211 / 227
留年回避編
第百五話 頭ヨクナール
しおりを挟む
留年回避期間から三週間が経過した。
アレクは相変わらず、朝からジンにしごかれていた。
そろそろ投げられるのにも慣れてきた気がする。
「アレク君、お水」
「あ、ありがとう」
変わったことといえば、訓練にシオンが参加したことだ。
シオンは体育のテストで満点を取ることを、課題として出されている。
そのため必死になって体力を蓄えているのだが、いかんせん体が動かない。
そのため、アレクがジンとの訓練に誘ったのだ。
「シオン! 動きがだいぶよくなったな!」
「は、はい! 先生っ!」
ジンが凶悪ながらも、満面の笑みで話しかけてくる。
最初はこの笑顔を大層恐れていたシオンだったが、ジンが学園きっての面倒見の良い教師だと気づいたらしい。
シオンは褒められ、嬉しそうに破顔する。
「アレクのほうは……元々動けるからな。あとは、治癒魔法を前提とした、どこかの部位を犠牲にするような動き方をやめること」
「は、はいっ! ジン先生!」
ジンの口調も砕けてきた。
当初は君づけでアレクを呼んでいたが、今は呼び捨てである。
そのほうがアレクもしっくりくるため、訂正するような真似はしない。
「今日の朝練はここまで!」
「「ありがとうございました!」」
シオンと二人、授業を受けるために教室へ移動する。
そろそろ夏の気配を感じさせるせいなのか、動き回ったせいなのか、非常に暑い。
タオルで汗を拭いながら、アレクはシオンに声をかける。
「シオンは放課後も、ジン先生のお世話になってるんだよね」
「うん。とにかく体力つけろって、基礎メニューばっかりだよ。でも、応用もやってる」
「ジン先生は、高等部の体育の先生だからね。僕ら中等部とは内容が違うかも」
「そこは合わせてくれてるって」
「へ~」
そんな話をしながら教室のドアを開ける。
「待ちなさいライアン!! それだけは許さないわよ!!」
「もう勘弁してくれ頼む!! 俺、これを飲んで楽になりたい!!」
そこには、何かを飲もうとしているライアンと、それを押さえつけるユリーカの図が広がっていた。
「……何してるの?」
「あっ、二人共。訓練お疲れなさい」
「アレクゥ! ユリーカをどかしてくれ!」
「逆にライアン押さえるの手伝って!」
「待って待って」
状況が呑み込めず、アレクはシオンと顔を見合わせた。
一体なにが起こっているというのか。
「これ?」
「あっ」
シオンが、ライアンの手の中にある、飲み物の瓶を取り上げた。
瓶に貼られているラベルを見て、シオンは困ったように眉を八の字に曲げる。
「ライアン……これはダメだよ」
「うっ」
「でしょう?」
「それ、なんだったの?」
アレクが瓶を覗き込む。
ラベルには、『頭ヨクナール』と記載されていた。
「もしかして……」
「ドーピングの魔法薬ね」
「魔法薬? っていうのは知らないけど、これってズルなんじゃ」
「アレク君、魔法薬知らないの」
「うん」
知らない、とアレクが言ったので、シオンが前に出て説明する。
「ええと、ポーションの亜種みたいな感じ。飲んだら効き目が現れる、ドーピング剤。これ、偽物が多いから、あんまりみんな飲まないんだ」
「本物なんて、私も見たことないわ。でも……偽物かどうかわからないものを、飲ませるわけにはいかない」
「ああっ!」
ユリーカが瓶を取り上げ、そのまま鞄の中に突っ込む。
後から処分するつもりなのだろう。
ライアンはわかりやすく落ち込んだ。
「うう、俺にはテストで百点なんて無理だよ……」
「何とかなるわよ。百点が満点じゃないテストを狙えば」
「百点が、満点じゃない?」
首を傾げるアレクに、ユリーカはギョッとした。
「ひょっとして、アレク君……あんまりテストの点数気にしないの?」
「う、うん。クラス落ちする点数じゃないならいいかなって」
「まあそれも一理あるけど。一教科だけ、百五十点が満点の教科があるのよ」
「それってーー」
ガラリと教室の扉が空いた。
アリーシャが欠伸をしながら入ってくる。
「おはよーござぃまーす。ホームルームだけして戻るから、みんな席ついてー」
「……アリーシャ先生の、歴史学よ」
「ん?」
名前を出されたアリーシャが、不思議そうにこちらを見た。
アレクは相変わらず、朝からジンにしごかれていた。
そろそろ投げられるのにも慣れてきた気がする。
「アレク君、お水」
「あ、ありがとう」
変わったことといえば、訓練にシオンが参加したことだ。
シオンは体育のテストで満点を取ることを、課題として出されている。
そのため必死になって体力を蓄えているのだが、いかんせん体が動かない。
そのため、アレクがジンとの訓練に誘ったのだ。
「シオン! 動きがだいぶよくなったな!」
「は、はい! 先生っ!」
ジンが凶悪ながらも、満面の笑みで話しかけてくる。
最初はこの笑顔を大層恐れていたシオンだったが、ジンが学園きっての面倒見の良い教師だと気づいたらしい。
シオンは褒められ、嬉しそうに破顔する。
「アレクのほうは……元々動けるからな。あとは、治癒魔法を前提とした、どこかの部位を犠牲にするような動き方をやめること」
「は、はいっ! ジン先生!」
ジンの口調も砕けてきた。
当初は君づけでアレクを呼んでいたが、今は呼び捨てである。
そのほうがアレクもしっくりくるため、訂正するような真似はしない。
「今日の朝練はここまで!」
「「ありがとうございました!」」
シオンと二人、授業を受けるために教室へ移動する。
そろそろ夏の気配を感じさせるせいなのか、動き回ったせいなのか、非常に暑い。
タオルで汗を拭いながら、アレクはシオンに声をかける。
「シオンは放課後も、ジン先生のお世話になってるんだよね」
「うん。とにかく体力つけろって、基礎メニューばっかりだよ。でも、応用もやってる」
「ジン先生は、高等部の体育の先生だからね。僕ら中等部とは内容が違うかも」
「そこは合わせてくれてるって」
「へ~」
そんな話をしながら教室のドアを開ける。
「待ちなさいライアン!! それだけは許さないわよ!!」
「もう勘弁してくれ頼む!! 俺、これを飲んで楽になりたい!!」
そこには、何かを飲もうとしているライアンと、それを押さえつけるユリーカの図が広がっていた。
「……何してるの?」
「あっ、二人共。訓練お疲れなさい」
「アレクゥ! ユリーカをどかしてくれ!」
「逆にライアン押さえるの手伝って!」
「待って待って」
状況が呑み込めず、アレクはシオンと顔を見合わせた。
一体なにが起こっているというのか。
「これ?」
「あっ」
シオンが、ライアンの手の中にある、飲み物の瓶を取り上げた。
瓶に貼られているラベルを見て、シオンは困ったように眉を八の字に曲げる。
「ライアン……これはダメだよ」
「うっ」
「でしょう?」
「それ、なんだったの?」
アレクが瓶を覗き込む。
ラベルには、『頭ヨクナール』と記載されていた。
「もしかして……」
「ドーピングの魔法薬ね」
「魔法薬? っていうのは知らないけど、これってズルなんじゃ」
「アレク君、魔法薬知らないの」
「うん」
知らない、とアレクが言ったので、シオンが前に出て説明する。
「ええと、ポーションの亜種みたいな感じ。飲んだら効き目が現れる、ドーピング剤。これ、偽物が多いから、あんまりみんな飲まないんだ」
「本物なんて、私も見たことないわ。でも……偽物かどうかわからないものを、飲ませるわけにはいかない」
「ああっ!」
ユリーカが瓶を取り上げ、そのまま鞄の中に突っ込む。
後から処分するつもりなのだろう。
ライアンはわかりやすく落ち込んだ。
「うう、俺にはテストで百点なんて無理だよ……」
「何とかなるわよ。百点が満点じゃないテストを狙えば」
「百点が、満点じゃない?」
首を傾げるアレクに、ユリーカはギョッとした。
「ひょっとして、アレク君……あんまりテストの点数気にしないの?」
「う、うん。クラス落ちする点数じゃないならいいかなって」
「まあそれも一理あるけど。一教科だけ、百五十点が満点の教科があるのよ」
「それってーー」
ガラリと教室の扉が空いた。
アリーシャが欠伸をしながら入ってくる。
「おはよーござぃまーす。ホームルームだけして戻るから、みんな席ついてー」
「……アリーシャ先生の、歴史学よ」
「ん?」
名前を出されたアリーシャが、不思議そうにこちらを見た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。