負けられなかった。
ぼくなら、ヨシくんのように、あんな仕打ちはしない。
一度仲よくなった友達には、ね……でも辛かったあ~!   えぇ~ん!」

こらえていた感情が解き放たれたのか、
フレディはやっと声を上げて泣き出すのでした。

「キミにも、お父さんとお母さんがいないんだね」レンは言いました。
「なのに、キミはすっごく立派だよ!   小野寺とは大違い。
あいつは少し、フレディを見習えばいいんだ。フラップと、フリーナのことも」

レンの顔の近くまで飛んできた、フラップとフリーナは、
照れくさそうなしぐさをしながら、ブンブンとしっぽを振っていました。

レンには、お父さんもお母さんもいます。
だから、フレディやヨシの気持ちが、はっきり分かるとは言い切れません。
だからこそ、もっといろんなものを知りたい……その思いが胸にあるのです。

「みんな。お疲れ様」タクは、この場にいる全員を労います。
「なんとか巨大イカの写真も撮れたし、これで依頼はクリア、だね」

「おれたち人間も、なかなか頑張ったんじゃねえ?   すげー大冒険だったし。
あれ?   でも、なーんか一つ忘れてるような……」

子どもたち三人は、頭をひねりました。
そういえば、今回この場には、ユカはいませんでした。
それもそのはずです。彼女は今、自分の家で友達と誕生会をしていて――


「「「ああぁ~~~っ!   ユカちゃんの誕生会!!」」」


時刻は、もうすぐ二時半。あと三十分ではじまってしまいます!

「早く、早く!   うさみ町に戻って、ユカちゃんちに!」

レンがあたふたしながら、ドラギィたちに飛行をせがむと、


「あのう、それが……」

フラップ、フリーナ、フレディは、何やらもじもじしながら、
気まずそうにチラチラとこちらを見ています。

「ぼくたち三にんとも、もう元気ドリンクを飲み尽くしちゃって、
食べ物がないと、もう大きくなれないんですよう」

「マジかよ……。おれ、食い物持ってねーって」

「ぼくも。最近、お菓子の食べすぎだって、母さんに止められてさ」

「オレも、ないや。ちっちゃい水筒のお茶しか」

ということは、ドラギィたちは大きな姿で空を飛ぶことはできません。
小さい姿で飛ぶとなると、うさみ町まで、行きより数倍も時間がかかります。

「もう一つ、重大な問題があるじゃないか」

もう泣き止んでいたフレディが、こう言いました。

「キミたち三人とも、その、ユカという子にあげるプレゼント、
まだなんにも用意できてないだろ?   それで会いに行けるのか?」


「あー……」子どもたちは、肩をすくめました。


「プレゼントは、大事!」フリーナが言いました。
「祝ってあげる気持ちが一番だケド、ちゃんと形にして贈ってあげないと」

「さすが、毎年親友たちからもらっている女の子は、言うねぇ……」
と、フラップが皮肉をこめて言いました。

「あーあ!   せっかくカメラで巨大イカを激写したってのによー、
これじゃあ、ぜーんぜん、めでたしめでたしじゃねーって」

ジュンが自分のスマホを上空へ捧げ持ちながら嘆いていると、
レンがそれを見て、ピンとひらめきました。

「あ、あのさ……カメラで思いついたんだけど、こんなのどうかな?」
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