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番外編
番外編 双子の想い
「き、君ら! どこに行くんだい!」
教師の呼び止めに、くるりと振り返る銀髪の双子。
その双子はそっくりで、どちらも見惚れるほど美しかった。
しかし、表情は無愛想そのものだ。
呆れるような目線を教師に向け、兄のほうが口を開いた。
「弟の所です」
「何でだい!」
「今から体育の授業があるので、怪我をしないか心配なんです」
妹のほうが微笑んでそう言うが、教師はその言葉に頭を抱えた。
その隙に双子は、躊躇うこともなく教室から出て行ってしまった。
ーーその全てを見ていた双子の友人、アトラス・ウェルデルは唸った。
どうせまた、自分が連れ戻しに行く羽目になるのだ。
アトラスはその先を思いため息をつく。
案の定、教師に目をつけられてしまった。
「君、アトラス君。あの二人を呼び戻してくれないかい?」
教師の呼びつけがかかり、アトラスは更にため息を重ねる。
「……あの、僕はもうちょっと前に行きましたが」
「前回はマイナルさんだったね?」
同じく名前を呼ばれた友人のマイナルに助けを求めるように目配せするが、ふいと目を逸らされてしまった。
逃げ道は断たれた。
「……分かりました」
◆ ◆ ◆
それからアトラスは体育館へ向かった。
どうせあの二人はここにいるだろうと考えたからだ。
キョロキョロと辺りを見回すと、早速見つけることができた。
「ちょっと! ガディ、エルル!」
呆れるほどにはた迷惑な双子を見つけ、アトラスは叫んだ。
名を呼ばれた双子ーーガディとエルルが、不快そうな顔をして振り返った。
「お前……またかよ」
「アトラスも暇ね」
「いい加減、迷惑してるってわかってよね」
はぁ、と深くため息をつくアトラスを全く気にせずに、弟の姿を目で追っている二人。
「ナイスカット!」
今日は、バスケットボールをしているようだった。
双子の弟、アレクは授業中でも活躍をしていた。
何かとリーダー格として頼られることの多い彼は友人にも恵まれ、実に楽しんでいるようであった。
アトラスは、ふとガディとエルルに問いかけた。
「あのさ、何で君らこんなにアレク君を溺愛してんの? 確かに可愛いけどさ、流石に授業抜け出すのはやりすぎなんじゃ……」
「そういう訳にはいかないんだよ」
「……え?」
その時、アトラスは思わず目を擦った。
ガディが、見たこともないような切なげな表情で笑っていたのだ。
その声も穏やかなものに変わっている。
エルルはそれをしばらく黙って見つめていたが、アトラスに向かって鬱陶しそうに口を開いた。
「と、いうわけで、帰ってくれる?」
「はあっ!?」
アトラスのギャアギャアとした喚き声を聞き流し、エルルはアレクを見つめた。
幸せそうだった。
かつて浮かぶ、自分達とアレクの幼い姿を重ねながらも、二人は昔を思い出していた。
◆ ◆ ◆
「何故だっ!!」
「っ!」
父の激しい叱咤に、ビクッと身を震わせるガディ。
ばんっと激しく机を叩きつける父からは、激しい憤怒が感じ取れた。
「何故これくらいのことができない! お前らはもう八歳であろう!」
「…………」
父の机に叩きつけられた、ある一枚の羊皮紙。
それは、ナハールの街の唯一のギルド、「狼の遠吠え」の依頼書。
そこには、「Aランク。リーフエルフ討伐」という内容と、「失敗」の赤い判子が押してあった。
八歳がこなすには、あまりに危険すぎる依頼だ。
それを重々承知で父ーーダリオは、二人にこの依頼を受けさせた。
二人が命からがら戻ってくると、待っていたのは労いの言葉ではなく、怒りに染まった言葉だった。
妹であるエルルが、怯えたようにガディの肩にすがりつく。
見れば、今にも泣き出しそうだ。
銀色の瞳が不安げにゆらゆらと揺れている。
自分が何とかせねば。
ガディはそう思い、父に向かって勢い良く頭を下げた。
「申し訳ありません、父様。次は、次は必ず成功させます……!」
「ふざけるなっ! 英雄の誉れを傷つけおって!!」
ドゴッ……!!
「ガディ!!」
鈍い音が、静かな空間に響いた。
それは他でもない、ガディが殴られた音であった。
あまりのショックにエルルは涙ぐみながらも、キッとダリオを睨んだ。
「何だ? その目は……」
女であるエルルが、父に手を上げられることはめったになかった。
だか、今は目が血走っており、決して正気ではないことが伺える。
ばっと勢いづいた平手が、エルルに向かったその瞬間だった。
「父様!!」
「…サージュか」
弟である、サージュが部屋に押しかけてきた。
いつもなら鬱陶しい存在だが、今はありがたかった。
自分達とは打って変わって、父は優しげにサージュに話しかけた。
「どうした? 何か用か?」
「遊びましょう! 今日は天気がいいです!」
「ああ、そうだな」
父は楽しげに、弟と出て行った。
ーーしばらくし、エルルはガディに飛びつく。
「ガディ! 大丈夫?」
「……ああ。エルル、無事か?」
「うん。私は……大丈夫だよ」
ぐすっと鼻を啜るエルルを、慰めるようにガディはそっと撫でた。
その時、また新たな人影が現れた。
「にーさま! ねーさま!」
「アレク……」
愛しい三歳となった弟、アレクだった。
その紫のフワフワとした髪を揺らして、ガディとエルルに駆け寄ってくる。
「だいじょーぶ?」
「ああ……大丈夫だよ」
アレクを安心させるように抱きすくめたが、ブンブンと首を横に振って、アレクはガディの赤く腫れた頬に手を添えた。
「我が名に答え、かの者を癒やしたまえ……エクスヒール」
魔法を唱える時にだけ流暢になる声に耳を傾けている間に、腫れは引いていた。
おまけに今回の依頼で負った傷も塞がっていたし、エルルにまでもその効果は届いていた。
「……ありがとう、アレク」
「うん、大丈夫」
にこりと微笑んだアレクだったが、その小さな手に打撲のような傷跡があるのをガディは見逃さなかった。
きっと魔力を自分達に使うために、温存しておいたのであろう。
弟までそんな苦労をかけていると考えると、自分があまりにも不甲斐なく感じた。
「……ごめんな、アレク、エルル」
「「え?」」
ギュッとガディは力強く、アレクとエルルを抱きしめた。
その声には、悲嘆が滲んでいた。
「俺、強くなるから。もっと、もっと、強くなるから……」
「……にーさま」
「……ガディ」
もっと、もっと、強くなって。
父の理不尽を跳ね返せられるようになりたい。
もっと、もっと、強くなって。
英雄の子孫という呪いから、エルルとアレクを解き放ってあげたい。
もっと、もっと、もっと、もっと。
「強く、なるから…………」
「……ぐすっ」
「う、うん。私も、強ぐ、強ぐなる」
ガディにつられ、小さな肩を震わせてエルルとアレクが泣き出した。
ガディは泣きながら、様々な思いを巡らせる。
(神様。絶対に俺は強くなります。強くなって、アレクとエルルを守ります。だから、だから……どうか二人をお守りください。そして、今だけは泣いてしまうことを許してください。今だけは……)
◆ ◆ ◆
エルルは、弟であるアレクが心配だった。
この世に生まれない紫の髪と瞳に生まれたせいで、決して親に愛されない弟が。
アレクのことを愛したのはいつからか。
それはもう検討がつかない。
いつの間にかアレクは、慈しむもの。
それと同時に守り抜くものとしての、対象者だった。
いつもと変わらず元気な弟。
元気に見える弟。
それを見て、ひどく胸がズキンと傷んだ。
ふと、エルルはアレクに向かってとある質問をした。
「……アレクは、父様と母様に愛されたかった?」
「!」
突然の質問に驚いたようで、その綺麗な紫の瞳を見開いた。
だが、すぐにアレクは困ったような笑顔となる。
「……そうかもね」
「っ!」
後悔した。
自分は、何てことを聞いてしまったのか。
自分達は少なくとも少しは可愛がられているのを、いい気になって。
何てことを。
狼狽するエルルを元気づけるように、アレクは大声で続けた。
「でも、ねーさまも、にーさまもいるから、ぜんぜんへーきだよ!」
その言葉は、エルルの胸に深く突き刺さった。
精一杯、見栄を張っているようにも見えた。
「………」
アレクと離れた後。
エルルは力こぶしをつくって、壁に叩きつけた。
ジンとした痛みが走るが、それは自分へと罰に思えた。
(私じゃ、代わりになれないかもしれない。だけど、姉として。あの子の姉として。せめてもの愛情を、あの子にーー)
◆ ◆ ◆
それからだったか。
双子は死に物狂いで、技術を習得し続けた。
弟を守るため。
それならばどんな苦痛もいとわなかった。
そしてーーようやく、その時がやってきた。
「おめでとう、ガディ君、エルルさん」
ギルド長の言葉を聞き、双子は頷いた。
ギルド長が手にしているのは、証明書。
それを二人にギルド長は差し出す。
「今日から君達はSSSランクだ」
「「ありがとう、ございます」」
それを受け取り、満足げに笑う双子。
ふぅと息をついて、ギルド長は二人に問いかけた。
「十四歳で、ギルドランクSSSとは。とても苦労しただろう。君達はこの権利を、何故手に入れた?」
二人の答えは、決まっていた。
ピタリと揃った声で二人は答えた。
「「自分の大切なものを守るため」」
「……そうか」
満足する答えを出せたらしい。
ギルド長は深く頷いた。
「では、これからも精進したまえ。幼い時からいるせいか、君達は我が子みたいなものだ。決して無理はせずにな」
「お気遣い、感謝します」
これで、守れるだろうか。
自分の大切な、家族を。
愛しくてしょうがない弟を。
あの日、流した涙は決して無駄ではなかったのだ。
自分達は、強くなれたのだから。
◆ ◆ ◆
「あっ! 兄様、姉様! また来たの!?」
「ああ」
「ええ」
アレクの問いかけに、幸せそうに返事をするガディとエルル。
アレクはプンスカと怒って二人に言った。
「ほら、アトラスさん困ってるよ!」
「ありがとうアレク君。ほら、行くよ」
「「あ~~~」」
ズルズルと、いつものように引きずられながらも、二人はアレクを見つめる。
やはり、自分達が与える愛情には限界があったのだ。
友人、大人、身内。
ここではとても恵まれた環境を手にすることができた。
だが結局、親の愛は受けることができなかった。
自分達の不甲斐なさ、未熟さを噛み締めながらも、それに成り代わることはできない。
ならば、周りに何と言われようと。
どんな奇怪な目で見られようと。
弟を愛し抜くと、決めたのだ。
教師の呼び止めに、くるりと振り返る銀髪の双子。
その双子はそっくりで、どちらも見惚れるほど美しかった。
しかし、表情は無愛想そのものだ。
呆れるような目線を教師に向け、兄のほうが口を開いた。
「弟の所です」
「何でだい!」
「今から体育の授業があるので、怪我をしないか心配なんです」
妹のほうが微笑んでそう言うが、教師はその言葉に頭を抱えた。
その隙に双子は、躊躇うこともなく教室から出て行ってしまった。
ーーその全てを見ていた双子の友人、アトラス・ウェルデルは唸った。
どうせまた、自分が連れ戻しに行く羽目になるのだ。
アトラスはその先を思いため息をつく。
案の定、教師に目をつけられてしまった。
「君、アトラス君。あの二人を呼び戻してくれないかい?」
教師の呼びつけがかかり、アトラスは更にため息を重ねる。
「……あの、僕はもうちょっと前に行きましたが」
「前回はマイナルさんだったね?」
同じく名前を呼ばれた友人のマイナルに助けを求めるように目配せするが、ふいと目を逸らされてしまった。
逃げ道は断たれた。
「……分かりました」
◆ ◆ ◆
それからアトラスは体育館へ向かった。
どうせあの二人はここにいるだろうと考えたからだ。
キョロキョロと辺りを見回すと、早速見つけることができた。
「ちょっと! ガディ、エルル!」
呆れるほどにはた迷惑な双子を見つけ、アトラスは叫んだ。
名を呼ばれた双子ーーガディとエルルが、不快そうな顔をして振り返った。
「お前……またかよ」
「アトラスも暇ね」
「いい加減、迷惑してるってわかってよね」
はぁ、と深くため息をつくアトラスを全く気にせずに、弟の姿を目で追っている二人。
「ナイスカット!」
今日は、バスケットボールをしているようだった。
双子の弟、アレクは授業中でも活躍をしていた。
何かとリーダー格として頼られることの多い彼は友人にも恵まれ、実に楽しんでいるようであった。
アトラスは、ふとガディとエルルに問いかけた。
「あのさ、何で君らこんなにアレク君を溺愛してんの? 確かに可愛いけどさ、流石に授業抜け出すのはやりすぎなんじゃ……」
「そういう訳にはいかないんだよ」
「……え?」
その時、アトラスは思わず目を擦った。
ガディが、見たこともないような切なげな表情で笑っていたのだ。
その声も穏やかなものに変わっている。
エルルはそれをしばらく黙って見つめていたが、アトラスに向かって鬱陶しそうに口を開いた。
「と、いうわけで、帰ってくれる?」
「はあっ!?」
アトラスのギャアギャアとした喚き声を聞き流し、エルルはアレクを見つめた。
幸せそうだった。
かつて浮かぶ、自分達とアレクの幼い姿を重ねながらも、二人は昔を思い出していた。
◆ ◆ ◆
「何故だっ!!」
「っ!」
父の激しい叱咤に、ビクッと身を震わせるガディ。
ばんっと激しく机を叩きつける父からは、激しい憤怒が感じ取れた。
「何故これくらいのことができない! お前らはもう八歳であろう!」
「…………」
父の机に叩きつけられた、ある一枚の羊皮紙。
それは、ナハールの街の唯一のギルド、「狼の遠吠え」の依頼書。
そこには、「Aランク。リーフエルフ討伐」という内容と、「失敗」の赤い判子が押してあった。
八歳がこなすには、あまりに危険すぎる依頼だ。
それを重々承知で父ーーダリオは、二人にこの依頼を受けさせた。
二人が命からがら戻ってくると、待っていたのは労いの言葉ではなく、怒りに染まった言葉だった。
妹であるエルルが、怯えたようにガディの肩にすがりつく。
見れば、今にも泣き出しそうだ。
銀色の瞳が不安げにゆらゆらと揺れている。
自分が何とかせねば。
ガディはそう思い、父に向かって勢い良く頭を下げた。
「申し訳ありません、父様。次は、次は必ず成功させます……!」
「ふざけるなっ! 英雄の誉れを傷つけおって!!」
ドゴッ……!!
「ガディ!!」
鈍い音が、静かな空間に響いた。
それは他でもない、ガディが殴られた音であった。
あまりのショックにエルルは涙ぐみながらも、キッとダリオを睨んだ。
「何だ? その目は……」
女であるエルルが、父に手を上げられることはめったになかった。
だか、今は目が血走っており、決して正気ではないことが伺える。
ばっと勢いづいた平手が、エルルに向かったその瞬間だった。
「父様!!」
「…サージュか」
弟である、サージュが部屋に押しかけてきた。
いつもなら鬱陶しい存在だが、今はありがたかった。
自分達とは打って変わって、父は優しげにサージュに話しかけた。
「どうした? 何か用か?」
「遊びましょう! 今日は天気がいいです!」
「ああ、そうだな」
父は楽しげに、弟と出て行った。
ーーしばらくし、エルルはガディに飛びつく。
「ガディ! 大丈夫?」
「……ああ。エルル、無事か?」
「うん。私は……大丈夫だよ」
ぐすっと鼻を啜るエルルを、慰めるようにガディはそっと撫でた。
その時、また新たな人影が現れた。
「にーさま! ねーさま!」
「アレク……」
愛しい三歳となった弟、アレクだった。
その紫のフワフワとした髪を揺らして、ガディとエルルに駆け寄ってくる。
「だいじょーぶ?」
「ああ……大丈夫だよ」
アレクを安心させるように抱きすくめたが、ブンブンと首を横に振って、アレクはガディの赤く腫れた頬に手を添えた。
「我が名に答え、かの者を癒やしたまえ……エクスヒール」
魔法を唱える時にだけ流暢になる声に耳を傾けている間に、腫れは引いていた。
おまけに今回の依頼で負った傷も塞がっていたし、エルルにまでもその効果は届いていた。
「……ありがとう、アレク」
「うん、大丈夫」
にこりと微笑んだアレクだったが、その小さな手に打撲のような傷跡があるのをガディは見逃さなかった。
きっと魔力を自分達に使うために、温存しておいたのであろう。
弟までそんな苦労をかけていると考えると、自分があまりにも不甲斐なく感じた。
「……ごめんな、アレク、エルル」
「「え?」」
ギュッとガディは力強く、アレクとエルルを抱きしめた。
その声には、悲嘆が滲んでいた。
「俺、強くなるから。もっと、もっと、強くなるから……」
「……にーさま」
「……ガディ」
もっと、もっと、強くなって。
父の理不尽を跳ね返せられるようになりたい。
もっと、もっと、強くなって。
英雄の子孫という呪いから、エルルとアレクを解き放ってあげたい。
もっと、もっと、もっと、もっと。
「強く、なるから…………」
「……ぐすっ」
「う、うん。私も、強ぐ、強ぐなる」
ガディにつられ、小さな肩を震わせてエルルとアレクが泣き出した。
ガディは泣きながら、様々な思いを巡らせる。
(神様。絶対に俺は強くなります。強くなって、アレクとエルルを守ります。だから、だから……どうか二人をお守りください。そして、今だけは泣いてしまうことを許してください。今だけは……)
◆ ◆ ◆
エルルは、弟であるアレクが心配だった。
この世に生まれない紫の髪と瞳に生まれたせいで、決して親に愛されない弟が。
アレクのことを愛したのはいつからか。
それはもう検討がつかない。
いつの間にかアレクは、慈しむもの。
それと同時に守り抜くものとしての、対象者だった。
いつもと変わらず元気な弟。
元気に見える弟。
それを見て、ひどく胸がズキンと傷んだ。
ふと、エルルはアレクに向かってとある質問をした。
「……アレクは、父様と母様に愛されたかった?」
「!」
突然の質問に驚いたようで、その綺麗な紫の瞳を見開いた。
だが、すぐにアレクは困ったような笑顔となる。
「……そうかもね」
「っ!」
後悔した。
自分は、何てことを聞いてしまったのか。
自分達は少なくとも少しは可愛がられているのを、いい気になって。
何てことを。
狼狽するエルルを元気づけるように、アレクは大声で続けた。
「でも、ねーさまも、にーさまもいるから、ぜんぜんへーきだよ!」
その言葉は、エルルの胸に深く突き刺さった。
精一杯、見栄を張っているようにも見えた。
「………」
アレクと離れた後。
エルルは力こぶしをつくって、壁に叩きつけた。
ジンとした痛みが走るが、それは自分へと罰に思えた。
(私じゃ、代わりになれないかもしれない。だけど、姉として。あの子の姉として。せめてもの愛情を、あの子にーー)
◆ ◆ ◆
それからだったか。
双子は死に物狂いで、技術を習得し続けた。
弟を守るため。
それならばどんな苦痛もいとわなかった。
そしてーーようやく、その時がやってきた。
「おめでとう、ガディ君、エルルさん」
ギルド長の言葉を聞き、双子は頷いた。
ギルド長が手にしているのは、証明書。
それを二人にギルド長は差し出す。
「今日から君達はSSSランクだ」
「「ありがとう、ございます」」
それを受け取り、満足げに笑う双子。
ふぅと息をついて、ギルド長は二人に問いかけた。
「十四歳で、ギルドランクSSSとは。とても苦労しただろう。君達はこの権利を、何故手に入れた?」
二人の答えは、決まっていた。
ピタリと揃った声で二人は答えた。
「「自分の大切なものを守るため」」
「……そうか」
満足する答えを出せたらしい。
ギルド長は深く頷いた。
「では、これからも精進したまえ。幼い時からいるせいか、君達は我が子みたいなものだ。決して無理はせずにな」
「お気遣い、感謝します」
これで、守れるだろうか。
自分の大切な、家族を。
愛しくてしょうがない弟を。
あの日、流した涙は決して無駄ではなかったのだ。
自分達は、強くなれたのだから。
◆ ◆ ◆
「あっ! 兄様、姉様! また来たの!?」
「ああ」
「ええ」
アレクの問いかけに、幸せそうに返事をするガディとエルル。
アレクはプンスカと怒って二人に言った。
「ほら、アトラスさん困ってるよ!」
「ありがとうアレク君。ほら、行くよ」
「「あ~~~」」
ズルズルと、いつものように引きずられながらも、二人はアレクを見つめる。
やはり、自分達が与える愛情には限界があったのだ。
友人、大人、身内。
ここではとても恵まれた環境を手にすることができた。
だが結局、親の愛は受けることができなかった。
自分達の不甲斐なさ、未熟さを噛み締めながらも、それに成り代わることはできない。
ならば、周りに何と言われようと。
どんな奇怪な目で見られようと。
弟を愛し抜くと、決めたのだ。
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