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知らねぇよ。
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「………はぁ?」
開幕の一言。
それだけでもう火花が散りそうな展開です。
後日、マオ様がレオン様とロールに会い、「来い」と言ったのがきっかけでした。
「マオ様。そんなのでは伝わりません。誠心誠意、ごめんなさいと」
「私は別に謝りたいとは」
「ごめんなさいと」
「……悪かった」
被せるように、圧をかけるように私が言うと、渋々ながらマオ様は頭を下げました。
それを見たロールは目を白黒させ、マオ様と私のことを交互に見ています。
「ら、ら、ラティ様? え? これ、え?」
「今更なんだと思ったら……テメー、何があった」
ガンを飛ばさないでほしいのですが。
ひとまわり大きい体躯の兄に喧嘩を売りに行くレオン様の度胸は大したものですが、この場合状況は悪くなるばかりです。
「お前らは、自分が特別だと思うか」
「意味わかんねーし急だし。キメェ」
「ちょっ、レオン兄ィ……」
「まあ、その辺はご愛嬌ということで」
「つーかお前だよお前。どういうことか説明しろよ、ラティアンカ」
名指しでのご指名ですか。
それにはロールも同意らしく、戸惑いを含んだ瞳でこちらを見ました。
「昨日、マオ様とお話しさせていただきまして。色々聞きました」
「ケッ。絆されてやんの」
「レオン兄ィ、ガラ悪いよ……」
「まさかお前がこんなにチョロいとは思ってなかったぜ」
マオ様のことを睨みつけるレオン様からは、敵意が滲み出ています。
このままうまくいけば苦労はしなかったでしょうが、致し方ありません。
「できれば和解してほしかったんですけど、しょうがないですね。質問にだけ答えてあげてください」
「あ?」
「答えれば、マオ様は今後一切あなた達の害になることはしません」
「!?」
聞いてないぞ、とばかりにぐりんとこちらに振り向くマオ様。
言ってませんから、知りませんよね。
笑顔を返すと、マオ様は重々しくため息を吐きました。
「………約束する」
「はあっ!? ま、まさかここまでとはな……」
「ラティ様、マオ様と何をなさったんですか……」
「強いて言うなら、傷の舐め合いですね」
「おい」
「口が滑りました」
「わざとだろう」
「いいえ」
掛け合いに警戒心が緩んだのか、先に話してくれたのはロールでした。
「私は……正直に言えば、他の人とは違うと思います。神子というのはわかりませんけど、ウサギの獣人にしては怪力すぎますから」
それに続く形で、レオン様も口を開きます。
「まあ特別だって思ってるよ。魔術使えるし。珍獣として見られるんだぞ? サイアク。俺、王になんてなりたくねーのに」
「なりたくない……のか?」
驚くマオ様に、本当にこの人達はコミュニケーションが取れていなかったことを実感します。
「あーそうだよ。ウゼーし。俺、もうちょっとしたら王宮出て旅人になるんだよ」
「そ、そんなことできるわけないだろう」
「だからこっそり抜け出すんだよ。ババァも許してくれたし」
「ババァ?」
「女王様のことです」
信じられないものを見るように、マオ様の目が大きく開かれました。
「は、母上のことをっ、ババァだと!?」
「はいはいはいはい。そういうのいいから。オメー、真面目すぎんだよ。臣下がとやかく言うから俺は黙って出てくの」
「バカかお前……そんな大声でっ、もし聞かれたら」
「いーんだよ。そうなったら魔術で氷漬けにしてやらぁ。それよかなに? 心配してくれてんのー?」
「するわけないだろう」
「だよな。してたら温度差で死んでた」
言いたいことを言えて満足したのか、レオン様が背を向けて去っていこうとします。
「おい」
「んだよ。まだ何かあんのか」
「……悪かった」
重ねるように再度そう言うマオ様に、レオン様はハッと鼻で笑いました。
「デレはお前に似合わねーし。キショいわ」
言動の割に、声音は弾んでいました。
とりあえず今までのような、会って即喧嘩という状況にはならなそうです。
「あ、あの。マオ様」
「何だ」
「ええと、その。私も、ここ、でていきます」
「え?」
ロール、アストロを出るつもりだったんですか。
ロールは私に駆け寄ると、私の手をギュッと握りました。
「私は、ラティ様についていきます。ラティ様に、ついていきたいんです」
「……いいの?」
「ラティ様の離れるなんて、イヤです。神子になるのもイヤです」
私の手を、痛くないよう力を込めすぎないように掴んでいるのが伝わります。
ロールにアストロの地はあわなかったみたいですね。
「ロール。記憶が戻ったら、出ていきましょうか」
「はい。エリクル様を、探します」
「協力しますよ」
しばらく私達のやりとりを呆然と見ていたマオ様でしたが、我に返ったようでロールを凝視しました。
「出ていくのか」
「はい」
「………そう、か」
マオ様とロールの会話は、これで終了しました。
多少なりとも関係はよくなった気がしますが、大丈夫でしょうか。
それと旦那様……早く会いたいので、帰ってきてほしいです。
不安を誤魔化すように、貰った指輪をそっと撫でました。
開幕の一言。
それだけでもう火花が散りそうな展開です。
後日、マオ様がレオン様とロールに会い、「来い」と言ったのがきっかけでした。
「マオ様。そんなのでは伝わりません。誠心誠意、ごめんなさいと」
「私は別に謝りたいとは」
「ごめんなさいと」
「……悪かった」
被せるように、圧をかけるように私が言うと、渋々ながらマオ様は頭を下げました。
それを見たロールは目を白黒させ、マオ様と私のことを交互に見ています。
「ら、ら、ラティ様? え? これ、え?」
「今更なんだと思ったら……テメー、何があった」
ガンを飛ばさないでほしいのですが。
ひとまわり大きい体躯の兄に喧嘩を売りに行くレオン様の度胸は大したものですが、この場合状況は悪くなるばかりです。
「お前らは、自分が特別だと思うか」
「意味わかんねーし急だし。キメェ」
「ちょっ、レオン兄ィ……」
「まあ、その辺はご愛嬌ということで」
「つーかお前だよお前。どういうことか説明しろよ、ラティアンカ」
名指しでのご指名ですか。
それにはロールも同意らしく、戸惑いを含んだ瞳でこちらを見ました。
「昨日、マオ様とお話しさせていただきまして。色々聞きました」
「ケッ。絆されてやんの」
「レオン兄ィ、ガラ悪いよ……」
「まさかお前がこんなにチョロいとは思ってなかったぜ」
マオ様のことを睨みつけるレオン様からは、敵意が滲み出ています。
このままうまくいけば苦労はしなかったでしょうが、致し方ありません。
「できれば和解してほしかったんですけど、しょうがないですね。質問にだけ答えてあげてください」
「あ?」
「答えれば、マオ様は今後一切あなた達の害になることはしません」
「!?」
聞いてないぞ、とばかりにぐりんとこちらに振り向くマオ様。
言ってませんから、知りませんよね。
笑顔を返すと、マオ様は重々しくため息を吐きました。
「………約束する」
「はあっ!? ま、まさかここまでとはな……」
「ラティ様、マオ様と何をなさったんですか……」
「強いて言うなら、傷の舐め合いですね」
「おい」
「口が滑りました」
「わざとだろう」
「いいえ」
掛け合いに警戒心が緩んだのか、先に話してくれたのはロールでした。
「私は……正直に言えば、他の人とは違うと思います。神子というのはわかりませんけど、ウサギの獣人にしては怪力すぎますから」
それに続く形で、レオン様も口を開きます。
「まあ特別だって思ってるよ。魔術使えるし。珍獣として見られるんだぞ? サイアク。俺、王になんてなりたくねーのに」
「なりたくない……のか?」
驚くマオ様に、本当にこの人達はコミュニケーションが取れていなかったことを実感します。
「あーそうだよ。ウゼーし。俺、もうちょっとしたら王宮出て旅人になるんだよ」
「そ、そんなことできるわけないだろう」
「だからこっそり抜け出すんだよ。ババァも許してくれたし」
「ババァ?」
「女王様のことです」
信じられないものを見るように、マオ様の目が大きく開かれました。
「は、母上のことをっ、ババァだと!?」
「はいはいはいはい。そういうのいいから。オメー、真面目すぎんだよ。臣下がとやかく言うから俺は黙って出てくの」
「バカかお前……そんな大声でっ、もし聞かれたら」
「いーんだよ。そうなったら魔術で氷漬けにしてやらぁ。それよかなに? 心配してくれてんのー?」
「するわけないだろう」
「だよな。してたら温度差で死んでた」
言いたいことを言えて満足したのか、レオン様が背を向けて去っていこうとします。
「おい」
「んだよ。まだ何かあんのか」
「……悪かった」
重ねるように再度そう言うマオ様に、レオン様はハッと鼻で笑いました。
「デレはお前に似合わねーし。キショいわ」
言動の割に、声音は弾んでいました。
とりあえず今までのような、会って即喧嘩という状況にはならなそうです。
「あ、あの。マオ様」
「何だ」
「ええと、その。私も、ここ、でていきます」
「え?」
ロール、アストロを出るつもりだったんですか。
ロールは私に駆け寄ると、私の手をギュッと握りました。
「私は、ラティ様についていきます。ラティ様に、ついていきたいんです」
「……いいの?」
「ラティ様の離れるなんて、イヤです。神子になるのもイヤです」
私の手を、痛くないよう力を込めすぎないように掴んでいるのが伝わります。
ロールにアストロの地はあわなかったみたいですね。
「ロール。記憶が戻ったら、出ていきましょうか」
「はい。エリクル様を、探します」
「協力しますよ」
しばらく私達のやりとりを呆然と見ていたマオ様でしたが、我に返ったようでロールを凝視しました。
「出ていくのか」
「はい」
「………そう、か」
マオ様とロールの会話は、これで終了しました。
多少なりとも関係はよくなった気がしますが、大丈夫でしょうか。
それと旦那様……早く会いたいので、帰ってきてほしいです。
不安を誤魔化すように、貰った指輪をそっと撫でました。
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