その距離は、恋に遠くて

碧月あめり

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Ten

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 ピンクと白を基調にして纏めてもらったお供え用の花を花立に挿し、線香に火を点ける。墓石の前で静かに両手を合わせていると、ジーッと蝉の鳴く声が耳に響いてくる。心の中で彼女への報告をしてゆっくりと顔をあげると、背後でカサリと靴の擦れる音がした。

「ひさしぶり、那央。来てくれたんだ……」

 何ヶ月ぶりかに聞く声を少し懐かしく思いながら振り返ると、そこには夏乃が立っていた。黒のワンピースを着た彼女の手には、おれが選んだのと同じ、ピンクと白でまとめて墓花が控えている。

 おれの姿を見つけて困ったように眉を下げていた夏乃は、墓石の花立に自分が買ってきたのと同系色の花が入れられているのに気付くと、ふっと息を漏らした。

 なぜだかわからないが、付き合う前から夏乃とはそんなところばかり気が合う。もっと他のところで気が合えば、おれたちはお互いを傷つけ合うことなく、共に歩むことができたかもしれないのに。

「そりゃ、来るよ。夕夏の命日だし」
「そうだね。毎年、来てたもんね」
「うん」

 少し横にずれて、墓石の前のスペースを空けると、夏乃がおれの隣に並んで、持っていた花を花立に挿した。


 八月の終わり。今日は亡くなった夕夏の六回目の命日だった。彼女がいなくなった日とは真逆の、晴れた夏空の下。手を合わせた夏乃の横で、おれもなんとなく、もう一度墓石に手を合わせる。

 夕夏がいなくなって一年後の命日。そのときも、おれが手を合わせているところへ夏乃がやってきた。

「来てくれたんですね」と、淋しそうに笑った夏乃と並んで夕夏に手を合わせて以来、命日の墓参りは毎年、夏乃と一緒に行った。

 夕夏がいなくなって二年が過ぎ、夏乃に告白をされたとき、夕夏がおれと夏乃の縁を結ぼうとしているのかもしれないと思った。

 夕夏を守れなかった分、妹の夏乃のことを大切にしなければいけない。彼女のことを可愛いと思っていたし、好きだったけれど、心のどこかにそんな重責もあったのかもしれない。

 夕夏の六回目の命日。墓石の前で並んで手を合わせているおれと夏乃は、もう恋人同士ではなかった。

 二年間の付き合いに終止符を打ってきたのは夏乃で。おれが勤めていた学校の生徒とマンションのエントランスの前で鉢合わせたことが、引き金となった。

 もしそれがなかったとしても、お互いに我慢や不安を抱えてケンカばかりしていたおれ達の関係は、遅かれ早かれ、破綻していたと思う。

「なんか、最後に会ったときよりもずっとすっきりした顔してるね」

 手を合わせたまま顔を上げた夏乃が、眩しげにおれを見てくる。自分としては、彼女と別れたあとと特に変わらないような気がするが、どうなのだろう。

 頬に手をあてて撫でていると、夏乃が唇を歪めて苦笑いした。

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