追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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留年回避編

第百五話 頭ヨクナール

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留年回避期間から三週間が経過した。
アレクは相変わらず、朝からジンにしごかれていた。
そろそろ投げられるのにも慣れてきた気がする。

「アレク君、お水」
「あ、ありがとう」

変わったことといえば、訓練にシオンが参加したことだ。
シオンは体育のテストで満点を取ることを、課題として出されている。
そのため必死になって体力を蓄えているのだが、いかんせん体が動かない。
そのため、アレクがジンとの訓練に誘ったのだ。

「シオン! 動きがだいぶよくなったな!」
「は、はい! 先生っ!」

ジンが凶悪ながらも、満面の笑みで話しかけてくる。
最初はこの笑顔を大層恐れていたシオンだったが、ジンが学園きっての面倒見の良い教師だと気づいたらしい。
シオンは褒められ、嬉しそうに破顔する。

「アレクのほうは……元々動けるからな。あとは、治癒魔法を前提とした、どこかの部位を犠牲にするような動き方をやめること」
「は、はいっ! ジン先生!」

ジンの口調も砕けてきた。
当初は君づけでアレクを呼んでいたが、今は呼び捨てである。
そのほうがアレクもしっくりくるため、訂正するような真似はしない。

「今日の朝練はここまで!」
「「ありがとうございました!」」

シオンと二人、授業を受けるために教室へ移動する。
そろそろ夏の気配を感じさせるせいなのか、動き回ったせいなのか、非常に暑い。
タオルで汗を拭いながら、アレクはシオンに声をかける。

「シオンは放課後も、ジン先生のお世話になってるんだよね」
「うん。とにかく体力つけろって、基礎メニューばっかりだよ。でも、応用もやってる」
「ジン先生は、高等部の体育の先生だからね。僕ら中等部とは内容が違うかも」
「そこは合わせてくれてるって」
「へ~」

そんな話をしながら教室のドアを開ける。

「待ちなさいライアン!! それだけは許さないわよ!!」
「もう勘弁してくれ頼む!! 俺、これを飲んで楽になりたい!!」

そこには、何かを飲もうとしているライアンと、それを押さえつけるユリーカの図が広がっていた。

「……何してるの?」
「あっ、二人共。訓練お疲れなさい」
「アレクゥ! ユリーカをどかしてくれ!」
「逆にライアン押さえるの手伝って!」
「待って待って」

状況が呑み込めず、アレクはシオンと顔を見合わせた。
一体なにが起こっているというのか。

「これ?」
「あっ」

シオンが、ライアンの手の中にある、飲み物の瓶を取り上げた。
瓶に貼られているラベルを見て、シオンは困ったように眉を八の字に曲げる。

「ライアン……これはダメだよ」
「うっ」
「でしょう?」
「それ、なんだったの?」

アレクが瓶を覗き込む。
ラベルには、『頭ヨクナール』と記載されていた。

「もしかして……」
「ドーピングの魔法薬ね」
「魔法薬? っていうのは知らないけど、これってズルなんじゃ」
「アレク君、魔法薬知らないの」
「うん」

知らない、とアレクが言ったので、シオンが前に出て説明する。

「ええと、ポーションの亜種みたいな感じ。飲んだら効き目が現れる、ドーピング剤。これ、偽物が多いから、あんまりみんな飲まないんだ」
「本物なんて、私も見たことないわ。でも……偽物かどうかわからないものを、飲ませるわけにはいかない」
「ああっ!」

ユリーカが瓶を取り上げ、そのまま鞄の中に突っ込む。
後から処分するつもりなのだろう。
ライアンはわかりやすく落ち込んだ。

「うう、俺にはテストで百点なんて無理だよ……」
「何とかなるわよ。
「百点が、満点じゃない?」

首を傾げるアレクに、ユリーカはギョッとした。

「ひょっとして、アレク君……あんまりテストの点数気にしないの?」
「う、うん。クラス落ちする点数じゃないならいいかなって」
「まあそれも一理あるけど。一教科だけ、百五十点が満点の教科があるのよ」
「それってーー」

ガラリと教室の扉が空いた。
アリーシャが欠伸をしながら入ってくる。

「おはよーござぃまーす。ホームルームだけして戻るから、みんな席ついてー」
「……アリーシャ先生の、歴史学よ」
「ん?」

名前を出されたアリーシャが、不思議そうにこちらを見た。

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