追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

文字の大きさ
101 / 227
番外編

番外編 レイルの訳と妹の思い

しおりを挟む
昔。
随分と昔の事だが、レイルにとってはつい昨日の事にも思える事がある。
今日は、その五年後の日だった。
馬車を乗り継ぎ、ようやくたどり着いたのは実家。
家に入ると沢山の弟と妹がレイルを出迎えた。

「レイル兄ちゃん!」
「レイル兄ちゃんが帰ってきたぁっ!」
「兄ちゃーーんっ!」
「わわっ、そんな抱きついてくるなってー」

レイルは幼いきょうだい達をたしなめながら正面を向いた。
そこには、レイルが帰ってくるのを分かっていたようで父と母が立っていた。

「ただいま、父さん、母さん」
「…よく帰ったな、レイル」
「おかえり。…どう?学園は」

母の心配そうな表情が少し引っかかったが、レイルは笑顔で答えた。

「楽しいよ。凄く」
「ひとまず………今日はオリビアに会いに来たんだろう?」

父の優しげな言葉に「うん」とレイルは小さく頷いた。

「じゃあ、行ってくるね」
「ああ」
「ええ」
「あれ?レイル兄ちゃん?どうしたの?」
「お母さーん、レイル兄ちゃんどこいくの?」
「大事な所よ」

母がきょうだい達に言い聞かせるのを遠目で見ながらレイルは家を出て行った。
母や父、きょうだい達がレイルをわざわざ玄関で出迎えたのには理由がある。
それは、レイルが実家帰りした理由でもあった。
静かに家の近くに建てた墓の目の前に来る。
道中買った白ユリをゆっくりとそなえる。

「お前は、白ユリが好きだったよな…オリビア」

そう、今日はレイルの妹であるオリビア・カッタンディアの命日であった。
それは五年前に遡る。

















五年前。
レイルがようやく英雄学園の初等部に通い出した頃であった。
十二歳であったレイルには、年が二つ離れた妹が居た。
他にもきょうだいが居るのだが、その妹をレイルは特に気にかけていた。
今日は、実家帰り出来る日であった。
ガチャンとドアを開け、少し古びた木の匂いを感じながらレイルはベッドに寝たきりの妹に笑いかけた。

「オリビア!」
「レイル兄さん!」

レイルの妹であるオリビアが顔をほころばせた。
気のせいか、しばらく会っていない内に随分とやつれた気がする。

「ほら、いっぱいお土産あるんだよ。お菓子に、本に…白ユリ」
「わあ…!兄さん、ありがとう。白ユリ、とっても綺麗ね」

オリビアはレイルから受け取った土産を嬉しそうに眺めた。
特に白ユリには思い入れがあるようで、オリビアはその花びらを撫でた。

「私ね、夢ができたの」
「夢?何だい?」
「私、将来はお医者様になりたいの!私みたいな子を助けてあげたい…!」
「…そっか。とても素敵だと思うよ」

レイルはそれを聞きながらボーッとリンゴを剥いている。
それを見てオリビアは気を悪くしたらしい。

「ちゃんと聞いてるの!?兄さん!」
「ああ、ああ。聞いてるよ」

それは、レイルにとってあまり聞きたい内容ではなかった。
オリビアは、生まれつき体が弱かった。
少し走っただけですぐに息を切らしてしまう。
おまけに、常に風邪の症状が出ていた。
そんな事実には向き合いたくない。
それがレイルの本音だった。

「もぉ…兄さんったら」
「はは、悪いね。情けない兄で」
「…でも、私、兄さんが……」

何かオリビアが言いかけた時、レイルを呼ぶ父の声が聞こえた。

「ごめん、父さんが呼んでる。じゃあ、後で」
「…うん。分かった。じゃあね、兄さん」

あの時、もっと話をしておけば。
そう後悔してももう遅いってのに。

















「オリビアッ!?」

ドアが外れるかといわんばかりの勢いでレイルが部屋に飛び込んだ。
妹の体調が悪化したと聞いて駆けつけたのだ。
そこには医者、母、父、幼い妹と弟が居た。
ベッドに荒い息をしながらオリビアが横たわっている。
レイルは医者に、ずっと聞かなかった質問を投げかけた。

「先生…オリビアは…妹は、助かりますか?」
「………」

医者は、黙って首を横に振った。
レイルの目の前が絶望に塗りつぶされた。
ああ、何で。
何でベッドに寝込んでいるのが自分じゃなかったのか。
何故愛しい妹が…

「…にい、さん」
「オリビアッ!」

オリビアがかすれた声でレイルを呼んだ。
咄嗟にレイルはオリビアの手を握る。

「ごめ、ん、にいさん。わた、し…もう、お医者様に、なれ、ないね」
「馬鹿言うな!絶対、絶対助かる!ぜった…」
「もう、いいの。じぶ、んのこと、は、自分が…いち、ばん分かるよ」
「ーーーッ」

医学の知識が乏しいレイルにも分かりきっていた。
妹の命はもう風前の灯火であることも。
それがもう、消えかけていることも。
オリビアは必死で言葉を繋いでいく。

「にいさ、泣かない、で」
「…ばかっ、お前っ…自分の心配しろよ!!」
「やさ、しいね。私、にい、さんが…大好、き、だったよ」

何故、ここまで妹は強いのか。
何故、ここまで自分は弱いのか。
自虐を続けるレイルにオリビアは言った。

「おね、がい…私の、事で…かなし、まないで」
「悲しむに決まってるだろ!?」
「…兄さん…だ…いす……き…………」
「オリビアァッ……!!」

オリビア・カッタンディア。
享年、十歳。
あまりにも短い生であった。





















「君が必死になる理由も分からなくはないわよ、レイル君」
「………」

アレクが薬を開発したすぐ後、学園長が静かにレイルに言った。
学園長はもう妹の事を知っている。
今更それが何故かは聞く気にはなれなかった。

「…本当に良かったの?君は、アレク君の身代わりよ。レイル君…危険、なのよ?」
「重々承知しています、学園長先生」
「………そう」

レイルの果てしなく長い道のりはここから始まる。
全ては、難病に苦しむ人々を助けるため。
…妹の夢の代わりを、レイルは見続ける。




しおりを挟む
感想 449

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。