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Ten
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夕夏の墓参りの帰り道。高速を走っている途中で、突然夕立が降り始めた。ぽつぽつと落ちてきた雨は、すぐに豪雨に変わり、フロントガラスに流れる雨水で視界が悪くなる。
さっきまであんなに晴れていたのに。帰り際に空に浮かび始めていた入道雲が、急な雨を運んできたらしい。予定外のできごとに、ドキドキしながらハンドルをきつく握りしめる。数キロ先にあるサービスエリアの看板に気付いたおれは、そこまでなんとか頑張ろうと気を引き締めた。
雨の日の運転はだいぶ平気になったはずなのに。こんなふうに予定外に降られたときは、やっぱりまだ動揺してしまう。
しばらく車を走らせると、目の前にサービスエリアに入る別れ道が見えてくる。息を吐きながら指示機を出してスピードを緩めたとき、助手席にベージュのテディベアが座っていることに気が付いた。
そうか。焦らなくても、こいつが一緒だった。
そのことに気付くと、次第に気持ちが落ち着いてくる。サービスエリアの駐車場を徐行しながら、空いている場所を探す。車を止めて、エンジンを切ったときには、すっかり気持ちが落ち着いていた。
「たしかに、気が紛れるな」
少し間抜けな顔で首を傾げているテディベアの頭に手をのせて、ククッと笑う。
フロントガラスに打ちつける雨は、さっきよりも少しおさまったものの、まだやみそうにない。
助手席のテディベアの首元を掴んで膝にのせてしばらく逡巡したのち、おれは彼女に電話をかけた。
お互いに連絡先を交換したけれど、おれも彼女も滅多なことがない限る電話はかけない。そのせいか、彼女は電話に出なかった。なんとなくガッカリした気持ちになって、膝の上のテディベアを押しつぶすように腕に抱く。
雨がやむまでの暇潰しに、と、スマホで音楽を再生しようとしたとき、彼女から折り返しの電話がかかってきた。
「那央くん、電話した? どうしたの?」
通話ボタンを押した瞬間、電話口から聞こえてきた彼女の声は、なんだかやけに興奮気味だ。
「どうした、っていうか……、別にたいした用ではないんだけど。帰宅途中に、夕立に降られちゃって」
「え、大丈夫? 室内にいて気付かなかった」
「予備校? 邪魔して悪い。切ってもいいよ」
「え、切らないで! 今、夏期講習終わったとこだから」
タイミングが悪かったな、と思って通話を終わらせようとすると、彼女がやや鼻息荒く引き止めてくる。
「そうなんだ。おつかれさま」
おれがそう言うと、彼女が今度はふふふっと機嫌よさそうに笑う。
「どうした?」
「うぅん。那央くんがわたしのこと頼って電話かけてきてくれたのが、嬉しいなって」
弾む声を聞いただけで、彼女が今どんな顔をしているのかが想像できて、勝手に口元が緩んだ。
「それより、那央くん今どこ? わたし、行こうか?」
通話しながら階段を降りているのか、彼女の足音が通話口からカンカンと響いてくる。
「いや、そう簡単に来れる場所じゃないんだ。今、高速のサービスエリアの駐車場」
「え、那央くん、どこか遠くまで出かけてたの?」
「うん、夏休みだし、今日は出勤日じゃないから」
「そうなんだ……。ねぇ、こっち、雨なんて降ってないよ。那央くん、本当に帰ってこれる?」
心配そうに訊ねてくる彼女の声のトーンが下がる。
「平気。助手席にクゥー乗ってるし」
腕に抱いたテディベアをぎゅーっと押し潰しながらそう言うと、彼女が電話口でふっと笑った。
「そっか。少しは役に立った?」
「うん、まぁまぁ」
「まぁまぁ、ってなに?」
笑ったり、拗ねてみたり、ころころと反応を変える彼女の声が、耳に優しく心地よい。ふと、フロントガラスに視線を向けると、いつのまにか雨がやんでいた。東の空には少し晴れ間が見えている。
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