探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず

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マオside

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出ていく。
それを聞いた時、否応にも力が抜けた。
今までずっとこいつらに立場を奪われるのかと懸念して、ずっとこいつらを敵視してきた。
特別が嫌だと喚くこいつらを、憎く思ってきた。
もう、潮時なのかもしれない。

「マオ様。人を恨むのは、疲れませんか?」
「……さぁな」
「私は疲れました。物凄く、ね」

ラティアンカは私を気にかける。
私を通して過去の自分……もしくは弟とやらを見ているのかもしれない。
たとえどんな理由があろうと、私はラティアンカを気に入ってしまった。
同情だろうが、傷の舐め合いだろうが、構わないと思えてしまった。
私も、ラティアンカに抱く感情の正体を、いまいち理解しきれていない。
友愛にしては重すぎ、恋心というには軽すぎる。
強いて言うなら、同胞。
似たような立場の者を見つけて、安心したかったのかもしれない。
それでも構わない。もういい、と。
気づけば私はそう思っていた。
ああ、疲れたな。
倦怠感を払うため、風呂に入ることにする。

「………」

神子、シャルロッテが戻ってきたことによって、今は国の話題はシャルロッテで持ちきりだ。
レオンが勉学を抜け出しても気づかれないくらい、シャルロッテは注目されている。
それを羨ましいと思っていた。
少し前までは。
湯に浸かり、シャルロッテを信仰する女神教のことを思い出す。
実を言うと、私は女神教に協力していた。
女神教はレオンを殺し、シャルロッテをこの国の宝として祭り上げるのが目的である。
レオンは獣人という立場にありながら、魔術を使うことができるいわゆる突然変異種だ。
それを女神の魂が穢されると騒ぎ、裏でレオンを殺す計画を立てていた。
私はそれに加担した。
シャルロッテを祭り上げるというのは気に食わなかったが、目先にレオンを殺せるチャンスがきたので、飛びついた。
邪魔者を殺すような感覚であった。
今思えばーーくだらない。
醜悪極まりない考えである。
奴らがシャルロッテを信仰する目を思い出せ。
あれに見上げられたいと、本気で思うのか?
そう自分に問うた時の答えは、否であった。

「……何やってるだろうな、私は」

ラティアンカに求めているものは、一体なんだったのか。
それは私にはわからない。
レオンに対する憎悪も、シャルロッテに対する羨望も、いつのまにか霧散していた。
もういいと、本気で思えてしまった。
だから。
ザブリと湯から上がり、体をタオルで拭く。
鏡に己を写せば、蒼の瞳がこちらを覗き返してきた。
王族の象徴たる瞳。
それを私は、愛おしいと思う。
寂しがり屋の子供だったのかもしれないな。

「………行こう」

覚悟を決めることにした。

◆ ◆ ◆

いつもの場所に行けば、女神教の奴らがたむろしていた。
彼らは毎日こうして女神に祈りを捧げている。
肝心の女神の魂の居場所すら母上に教えられていないというのに、熱心なことだ。

「これはこれはマオ様。いかがなさいましたか?」

その内の一人が、機嫌を伺うようにこちらに笑いかけてくる。
スゥ、と息を吸い込んで、言った。

「手を切る」
「え?」
「私はもう、お前達とは手を切る。母上にもレオンの暗殺の件を報告しよう」
「な、何を言って」
「私もお前達と共に、地獄に落ちる覚悟ができた」

まあ、レオンには申し訳ないと思う。
俺が罪人になれば、レオンは必然的にこの国の王となる。
だが、まあ……あいつなら大丈夫だろう。
死ぬほど憎んだ相手だ。実力なら理解しきっている。

「裏切ると言うのですか! マオ様!」
「裏切るもなにも、都合が良かったから利用していただけだ。まあ、お前らと一緒に国外追放でも何でもされてやるさ」
「っ~」

ザワリ、ザワリと。
女神教の奴らが騒ぎ出す。
次第にそれは大きな波となり、私を非難した。

「何てことだ!」
「この国の王子が、女神のご意志に逆らうというのか!」
「何と無礼な!」
「……女神の意志? よくそんなこと言えるな。それとも、なんだ? 女神が直接お前らに言ったのか? レオンを殺せと」
「我々は女神に一生を捧げている!」
「女神を曇らせる者に天誅を下すのは当たり前だ!」

ギャアギャアとうるさい。
無駄に人数がいるせいで、私の声が届いているのは前方の者だけだ。
しかし、王宮にいる者だけでこの人数とは。
女神教とやらは、どこまで獣人に広がっているのだろうか。
別にこの国では女神を信仰することは悪ではないし、寧ろ善とされる。
だが……女神教となると話しは別だ。
奴らは敬虔な信徒とやらにも、残虐な人殺しにもなるのだ。

「こうなれば……致し方あるまい」
「裏切り者は死すべし!」

ナイフを力一杯握りしめ、突進してくる。
まあ、そうなるだろうな。
別に避けれるが、ここで私が殺されることにより奴らの罪は確実なものとなる。
ざまぁみろ。
別に、これは誰のためでもない。
単なる世界への八つ当たりであった。
なのに。

何かが私を抱きしめた。

「ーーーーは?」
「ご無事、ですか? マオ様」

私を庇った者の正体。
それは、ラティアンカであった。
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