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Four
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スマホでインターネットの動画サイトを見ながら時間を潰したあと、ハンバーガーショップを出る。店に入る前から降っていた雨はやむどころか、さらに激しくなっていた。
せっかく二時間も店にいたのに、雨宿りにもならなかったな。ため息を吐きながら、ビニール傘を開く。
そのとき、道路の向こう側から黒い傘をさした男の人がわたしに向かって駆けてきた。
黒い傘の下から現れたのは那央くんで。想定外の遭遇に驚く。
「岩瀬、こんなとこにいたのか」
「那央くんこそ、こんなところで何してるの? ひとり?」
きょろきょろと周囲を見渡しても、那央くんのそばに、さっきコンビニの前で見かけた清楚な雰囲気の彼女はいない。
「それはこっちのセリフだよ。少し前に桜田先輩から、お前が来てないかって連絡があった。お母さんとケンカになって家を飛び出した、って」
那央くんが雨と汗で濡れた額を手の甲で拭う。
「もしかしてコンビニの近くまで来てるのかと思って見に行ったけど、いないし。すげー探し回ったよ」
「探してくれたの?」
「そりゃ、家飛び出して連絡取れないって聞いたら探すだろ。心配だし」
那央くんが、肩を上下させて大きなため息を吐く。那央くんが、心配してくれたことも、探してくれたことも嬉しい。
だけど、コンビニで見かけた彼女の存在が気になって、那央くんが来てくれたことを素直に喜べなかった。
「彼女は?」
「彼女って?」
「わたし、最初は那央くんの家に行こうとしてた。そうしたら、コンビニの前で那央くんが彼女と一緒にいるところを見ちゃって。それで……」
「行き場をなくして、ここに隠れてたってこと?」
こくり、と頷くと、那央くんの瞳に呆れの色がのる。
「彼女はすぐに帰ったよ。明日も仕事があるし、うちに忘れ物を取りに来ただけだから」
「そうなんだ……」
彼女がわたしが那央くんの車に忘れてきたパンプスの存在に気付いたかどうか少し気になったけど、今はそんなことを訊いてみるような雰囲気でもない。
「今から家に帰れそうか? 桜田先輩に、岩瀬のこと見つけたって連絡していい?」
那央くんが、ズボンのポケットからスマホを出しながらわたしに訊ねてくる。
「まだ帰りたくないって言ったら、那央くんがまたどこかに連れて行ってくれる?」
健吾くんに連絡をしようとする那央くんの服の袖を指でつまむ。少し期待しながら見上げると、那央くんが困ったように眉根を寄せた。
「いや、今日はダメ」
傘の位置をずらして斜め上に視線を向けた那央くんが、首を横に振る。
「どうしても?」
「どうしても」
食い下がってみたけれど、那央くんは誕生日の夜のように我儘を聞いてはくれなかった。シュンと肩を落とすと、那央くんがハーッとため息をこぼす。
「今日はどこにも連れてけない。それに、おれ、言ったよな。黙って飛び出してきちゃダメだ、って」
「ごめんなさい……」
「岩瀬が謝らないといけない相手はおれじゃないだろ」
那央くんに少しきつい口調で言われて項垂れる。これはきっと、完全に呆れられた。下唇を噛んで黙り込むと、那央くんの手がわたしの頭をクシャリと撫でた。
「これからは、家を飛び出す前にちゃんと連絡してこい」
ため息とともに聞こえてきた那央くんの声が、少し和らぐ。連絡してこいって、どういう……。
考えていると、那央くんが自分のスマホをわたしのほうに差し出してきた。スマホの画面には、那央くんの携帯番号が表示されている。
「え、生徒に教えていいの?」
驚いて顔をあげると、那央くんが困ったように眉根を寄せた。
「一応、うちの学校は絶対禁止ではなくて、事情があるときは緊急連絡用として電話番号なら教えてもいいらしい」
「そうなんだ」
パッと目を輝かすと、那央くんの気が変わらないうちに、と、急いでスマホを取りだす。
「夜中に家を飛び出したくなったときだけ、かけてきていいよ」
自分のスマホに登録した那央くんの番号を見つめてニヤニヤしていると、那央くんがスマホをズボンの後ろポケットに入れながらそう言った。
「毎日かけちゃうかも」
スマホを握りしめてふふっと笑うと、那央くんが顔をしかめる。
「一応、事情がある場合だけ教えていいって決まりだから。悪用はすんなよ」
「わかってるよ」
「じゃぁ、家まで送っていく。雨なのに悪いけど、歩きでいい? 今日は、車出せないんだ」
連絡先を教えてもらって少し浮かれていたわたしは、那央くんの言葉に素直に頷いた。
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