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Ten
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しおりを挟む「那央にいつも暗い顔をさせてたのは、私だったのかな……」
「そんなことないよ」
「そんなこと、ある。最後のほうは、私が一方的に怒りをぶつけるだけで、那央の話や言い分を聞き入れようとしなかった。今ならわかるよ。私に余裕がなかった。ごめんね……」
そう言う夏乃のほうも、どこかすっきりした顔をしている。
「おれも、ごめん。夏乃のこと、傷付けないようにしたいって思う気持ちが強くて。だからこそ、言えない本音もあった」
「あの子がそれに気付いたのかな……」
夏乃が実家の名字が彫られた墓石を見つめて、ボソリとつぶやく。
《あの子》と口にした夏乃が思い浮かべている顔と、おれが今頭の中に思い浮かべている顔はきっと同じだろう。
ふたりの間に、沈黙が流れる。照り付けてくる日差しは夏の名残を残して暑く、蝉の声は五月蠅い。
「付き合ってるの?」
「まだ、かな……」
不意に問いかけられてそう答えると、夏乃がおれのほうを見て、ふふっと笑った。
「今日はあのときみたいに否定しないんだね。いいの? お姉ちゃんの前なのに」
夏乃が墓石をちらっと見て、それからおれに視線を向ける。下から見上げてくる夏乃の悪戯っぽい表情。それは、おれたちがうまくいかなくなる前によく彼女がおれに見せていたもので。ほっとすると同時に、少し切ない気持ちにもさせられた。
おれも彼女も本当は、自然に笑って、思ったことを言い合える関係でいたいと思ってた。だけどそれはもう叶わないし、一度解けた結び目が再びつながることはない。
「いいんだよ。夕夏にはもう報告した」
「新しく好きな子できた、って?」
「うーん、まぁ、そんな感じかな」
「本気じゃん」
夏乃がからかうように笑って、おれの腕を肘で軽く小突いてくる。
「うん」
《あの子》は、恋なんてどうせ不平等だと思っているから。好きになった人が自分を好きになってくれる可能性なんて、世界の数パーセントだけが起こせる奇跡だって思っているから。もしこの先も《あの子》の隣にいることが許されるなら、おれが彼女の奇跡になりたい。
おれは夏乃に微笑みかけると、夕夏の墓前で彼女と最後の握手した。ありがとうと、さよならの気持ちを込めて。
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