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Seven
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翌朝学校に行くと、唯葉がわたしの机のそばで腰に手をあてて待ち構えていた。普段はふわふわしている唯葉の目に珍しく力が入っていて。かなりのご立腹のようだ。
「沙里! 昨日はどうして電話もメッセージも返さなかったの?」
「ごめん……」
おはよう、の挨拶よりも先に、昨日の既読スルーの着信無視を指摘されて、ただただ謝るしかない。
「わたしになにか話すことあるよね?」
ググッと顔を寄せて迫ってきた唯葉に、ものすごく限定的な訊き方をされて、言葉に詰まった。まるで唯葉は、わたしが昨日、メッセージにも着信にも応えなかった理由を知っているみたいだ。
でも、どうして……。わたしは一度も、唯葉に那央くんとのことを話していない。
視線を左右に泳がせていると、唯葉が腰から手を離して胸の前で腕を組んだ。
「沙里が話さないなら、わたしから訊いてもいい?」
「なに?」
「沙里、昨日の夜、那央くんと一緒にいたでしょ」
「え?」
思わず漏れた声で、動揺がバレたのだろう。質問に肯定したわけでもないのに、唯葉が「やっぱり」とつぶやいた。
「沙里が走って校舎の中に戻っていったあと、わたしもいろいろ探したんだよ。教室とか、職員室とか。だけど全然見つからないから、仕方なく駅まで帰ったの。もしかしたら沙里から連絡くるかもしれないと思ってしばらく駅前のカフェで待ってたんだけど、全然連絡取れないし。諦めて帰ろうと思って、カフェを出て信号待ちしてたら、駅前の交差点を沙里と那央くんが乗った車が通り過ぎて行った。一瞬だったらから見間違いかと思ったけど、やっぱりあれは沙里だったんだよね?」
唯葉が、わたしの反応を確かめるようにジッと見てくる。
まさか唯葉に、見られていたなんてびっくりだ。でも、唯葉も、その一瞬でわたしだと気付くくらい、心配してくれていたのかもしれない。
「ごめん、唯葉。何の連絡もしなくて……」
「わたしが訊きたいのは、そんなことじゃないよ。あれは、やっぱり沙里だったの?」
唯葉から逃げるように下を向くと、彼女がわたしの右手をぎゅっとつかんできた。
「わたしは責めてるわけじゃなくて、沙里のこと心配してるんだよ。突然走ってどこかに消えたと思ったら、連絡取れなくなっちゃうし。見つけたと思ったら、那央くんの車に乗ってるし……。もし他の生徒に見られてたら、また桜田先生のときみたいに誤解されるよ?」
わたしに忠告する唯葉の声は、真剣そのものだった。
健吾くんと二人で歩いている写真を拡散されたとき、わたしに対する心ない嫌がらせがひどかったから。今度は那央くんと……、なんてことになれば、匿名のDMでの誹謗中傷が殺到するだろう。
わたしだって、そのくらいのことはちゃんとわかっている。わかっていたけど、雨のせいでうまく制御が効かなかった。
「何も話してなくてごめん。でも、誤解されるようなことは何もない」
「何もないの?」
「少なくとも、那央くんのほうには」
わたしがそう言うと、何かを察した唯葉の表情が曇った。
「沙里、それって……。いつから?」
はっきりと明言はしないけど、唯葉はわたしの那央くんへの気持ちに勘付いている。
いつから……。そうだな、いつからなんだろう。
はっきりと自覚したのは、那央くんに雨の日の運転が苦手なことと、夕夏さんのことを打ち明けられたとき。
だけどもしかしたら、健吾くんのことで悩んでいたときから、那央くんの大きな手のひらに慰められるたびに、わたしの気持ちは少しずつ彼に溶けていっていたのかもしれない。
『どうして、好きになった人が自分を好きになってくれる可能性は、みんなに平等じゃないのかな』
いつか那央くんに訴えた疑問は解決なんかしてなくて。不平等なままなのに。
どうしたってその距離がゼロにならないことがわかりきっている相手にばかり惹かれてしまうわたしは、恋愛に関する学習能力が低いのだ。
「いつからとか、もうわからない。だけど事情があって、わたしが勝手にそばにいたい」
唯葉の手を握り返しながらつぶやくと、彼女が哀しそうに瞳を揺らした。
特別になれなくてもいい。好きになってもらえないことが不平等だ、なんて、不貞腐れたりもしない。
気持ちが届かなくても。幸せな恋にならなくても。雨の日だけでいいから、那央くんの近くにいたい。
「相手が自分のこと好きじゃなくても、そばにいたい。そういう気持ちは不毛だ、って。唯葉は笑う?」
「笑わないよ。そういう気持ち、わたしもよく知ってる」
唇をぎゅっと引き結んだ唯葉が、わたしの手を離す。
「ありがとう」
納得はしていないくせに、わたしの気持ちは受け入れてくれる。優しい唯葉に、わたしは薄く微笑みかけた。
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