DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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③〈フレドリクサス編〉

14『臭くて危ない怪物は、すぐお帰りください!』①

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ゴロゴロゴロ……!
空をおおう怪しげな雲と冷風が、急を告げるように雷鳴を連れてきました。

前門のルドルフ軍団、後門の巨大イカ。
こんなにもまずい状況は、いまだかつてありません。

巨大イカは、気味の悪い未知の生命体のように、
無数の足で水面をかきなぐって、岸へと接近してきました!

その迫力といったら、凶暴な恐竜や巨大ロボが歩いてくるようなものです。
しかし当然、子どもたちは、生でそんな経験をしたことは一度もありません。

「オレたちを空まで運んで!」

レンとタクは、パニックになってドラギィたちにすがりました。

「ダ、ダメですよう!
ぼくらは浮遊の力だけでは、だれかを乗せて高く飛べないんだから!」


巨大イカは、あっという間に岸辺に到達すると、
水中から四本の長い足をヘビのようにもたげ、しゅうーっと一斉に伸ばし、
たちどころに子どもたちとドラギィたちを捕えてしまいました。

「うわあ、放せ~っ!」「ひいい、ぬるぬるしてる~!」

宙へと持ち上げられながら、じたばたする一行。
巨大イカの足による拘束は、強力でした。アナコンダの胴体を思わせるほどに。
実際のところ、骨が折られるほどしめつけられてはいませんが、
子どもの力ではびくともしません。絶妙な力加減です。
それにしても、体に触れる吸盤が口のようにブニブニと動いて、気持ちが悪い!
しかも臭い!   まるで下水道でも泳いできたような臭さなのです。
その異臭が、ドラギィたちの鼻孔を、拷問のごとくどつき回しました。

「ええぇぇ~ん!」案の定、フレディが大泣きしはじめます。
「臭い~!   許してくれよう!   悪かったよう~!」

「ぼくも~!   もう二度としませんから~!」
フラップまで泣きじゃくっています。

ふたりとも、何にたいして謝っているのやら。


ところがその時、二匹はみるみるうちに縮みはじめ、
太いゲソの中に見えなくなりました。


そしてそのまま……ストン!
仔犬サイズになったフラップとフレディが、
臭いゲソの虜から解放されてぬけ落ちたのです。

「「あれ?   ぬけた!」」


吸盤とモウレツな異臭から解放されたものの、
今のドラギィたちには、レンとタクを救い出す術がありません。
翼を封じられたドラギィは、宙をただようクラゲも同然なのですから。


ニャーニャー!   ニャニャー!   ニャーゴ!!

「なーに、いっちゃん大事なもん逃がしとんねん!   さっさと捕まえんかい!」

岸に集まった猫どもが、にわかに騒ぎ出しました。


ピカッ!   カッ!   ピカピカッ!

はるか上空の黒雲の中に、にぶく光を放つ雷が。


「この、独活うどの大木め!   ぼくをがっかりさせるな!」


ヨシの辛らつな鶴の一声が飛んできました。

その言葉の意味を知ってか知らずか、巨大イカが胴体をゆすりながら、
ウシのようなうなり声を上げて、空になった二本の足を伸ばしてきます!
ああ、やっぱりもうダメ――。



「……ビリビリビリビリ、ドッカーーーーーン!!」



どこからともなく高らかにひびき渡る、愛らしい声。
そして、次の瞬間――



   ドオオオォォォォーーーーン!!



巨大イカの胴体を貫くように、七色のイナズマが落ちたのです。

捕らわれの子どもたち、フラップとフレディ、
そして、岸にいた猫どもやら、ヨシやら、黒猫型ドローンやら、
何もかもがすさまじい電力に感電してしまいました。

身体の芯まで激しくゆさぶり、目の奥にまで星々が飛び交い、
けれどまったくもって苦痛を感じない……幸福感すらある、この雷。


フラップとフレディが気づいた時、
目の前には、半焦げになってクラクラと体をゆらす巨大イカ。
その二本の手から、今まさに、レンとタクが滑り落ちました。

「「あーっと!!」」
まるで条件反射のように、ドラギィたちは巨大化して飛びだしました。

二人が水面に着水する直前――なんとかキャッチに成功。

そのまま二人を胸に抱いて、ドラギィたちは岸に降りました。
レンとタクは、すっかり目を回しています。まだ慣れていないのです。

まわりのルドルフ軍団も、やっぱりノックアウトされていました。
あの高慢ちきなヨシまでも、あられもない姿で伸びています。
彼のまわりには、電気を帯びたまま地面に転がる黒猫電撃ドローンたちが。
どうやら、感電した影響で壊れてしまったようです。

「まったく、遅いぞ!   キミはいつも遅すぎる!」

フレディが、いきなり空にむかって声を上げました。

「そうだよう!   ぼくたちを置いて、逃げちゃったのかと!」
と、フラップも空へ叫びました。


――今、ほのかな黄色い光を帯びながら、
黒雲を背にして飛んでいるドラギィが一匹。


「ハァーーイ!   お待たせしましたぁ!
みんなのアイドル、フリーナちゃんが帰ってきたよぅ!」

笑顔です。それも無傷。
ピンクの肉球つきの両手を振って、こちらに降りてきます。
水泡の術は解けていましたけれどね。

「ついでに、おれも帰ってきたぞー!   もれなく元気だぞー!」
背中に乗っていたジュンも、スマホを持った手を振っています。


――魚雷ザメに追われていた時、
このふたりは、実のところ、一番最初に湖から飛びだしていたのです。
あんまり速かったので、フラップとフレディにも気づかれないほど。

というのも、フリーナには、
《電光石火》という、雷のように高速で飛び回る能力があるからでした。
フリーナは、まずこの能力で、湖の反対側の水辺から、
森の中まで光のごとく移動し、まんまと黒猫ドローンの監視を逃れたのです。
この能力のいいところは、背中に乗せた者や、胸に抱いた者、
とにかく自分と密着している者もふくめて、光に変えて運べるということです。


右往左往合ったものの、一行は、ようやく合流を果たしました。
フリーナまで翼を封じられていたら、今頃どうなっていたことか。


「すっげー!   巨大イカ、ホントにいんじゃん!   でっか!   ぬるぬるしてる!」

ジュンは、岸から巨大イカの姿ながめつつ、スマホで写真を撮りまくりました。
もちろん、ドラギィたちの姿が写りこまないように、注意をはらって。

「いやーん!   レン~、タク~。あたしのために目を覚まして、オネガイ~!」

フリーナは二人の体を胸に抱きよせて、必死に呼びかけていました。

「……キ、キミのために、目を覚ますって、なんだよ……」

「うぅ~、まだ体がふらふらする……」

レンとタクは、まもなく意識を取りもどしました。

それから、いまだ放心状態の巨大イカや、
バタバタと倒れていたルドルフ軍団をぐるりとながめて、ほっと一息。
そして、レンとタクは、巨大イカとこの湖の秘密について、
ジュンに洗いざらい説明したのでした。

「なら、こいつ……もう動かないわけ?」

と、ジュンがイカを見上げながら聞くと、レンが苦笑しながら答えました。

「だって、ほら……フリーナの雷を、もろに食らったんだし。
さすがにもうしばらくは起きないんじゃないかな。
それより、今のうちに逃げようよ、早くここから……あ、そうか、
フラップたちは翼がしびれてうまく飛べないんだっけ」

「翼がしびれてって……フラップとフレディ、何かされたのォ?」
と、フリーナが聞きました。

「それなら心配ないよん!   
さっきの雷は、あたしのハッピー☆サンダーだもん。
どんな罠で翼がしびれさせられても、すっきりしゃっきり治っちゃうヨ。
あたしの雷は、そういう作用がある、幸せの雷なんだもん!」

「そうそう!   おかげでぼくたち、この通り!」

フラップとフレディは、空中でくるんくるんと、軽やかな宙返りをきめて、
自分たちの翼が、もうなんの異常もないことをアピールしたのです。

すると、まわり中で猫どもの起き上がる気配がしました。
ルドルフをふくめた軍団が、次々と目を覚ましたのです。

「あ、あああ……なんちゅうこっちゃ。
ワイの、ワイのかわいいゲソ次郎がぁ……!」

ルドルフは、もつれる足で巨大イカをあおぎながら、あわれみました。

「……なんだよ、結局、役立たず、じゃないか」

ヨシも、上半身を起こしていました。
手に持っていたコントローラーの画面が、ブラックアウトしています。
完全に故障してしまったのでしょう。

「くそっ、うんともすんとも言わないぞ、これ。
おい、怪物イカ!   目を覚ませ!   さっさとドラギィたちを捕まえろ!」


もぞっ……。
水面に浮かんだゲソが、一瞬だけ動いたかと思うと――



   ぐごごごおぉぉぉーーーー!!



意識不明かと思われた巨大イカが、
突然胴体をふるわせて、雄たけびを上げました!

しゅぅう、バシャーン!   しゅぅう、バシャーン!

四肢を鞭のごとく水面に打ちつけ、めちゃくちゃに水しぶきを上げています。
先ほどまでと打って変わって、凶暴さが増しているようです。

「ア、アカン!   コントローラーの洗脳機能がのーなってしもて、
完ぺきに制御不能になっとるわ!   全員、避難せぇ~!   避難や~!」
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