その距離は、恋に遠くて

碧月あめり

文字の大きさ
52 / 55
Ten

しおりを挟む
 ピンクと白を基調にして纏めてもらったお供え用の花を花立に挿し、線香に火を点ける。墓石の前で静かに両手を合わせていると、ジーッと蝉の鳴く声が耳に響いてくる。心の中で彼女への報告をしてゆっくりと顔をあげると、背後でカサリと靴の擦れる音がした。

「ひさしぶり、那央。来てくれたんだ……」

 何ヶ月ぶりかに聞く声を少し懐かしく思いながら振り返ると、そこには夏乃が立っていた。黒のワンピースを着た彼女の手には、おれが選んだのと同じ、ピンクと白でまとめて墓花が控えている。

 おれの姿を見つけて困ったように眉を下げていた夏乃は、墓石の花立に自分が買ってきたのと同系色の花が入れられているのに気付くと、ふっと息を漏らした。

 なぜだかわからないが、付き合う前から夏乃とはそんなところばかり気が合う。もっと他のところで気が合えば、おれたちはお互いを傷つけ合うことなく、共に歩むことができたかもしれないのに。

「そりゃ、来るよ。夕夏の命日だし」
「そうだね。毎年、来てたもんね」
「うん」

 少し横にずれて、墓石の前のスペースを空けると、夏乃がおれの隣に並んで、持っていた花を花立に挿した。


 八月の終わり。今日は亡くなった夕夏の六回目の命日だった。彼女がいなくなった日とは真逆の、晴れた夏空の下。手を合わせた夏乃の横で、おれもなんとなく、もう一度墓石に手を合わせる。

 夕夏がいなくなって一年後の命日。そのときも、おれが手を合わせているところへ夏乃がやってきた。

「来てくれたんですね」と、淋しそうに笑った夏乃と並んで夕夏に手を合わせて以来、命日の墓参りは毎年、夏乃と一緒に行った。

 夕夏がいなくなって二年が過ぎ、夏乃に告白をされたとき、夕夏がおれと夏乃の縁を結ぼうとしているのかもしれないと思った。

 夕夏を守れなかった分、妹の夏乃のことを大切にしなければいけない。彼女のことを可愛いと思っていたし、好きだったけれど、心のどこかにそんな重責もあったのかもしれない。

 夕夏の六回目の命日。墓石の前で並んで手を合わせているおれと夏乃は、もう恋人同士ではなかった。

 二年間の付き合いに終止符を打ってきたのは夏乃で。おれが勤めていた学校の生徒とマンションのエントランスの前で鉢合わせたことが、引き金となった。

 もしそれがなかったとしても、お互いに我慢や不安を抱えてケンカばかりしていたおれ達の関係は、遅かれ早かれ、破綻していたと思う。

「なんか、最後に会ったときよりもずっとすっきりした顔してるね」

 手を合わせたまま顔を上げた夏乃が、眩しげにおれを見てくる。自分としては、彼女と別れたあとと特に変わらないような気がするが、どうなのだろう。

 頬に手をあてて撫でていると、夏乃が唇を歪めて苦笑いした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...