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Four
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しおりを挟むマンションの外に出ると、さっきまでよりも雨が強くなっていた。傘を持って出るのを忘れたことに気付いて、仕方なく家から一番近いコンビニまで走ってビニール傘を買う。
新品のビニール傘を持ってコンビニを出ると、これからどうしようかと考えた。母に反抗的な言葉を投げつけて家を飛び出してきた手前、すぐには家に帰れない。
唯葉に連絡して、時間潰しに付き合ってもらおうかな。スマホを出して唯葉に電話をかけようとして、ふと思いとどまる。
なぜか急に、昼休みにもらったツナマヨのおにぎりと那央くんの顔が頭に思い浮かんでしまったのだ。
「何かあれば、ちょっとくらいは頼っていい」という那央くんの言葉。あれはいつまで有効だろう。
ビニール傘に落ちてくる雨を見あげながら、スマホをカバンに入れる。気付くとわたしの足は、駅に向かって歩き出していた。
最寄駅から一駅だけ電車に乗ると、わたしはおぼろげな記憶を頼りに那央くんの家へと向かった。
担任でもない生徒に、頻繁に押しかけてこられたら迷惑かな。そんな考えが頭を過らなくもなかったけれど、今のわたしには那央くん以外の選択肢が思いつかない。
那央くんはわたしの家庭事情や気持ちを知っているたったひとりの相談相手だ。だけどそれ以上に、わたしはまた彼の大きな手のひらに励ましてもらいたかった。
雨に打たれながらしばらく歩いて行くと、那央くんの家の近くのコンビニが見えてくる。
お土産に飲み物でも買ってから行こうかな。少し考えていると、向こう側から黒い傘をさした男の人が速足で歩いてきた。
コンビニの前で立ち止まったその人が、少し傘を持ち上げる。その下に覗き見えたのは、那央くんの顔だった。
また、ここで出会えた。三度目の偶然に、テンションが上がる。那央くんがこちらを向いたタイミングで大きく腕を振ると、彼も傘を持っていない左手を無造作に振り上げた。
「那央く――」
嬉しくなって駆け寄ろうとして、ふと違和感に気付く。
左手をひらりと振った那央くんは、わたしではなくどこか別のところを見ていた。
那央くんが、コンビニの入り口のほうを向いて微笑む。彼の視線の先には、清楚な雰囲気の大人の女性が立っていた。
コンビニから出てきた彼女が、那央くんに駆け寄って、彼がさしている黒い傘の中に入る。那央くんを見上げて笑いかけながら、あたりまえみたいに彼の腕に触れる彼女を見て、ドクンと胸が脈打った。
そうだ、那央くんには彼女がいるんだ。
わたしが勝手に那央くんのことをたったひとりの理解者だと思い込んでいるだけで、彼にとってのわたしは、たくさんいる生徒のうちの一人に過ぎない。
それなのに、コンビニの前で那央くんを見つけて、三度目の偶然だと喜んでしまった自分が恥ずかしい。今日は、那央くんを頼れない。
行き場をなくしたわたしは、駅に向かってとぼとぼと引き返した。そのまま家に帰る気分にはなれなくて、駅前にあったハンバーガーショップに入る。
ナゲットとコーラを買って空いている席に座ると、スマホで動画サイトを開く。
コーラを飲みながら検索したのは、那央くんに海に連れて行ってもらった夜に車の中でかけた男性アーティストの曲。店の中だからボリュームを最小限に絞って、最新曲のミュージックビデオを再生する。
画面の下に流れていく曲の歌詞を眺めながらわたしが思い出していたのは、誕生日の夜に浜辺で頭を撫でてくれた、手のひらの温もりだった。
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