DRAGGY!ードラギィ!ー【フレデリック編連載中!】

Sirocos(シロコス)

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③〈フレドリクサス編〉

15『ありがとう、よかったらどうか、これからも』②

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場所は変わって、ユカの家。
今まさに、ユカが玄関前で、アヤ、サキ、クミの三人にむかって、
バイバイの手を振っているところでした。

「今日は、みんなありがとう!   また明日ね!」

「ユカ~、来年はボーイフレンドの坂本君も、来てくれるといいね~!」
と、サキがいたずらっぽく言い残していきました。

「もう、サキったら、そんなにわたしとレン君、お似合いに見えるのね」

誕生会は、とっくにお開き。
みんなで、両親が用意してくれたごちそうを食べたり、トランプをしたり、
人気のパーティーゲームで盛り上がったり、忙しかったこと。
もちろん、最後に食べたバースデーケーキも、最高でした。

「……ふぅ」夕暮れの淡い月を見上げながら、ユカは一息。

「レン君たち、とうとう来なかったなあ」

少しさみしい気持ちもありましたが、
あらかじめ、なんでも調査隊の活動があることは、承知の上でした。
湖まで同行しなかった自分の方が、むしろ、申しわけないのかもしれません。

(謎の巨大生物、見つかったのかな。
フリーナや、みんな……食べられたりしてないかな)

リビングに戻ると、両親が空になったケーキの皿を片づけていました。

「おーい、ユカちゃん」と、メガネをかけたお父さんが呼びました。
「クミちゃんがくれた、あのクマさんのティッシュケース、
本当にリビングで使っちゃっていいの?」

「うん、いいよ。わたし、自分のティッシュには、
ヒツジのケースをつけちゃってるから。迷ったけど、ここで使ってあげてね」

「でも、あなたってば」今度は、台所からお母さんが話しかけてきます。
「アヤちゃんとサキちゃんがくれた、ウサちゃんのスマホスタンドと抱き枕は、
ちゃんと自分の部屋に置いてあげるのねえ」

「えへへ。まあね」

ユカのお父さんは、自分の娘と、かわいいものが大好きな、変わった人でした。
この地中海風のきれいな家も、家じゅうに置かれた可愛らしい動物の家具も、
すべてお父さんの趣味。いいえ、半分は愛する娘のためかもしれません。
お母さんも、いつもユカのことを気遣う、とても優しい人です。


それはともかくユカは、
一人で風呂に入ってから、歯をみがき、そして自分の部屋へ。

時刻は、すでに夜の七時を過ぎていました。
ユカは、少し気分でも変えようと、
棚からピンク色の小型パソコンを降ろして立ち上げ、
お気に入りのアニメでも観ようかと思いましたが……なぜか気が進みません。
ホーム画面に映る、好きなバーチャルシンガーの背景画像をぼんやり見つめて、
ぽつねんと頬杖をつくばかり。

机の端にならべた、フェルトで作った赤と黄色のドラギィ人形。
モデルはもちろん、フラップとフリーナ。
ここに、新しく青いドラギィのフレディを加えるつもりです。
この目で実際に見るまでは、作らないと決めていましたが、
まだ一度も、その姿を目にすることができず――

「明日、レンくんがフレディを連れてきてくれたら、嬉しいなあ」

と、独り言をつぶやいた時でした。
ユカは、自分の頭の中に、レンの顔が大きく現れ出たのがはっきりと分かって、
なんだか不思議に思いました。
どうして今、レンのことを強く考えてしまったのでしょう?
友達としてつきあいはじめて、まだまだ月日が浅いというのに。

(いつの間にか、レンくんのことが、気になってる?)

そういえば、この間、学校でヨシにからまれた時に、
レンが自分の前に出てかばってくれたことがありました。

(あの時のレンくん、ちょっとカッコよかったかも)

それにここ最近、レンがドラギィたちに囲まれながら笑っている光景が、
しきりに頭をよぎるようになっていたのです。
少し前なら、ねたましい気持ちになっていたかもしれませんが、
今なら純粋に、そんなレンの姿に心が温められていくようで――


   ピロリーン!


スマホが、ライムのメッセージ通知の音を鳴らしました。
この音は、学校の友達用に設定した音です。

「こんな時間に?   いったいだれかな」

ユカは、ウサギのスタンドからスマホを取り、
ライムを立ち上げました。

レンとユカだけのトークルームに、
レンからのメッセージが貼りつけてあります。

『ユカちゃんへ。今日は、お誕生会に行けなくて、ごめんなさい。
でも、なんでも調査隊のはじめての依頼は、なんとか達成しました。
これが、はなもり山の湖にいた巨大生物です。(拡散しないでね)』

ピロリーン!
あの巨大イカをいろんな角度から撮った写真が、全部で四枚、送られました。
フリーナの雷を食らって、ぐったりした様子ですが、ものすごい大物です。
レンとタクが、いっしょに写りこんでいるのもあります。

(……あ、あぜん!)

信じがたい写真を見せられてびっくりしてしまいましたが、
ユカは、レンからのメッセージが届いただけでとても嬉しくなって、
さっそく返信をしました。

〈すごい!   正体はイカだったんだね!   こんなのが湖にいたなんて不思議!
見つけられたのは、例のフレディくんのおかげかな〉

ピロリーン!   レンからコメントが返ってきました。

『そうそう!   今回無事に調査を終えられたのは、フレディのおかげ!
はじめから最後まで、大活躍だったんだ』

〈いいなあ。フレディに会ってみたい!
ところでその写真、もう依頼人には見せてあげたの?〉

ピロリーン!

『この写真を、依頼人である六年の先輩に見せたら、すっかり驚かれちゃって。
《こんなにヤバいの、さすがにだれにも見せられないから、
その写真は厳重に保管しといてくれ!》なんて、結局言われちゃった』

〈骨折り損の、くたびれもうけ?   レン君たち、頑張ったのにな〉

ピロリーン!

『本当のところ、頑張ったのはドラギィたちなんだけどね。
それで、ジュンとタクと三人で、ユカちゃんに贈るプレゼントを、
ずっと考えていたんだけど、さっきようやくひらめいて!
今回は一つ、みんなで動画をプレゼントすることにしました!』

動画?   どんな映像を作ったんだろう。
それとも、撮影した?   いつ?   調査の後に撮影なんて、すごいなあ。

『たった今、撮った動画をしろさんが急いで編集して、
ユカちゃんのパソコンに添付てんぷメールで送ってくれました。
面白いカンジに撮れたから、ぜひ開いて観てみてください!』


――メッセージの通りに、パソコンのEメールを開いてみます。
受信トレイの一番上に、フレデリック・ラボのコンピューターから、
一通の動画ファイルつきのメールが届いているではありませんか。

ユカは、にわかに胸がドキドキしてきて、
待ちきれずに動画ファイルを再生してみました。


『『『ユカちゃん、誕生日おめでとーー!!』』』

ユカの十歳を祝う横断幕の下に、左からジュン、レン、タクとならんでいます。
撮影場所は、どうやら、しろさんのラボにあるホールのようです。
真っ白い近未来風の内装のおかげで、はっきりと分かりました。

『こんな形でしか贈れませんが』ジュンが、柄にもなくかしこまっています。
『おれたちからユカちゃんへ、精一杯のプレゼント動画を撮りたいと思います!』

『ああ、こらこら、フリーナってば。チーズなんて食べてないで』

レンの隣にいるタクが、
カメラの後ろに隠れているであろうフリーナに言いました。

『だってェ~、むぐむぐ、お腹ペッコペコなんだもん』

『それは後にしたまえよ。大事な記録を取るんだろ。もっと真面目にだな』

聞いたこともない声です。フリーナのそばにいるのでしょうか。

『さあ、フラップたちの出番だよ!   そろそろカメラの前に!』

レンが手招きして誘導します。どうやら、フラップも隠れているようでした。
やっぱり彼もいなくては、収まりが悪いというものです。



『『『ユカちゃん、お誕生日、おめでとう~!』』』

仔犬サイズのフラップ、フリーナ、フレディが、カメラの前に顔をそろえて、
元気よくお祝いのメッセージを添えました。

『ぼくたちから記念として、
ちょっとした演出をお贈りいたしまあす。楽しんでいってくださいね!』

『しろちゃん、しっかりカメラに撮ってネ~!』

もしや……ユカが瞳をパチクリさせていると、
ドラギィたちがフレームアウトし、カメラが部屋の天井のほうをむきました。

『おのれ、なんでわしがこんなことを。この貸しは高くつくから、覚悟せい!』

(やっぱり、撮ってるのはしろさんかあ)

まず、フレームインしたのは、フラップでした。
フラップは、自分の両手に火を吹きかけると、その火がついた両手をすり合わせ、
天井にむかってばっと振り上げました。同時に、部屋が暗転。
すると、無数の火の粉が、夜空の星のように天井近くをくるくると日周運動して、
美しいきらめきの軌跡を描くのでした。

『フレディからアドバイスをもらって、できるようになったんです。
ふふっ、すごいでしょう!』

火の星々が消え、部屋が再び明るくなると、
今度はフレディがフレームインしました。

『お初にお目にかかろう。ぼくが、ブルー種のフレディだ。どうぞよろしく!』

うやうやしくお辞儀したフレディは、その両手から水を湧き立たせ、
次々とシャボン玉に変えて空中へと放ちます。
無数の水玉が、フレディのまわりを目まぐるしく飛び回っていたかと思うと、
次の瞬間、すべての水玉が、パチパチ!   と破裂して、
数えきれないほどの水の花が、画面いっぱいに咲き誇りました。

(すごい……こんなことができるんだ。フレディ、やっと見られたよ)

と、最後に、フリーナがでかでかとフレームインしてきて、

『それじゃあ、あたしからは!   
目いっぱいの贈り物として、最高のハッピー☆スパー……』

『『『ダメダメダメ~~!!』』』

みんなの絶叫が聞こえたかと思うと、
フラップとフレディの二匹が、放電しかけたフリーナを取り押さえます。
その勢いあまって、三匹がカメラのほうに倒れてきて――

『うぎゃあああーーー!!』

しろさんの拍子ぬけな叫び声とともに、動画そのものが暗転しました。

――その数秒後、すぐに動画が再開して、
レンたちと、巨大化したドラギィたちが、横断幕の下に集っていました。

『ははは……。なんか、ドタバタしちゃって……ごめんなさい!』

レンの言葉に合わせて、全員でぺこりと頭を下げる一同。

『えーっと、そんなこんなで、ちょっと格好つかないけど……
どうかこれからも、オレたちと仲よくしてください!』

『『『仲よくしてくださあい!!』』』



最後に、みんなで手を振る姿が映って、プレゼント動画が終了しました。


すべてを見終えたユカは、幸せな気分に満たされていました。
動画という、間接的な形ではありましたが、動くフレディの姿もやっと見られたし、
ドタバタした様子も、彼ららしくて、にぎやかで、微笑ましくて――

「ずっと、友達だからね」

ユカは、さっそくライムでメッセージを打ちはじめました。
胸にあふれだす感謝と感動の気持ちを、とりとめのない言葉に乗せて。


(今年一番の、最高の誕生日プレゼントだよ。ありがとう、レン君)


いつの間にか、ユカの頬を伝って流れていたのは、
静かな、そして熱々とした――嬉し涙でした。
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