追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第五十六話 キラキラした夢

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生まれた時から、俺は強かった。

『この歳でここまでの剣術……! ライアン様は天才です!』
『流石、騎士団長の息子です!』

俺を褒められた父さんも満更でもなさそうで、俺、嬉しかったんだ。
このまま次期騎士団長として成長して、国を守る男になるんだって、ずっと思ってた。
俺がみんなを守るんだって。

『アレク君、凄い!』
『こんな子いるんだ。やっぱり天才は違うね』

俺なんかより、よっぽど凄い天才を見つけた。
俺バカだからさ、あんまり物事知らないんだ。
そん時はちょっと悔しかったけど、張り合える相手ができて、ワクワクしたんだ。
そいつは俺の友達になったから、助けてやりたいって思う。

「お前さん達は何を思って、アレクについていくことを選んだ?」

そういえば、俺ってなんでここにいるんだろ。

◆ ◆ ◆

「何をって……」
「このシオンという娘には、覚悟を感じる。しかし、アチキはお前さん達に強い意志を感じないのぅ」

ライアンはポルカにそう言及された時、少しばかり納得してしまった。
確かにアレクの力になりたいとは思う。
しかし今ここにいるのは、シオンが両親に商談相手が欲しいと言われたからだ。
シオンの両親が愚痴程度で溢したそれをシオンが受け取り、役に立ちたいと願ったから、ライアンはついてきただけ。
寧ろこの場でここまで重要なことについて問われるとは、思ってもいなかった。

「俺……俺は……すみません。ちょっと時間くださいっス」

一旦答えを保留にし、ライアンは考えてみる。
ライアンは愚直なまでに真っ直ぐな少年であった。
嘘はつけないし、取り繕うことも苦手。
しかし彼なりに、考えを巡らせることはできた。

(なんで俺がアレクを助けたいか、考えてみよう)

ーー答え1。友達だから。
ライアンにできた、特に仲の良い友達。
シオンやユリーカとは今までよく絡んでいたし、周りのクラスメイトとも上手くやってきた。
しかし同性で初めてここまで仲良くなれたのがアレクだった。
それはなぜ?
ーー答え2。ライアンと張り合えるどころか、飛び越えてくるような人間だったから。
ライアンはクラスで一番の剣術使い。
それは今でも変わらないが、総合的に見て一番凄いのはアレクだ。
アレクにだけは、剣術は負けたくないと望むほど。
そこまでライアンが熱心になれた相手など、今までいなかったのだから。
そこから少し進もう。
アレクの抱える問題のため、己の命を投げ出すことはできるか。
ーー答え3。できない。
自分には家族もいる。死にたくなどないし、死ねない理由もある。
今の自分じゃまだまだ力不足。このままアレクについていけば死ぬ。
じゃあどうする。この一件から、ポルカの言う通り手を引くか。
ーー答え4。それも嫌。
ライアンは、代々騎士団長を生み出してきたオルフェーヴ家の長男だ。
いずれ自身も騎士となり、国に仕える運命にある。
己の騎士道というものを、ライアンは少なからず持っていた。
友達の危機に尻尾を巻いて逃げるなど、騎士としての生涯の恥。
じゃあどうする。

「ーーわかったっス! 俺もっ、シオンと一緒に強くなる!」
「ほう……」
「今までちょっとぼんやりしすぎてたっス! やっぱり俺、アレクについていきたいし、アレクに張り合えるくらいの人間になりたい……! そうすれば、俺は騎士団長になれる気がする!」
「己の野望のため、か。その意気や良し」

ライアンの提示した答えに、ポルカは満足げに頷いた。
続いて、ポルカはユリーカに向き直る。

「そこのお嬢さんは、どうするつもりじゃ?」
「………」

ユリーカはシオンやライアンと違い、明確な意識を抱けなかった。
アレクに惚れているわけでもない。
強くなり、騎士団長になりたいわけでもない。
そもそも自分は、かなり流されがちに生きてきた気がする。

「……無理そうじゃな」
「!」

ポルカが見切りをつけたのを見て、ユリーカは慌てて口を開いた。

「私もっ、強くなりたいです! 私だけ蚊帳の外なんて嫌……!」
「お嬢さん。お前さん、本心はなんじゃい?」
「!」
「お嬢さんは今まで、才能でその場を乗り切ってきたじゃろう。特に大きな挫折もなく、悠々とした人生を送ってきたはずじゃけ。だからこそ、意志の弱さを感じる」
「………」
「やはりアチキは、お嬢さんは参加するべきではないと思うがの」
「っ、絶対……絶対ここから逃げたくない! 私だって、アレク君の助けになりたいんです!」

これは本心のはずだ。
ユリーカが叫びに近いような形で言えば、ポルカはしばらく黙った後眉を下げた。

「普通ならここまでせんのだがのぅ……よかろ。シオンにライアン。二人は悪魔の娘に協力してもらうがよい。アチキは……お前さんの相手をしよう」

ポルカは挑発的にユリーカに笑いかけた。

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