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アルスフォード編
第五十七話 透けて見える本音
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「それじゃ、ドワーフのお姉さんに頼まれたことだし……修行、始めちゃうよ」
「よろしく!」
「よ……よろしくお願いしますっ」
ポルカの家を少し離れた先で、シオンとライアンの修行が始まった。
アレクはアリスの実力を知らずにいる。
本当にアリスが修行のようなことができるのかと、計りかねているところもあった。
「アリス、大丈夫?」
「心配ないよお兄さん。見てて」
アリスは安心させるように笑ってみせると、両手を合わせて空中に差し出した。
大きく息を吸って「ふんっ」と力んでみせると、ポンっと軽快な音と共に黒い玉が出現する。
それを見て、シオンは不思議そうに首を傾げた。
「アリスちゃん、それ何……?」
「フワさんにガツさん、聞いて」
「フワさん……?」
「ガツさん!?」
独特の呼び名で呼ばれたシオンとライアンが、ギョッとした様子でアリスに詰め寄った。
「わ、私、シオンだよぉ」
「俺、ライアンって名前があるぞ!?」
「うん。でもフワフワしてるし、ガツガツしてるから」
「イメージ像……?」
何だか凹みがちな二人に、後ろで見ているアレクが苦笑した。
「アリスってなんだか、独特のネーミングセンスを持ってるよね」
「……そうだな」
「ラフテル?」
反応の鈍いラフテルに、アレクは不思議そうな顔をする。
ラフテルの横に立つナオが、微妙な表情を浮かべていた。
「とりあえず聞いてっ。今からこの黒い玉に、フワさんとガツさん、全力で魔法を打ち込んでよ。それこそ、魔力のギリギリまで」
「わ……わかった!」
「おう! 任せろ!」
指示された通りに、二人が魔法の打ち出しを開始する。
どれだけ派手に魔法を打とうが、黒い玉はその全てを吸収した。
その後五分ほど魔法を打ち続け、二人が限界を迎えた頃ーー
「もっ、もう無理だ……!」
「疲れた……」
二人は地面に倒れ伏し、息も絶え絶えにアリスを見つめた。
「修行ってこれか……?」
「ううん。ここから」
アリスは今度は黒い玉を動かし、何かへと変異させた。
「え……」
降り立ったのは、黒色の体を持つ熊のような魔物であった。
ポカンと口を開ける二人を睨み、一気に爪を振り下ろす。
「うわわっ!」
慌てて二人はその場を飛び退くも、魔法を使い果たしたことで疲弊した体は思うように動いてくれない。
そんな中、アリスが二人に語りかける。
「これが私の出す修行。フワさんとガツさんの魔力で、魔物を作り出したんだ。この子を倒せたら二人はもっと強くなってると思うよ」
「い、今の状態で!?」
「私もう戦えないよぉ……」
ヘロヘロの二人だったが、アリスは容赦ない一言を告げる。
「でも、この子は二人のこと殺しに行くよ。魔物だもん」
「いっ……!?」
「嘘でしょ……」
「頑張ってね、二人共」
そう言って笑う様は、まさしく彼女が悪魔であることを証明していた。
二人の悲鳴が響き渡る中、アレクはハラハラした様子でそれを見守っている。
「二人共、いけるのかな……? 心配だなあ」
そんなアレクに、ラフテルが言った。
「お前の友を信じてやれ。二人はお前のために頑張っているんだぞ」
「……うん、そうだよね。わかった! がんばれー! 二人共!」
アレクが二人を応援する中、ラフテルがとある話題を切り出す。
「お前はあれを、見たことがあったか?」
「あれって?」
「悪魔の使った術のことだ」
「初めて見たけど……?」
「アレク様」
そこで、ナオが少し言いづらそうに口を開いた。
「あの術こそが、悪魔が悪魔たる所以のものなのです。しかも魔物の……生命の創造など、本当に高位の悪魔にしかできないもの。ご主人様は、それに警戒してるんです」
「……アリスは、悪い子じゃないよ」
「どうだかな」
ラフテルにしては、アレクを突き放すような返事をする。
それほどまでにラフテルがアリスに抱く警戒心は高い。
「俺はあいつを見張り続けるぞ。お前を守るためにな」
「……うん」
複雑な心情のまま、アレクは頷いた。
◆ ◆ ◆
「それじゃあ、こちらも始めるとするかの」
「はい。よろしくお願いします」
一方、ユリーカは一人、ポルカと家の前で向き合っていた。
ポルカはユリーカの頭に指を当てると、厳かに確認を取る。
「今からアチキは、お前さんの覚悟を問おう。本当に連れて行ってもいいか……お前さんが強くなれるかは、そこで判断する」
「わかりました」
「早速行くぞい」
ユリーカの前の景色が歪んだ。
まるで水の中に放り込まれたような感覚。
視界は真っ暗だ。
ユリーカは泳げるはずだが、体の自由が効かない。
(なに……?)
やがて光が前を満たし、ようやくユリーカは目を開けた。
「ユリーカ!」
名前を呼ばれた。
振り返れば、随分と背の高い姉がいる。
「もう、どこ行ってたの! お母さん心配してるよ?」
「お姉ちゃん……」
「行くよ、ほら。このお転婆娘めっ」
(お転婆娘……?)
久しく聞いていない呼び名に、ユリーカは困惑する。
ユリーカはひょいと姉に抱えられてしまった。
その際に目に入った自分の手の小ささは驚く。
「これは……どうなってるの」
そのままユリーカは姉に連れられ、家へと帰宅した。
「お母さんただいまーっ」
「おかえりなさい、ノエラにユリーカ。ユリーカ、お姉ちゃんに迷惑かけちゃダメでしょう」
「ご、ごめんなさい……」
嗜めてくる母の態度は優しい。
何だか家に漂う空気が今とは違う気がした。
「おっ、ユリーカにノエラ! 帰ってきたか」
「!」
息が止まった。
今では聞けるはずのない声がした。
「お父さん……?」
信じられないようなものを見る目で、ユリーカは父のことを凝視する。
ユリーカの父は、本来ならここにいるはずのない人間だ。
「どうした、ユリーカ」
「あ、えと……なんでもない」
間違いない、過去に戻っている。
どういう原理かは知らないが、ユリーカがいるこの時空は、少なくともユリーカが七歳より前の頃。
「こんなもの見せて、どうしろって言うの……?」
「よろしく!」
「よ……よろしくお願いしますっ」
ポルカの家を少し離れた先で、シオンとライアンの修行が始まった。
アレクはアリスの実力を知らずにいる。
本当にアリスが修行のようなことができるのかと、計りかねているところもあった。
「アリス、大丈夫?」
「心配ないよお兄さん。見てて」
アリスは安心させるように笑ってみせると、両手を合わせて空中に差し出した。
大きく息を吸って「ふんっ」と力んでみせると、ポンっと軽快な音と共に黒い玉が出現する。
それを見て、シオンは不思議そうに首を傾げた。
「アリスちゃん、それ何……?」
「フワさんにガツさん、聞いて」
「フワさん……?」
「ガツさん!?」
独特の呼び名で呼ばれたシオンとライアンが、ギョッとした様子でアリスに詰め寄った。
「わ、私、シオンだよぉ」
「俺、ライアンって名前があるぞ!?」
「うん。でもフワフワしてるし、ガツガツしてるから」
「イメージ像……?」
何だか凹みがちな二人に、後ろで見ているアレクが苦笑した。
「アリスってなんだか、独特のネーミングセンスを持ってるよね」
「……そうだな」
「ラフテル?」
反応の鈍いラフテルに、アレクは不思議そうな顔をする。
ラフテルの横に立つナオが、微妙な表情を浮かべていた。
「とりあえず聞いてっ。今からこの黒い玉に、フワさんとガツさん、全力で魔法を打ち込んでよ。それこそ、魔力のギリギリまで」
「わ……わかった!」
「おう! 任せろ!」
指示された通りに、二人が魔法の打ち出しを開始する。
どれだけ派手に魔法を打とうが、黒い玉はその全てを吸収した。
その後五分ほど魔法を打ち続け、二人が限界を迎えた頃ーー
「もっ、もう無理だ……!」
「疲れた……」
二人は地面に倒れ伏し、息も絶え絶えにアリスを見つめた。
「修行ってこれか……?」
「ううん。ここから」
アリスは今度は黒い玉を動かし、何かへと変異させた。
「え……」
降り立ったのは、黒色の体を持つ熊のような魔物であった。
ポカンと口を開ける二人を睨み、一気に爪を振り下ろす。
「うわわっ!」
慌てて二人はその場を飛び退くも、魔法を使い果たしたことで疲弊した体は思うように動いてくれない。
そんな中、アリスが二人に語りかける。
「これが私の出す修行。フワさんとガツさんの魔力で、魔物を作り出したんだ。この子を倒せたら二人はもっと強くなってると思うよ」
「い、今の状態で!?」
「私もう戦えないよぉ……」
ヘロヘロの二人だったが、アリスは容赦ない一言を告げる。
「でも、この子は二人のこと殺しに行くよ。魔物だもん」
「いっ……!?」
「嘘でしょ……」
「頑張ってね、二人共」
そう言って笑う様は、まさしく彼女が悪魔であることを証明していた。
二人の悲鳴が響き渡る中、アレクはハラハラした様子でそれを見守っている。
「二人共、いけるのかな……? 心配だなあ」
そんなアレクに、ラフテルが言った。
「お前の友を信じてやれ。二人はお前のために頑張っているんだぞ」
「……うん、そうだよね。わかった! がんばれー! 二人共!」
アレクが二人を応援する中、ラフテルがとある話題を切り出す。
「お前はあれを、見たことがあったか?」
「あれって?」
「悪魔の使った術のことだ」
「初めて見たけど……?」
「アレク様」
そこで、ナオが少し言いづらそうに口を開いた。
「あの術こそが、悪魔が悪魔たる所以のものなのです。しかも魔物の……生命の創造など、本当に高位の悪魔にしかできないもの。ご主人様は、それに警戒してるんです」
「……アリスは、悪い子じゃないよ」
「どうだかな」
ラフテルにしては、アレクを突き放すような返事をする。
それほどまでにラフテルがアリスに抱く警戒心は高い。
「俺はあいつを見張り続けるぞ。お前を守るためにな」
「……うん」
複雑な心情のまま、アレクは頷いた。
◆ ◆ ◆
「それじゃあ、こちらも始めるとするかの」
「はい。よろしくお願いします」
一方、ユリーカは一人、ポルカと家の前で向き合っていた。
ポルカはユリーカの頭に指を当てると、厳かに確認を取る。
「今からアチキは、お前さんの覚悟を問おう。本当に連れて行ってもいいか……お前さんが強くなれるかは、そこで判断する」
「わかりました」
「早速行くぞい」
ユリーカの前の景色が歪んだ。
まるで水の中に放り込まれたような感覚。
視界は真っ暗だ。
ユリーカは泳げるはずだが、体の自由が効かない。
(なに……?)
やがて光が前を満たし、ようやくユリーカは目を開けた。
「ユリーカ!」
名前を呼ばれた。
振り返れば、随分と背の高い姉がいる。
「もう、どこ行ってたの! お母さん心配してるよ?」
「お姉ちゃん……」
「行くよ、ほら。このお転婆娘めっ」
(お転婆娘……?)
久しく聞いていない呼び名に、ユリーカは困惑する。
ユリーカはひょいと姉に抱えられてしまった。
その際に目に入った自分の手の小ささは驚く。
「これは……どうなってるの」
そのままユリーカは姉に連れられ、家へと帰宅した。
「お母さんただいまーっ」
「おかえりなさい、ノエラにユリーカ。ユリーカ、お姉ちゃんに迷惑かけちゃダメでしょう」
「ご、ごめんなさい……」
嗜めてくる母の態度は優しい。
何だか家に漂う空気が今とは違う気がした。
「おっ、ユリーカにノエラ! 帰ってきたか」
「!」
息が止まった。
今では聞けるはずのない声がした。
「お父さん……?」
信じられないようなものを見る目で、ユリーカは父のことを凝視する。
ユリーカの父は、本来ならここにいるはずのない人間だ。
「どうした、ユリーカ」
「あ、えと……なんでもない」
間違いない、過去に戻っている。
どういう原理かは知らないが、ユリーカがいるこの時空は、少なくともユリーカが七歳より前の頃。
「こんなもの見せて、どうしろって言うの……?」
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