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しおりを挟む「……散歩、ですかね?」
「こんな夜遅くに、一人でか? ずいぶん軽装だけど、ご両親には声かけて出てきてるのか?」
「これから帰るところです」
「ふーん」
葛城先生が、疑わしそうな目で見てくる。今日の放課後の一件もあるし、家出を疑われているのかもしれない。
「ほんとに、今から帰るところなので。葛城先生こそ、こんな時間に何してるんですか?」
「あぁ、俺は家がこの近くだから。飲み物の買い出しに」
葛城先生が、手に持っていた買い物袋を軽く持ち上げる。そこには確かに、500mlのペットボトルが数本入っていた。
「いる?」
買い物袋に手を入れた葛城先生が、そこからお茶のペットボトルを一本取り出して差し出してくる。
「いえ、別に……」
「そっか。で、岩瀬の家はここから近いの?」
もらう義理もないから首を横に振ると、葛城先生がお茶を買い物袋の中に戻しながらおもむろに訊ねてきた。
お茶を差し出してきたのは単に会話を繋げるためで、わたしが受け取ろうが受け取るまいが、どうでもよかったのかもしれない。
「ここからだと、歩いて二十分くらいです」
自宅の方角を指さしながらそう言うと、葛城先生が「まぁまぁ、遠いな」と独り言みたいにつぶやく。それから肩にかけていた黒のボディバッグからスマホを取りだすと、わたしを見て首を傾げた。
「夜遅いし、岩瀬の家まで送っていく。それと、岩瀬が俺と一緒にいるってことを桜田先輩に連絡させてもらうな?」
葛城先生が健吾くんの名前を口にするから、ドキリとした。
「どうしてですか?」
「だって、もうすぐ0時回る頃なのに。高校生の娘がふらっと外に出かけて帰って来なかったら、俺が親なら心配する。それとも、連絡したらいけない事情でもあるのか?」
葛城先生が綺麗な切れ長の目でジッと見てくる。
放課後の化学準備室では、わたしにろくな説教もできずに困ったような表情を浮かべていたくせに。今の葛城先生はとても強気な目をしていた。
たしかに、今のこの状況では軽装で夜道をうろついているわたしのほうが分が悪い。
「別に。連絡されて困るような事情なんてありません」
仕方なくそう返すと、葛城先生がふっと表情を緩めた。
「そう。だったら帰ろう」
葛城先生がスマホを触りながら、わたしを促して歩き出す。葛城先生の後ろをついて歩いていると、しばらくして彼が立ち止まってわたしにスマホの画面を見せてきた。
「岩瀬、俺に嘘ついたな。やっぱり、親に何も言わずに出てきたんじゃねーか。家にスマホ置きっぱなしで連絡もつかないから心配してた、って桜田先輩が言ってるけど」
葛城先生に見せられたのは、健吾くんとやり取りしているラインのトーク画面だった。慌てて返信を打ってくれたのか、文章の一部に誤字がある。
もちろん健吾くんは、お風呂上りに黙って家を飛び出したわたしのことを心配してくれたのだろうけど……。
葛城先生に宛てて送られたラインには、『奥さんが特に心配してたから、助かった。ありがとう!』と書かれていて、少し複雑な気持ちになった。
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