210 / 227
留年回避編
第百四話 チケットばら撒く大富豪
しおりを挟む
ユリーカが戻ってくるしばらくの間、アレクはメノウと二人きりである。
メノウはアレクに大量の質問を浴びせた。
「その羽って本物なのか?」
「なっ、なわけないじゃん。作り物だよ。よくできてるでしょ」
アレクの雑な誤魔化しにも、特に引っかかることはない。
メノウは優しげに笑うと、アレクに向かって手を伸ばす。
「よく似合ってるけど、ハリボテはやはり違うな」
「……そういうものなの?」
「ああ。これが本物だったらよかったのに」
メノウはそっと羽を触る。
されるがままにしていると、メノウが再び口を開いた。
「お前の兄と姉はどうした」
「思ってたけど、やっぱり僕のこと知ってたんだね」
「当たり前だ。あれだけ目立っていればな」
目立つ。
一体どこのことを指しているのだろうか。
メノウは顔を上げると、その橙色の目を細めた。
「俺がいる財閥、どこにあるか知ってるか?」
「そもそも財閥がよくわからないって言うか」
「天下のマラカイト財閥だぞ? そっちで言うところの、そうだな。マウロス商会みたいな立ち位置だ」
「マウロス商会」
その名前は流石に知っている。
アレクの委員会の先輩である、レベッカことベッキーがマウロス商会の令嬢であるからだ。
よく皆が凄い凄いと持て囃す商会であるらしいが、アレクにはピンとこない。
「へー、凄いんだね」
「思ってないだろう。まあいい。お前に会うことが今日の目的だから、態度は気にしないさ」
偉そうに踏ん反り返ると、メノウは続けた。
「俺達のマラカイト財閥は、南のグラフィールに位置する財閥だ。最近は諸事情で、アルスフォードまで引っ越したがな。ディラン王を片付けたのはお前だろう?」
「何で知ってるの!?」
グラフィール王国。
今はアレクの妹となっている、スミレが元々いた王国の名前である。
四大大国の一つであり、その王国のかつての王、ディランを退位させたのは、間接的にもアレクであった。
今のグラフィールの王であるエヴァンが、アレク達の存在については、緘口令を敷いていたはずだ。
「俺はお前達が王宮にやって来た時、その場に居合わせた者の一人だ。商談のために王宮にいてな。その際に知った」
「そこにいたんだ」
「現地の兵士には、お前はまるで神のように見えていたらしい。きっと王に天罰を下しに来たのだろうと……滑稽だな。忘れてくれ」
その時、ユリーカが裏口から戻って来た。
とんでもない量のチケットを抱え、どこか複雑な表情を浮かべている。
「これ、二千枚分。……金貨二百枚」
「き、金貨二百枚!?」
その値段にアレクはギョッとした。
そうそう得られない金額だ。
莫大すぎるそれに、アレクは恐る恐るメノウのほうを向く。
「ああ、金貨二百枚だな。妥当な値段だ」
「ユリーカ、そもそもそれ、お金かかったの……?」
「ええ。一枚あたり銀貨一枚。アレク君達は友達だし、特別にお金取らなかったの。学園長先生から許可はもらってるわ」
ユリーカはメノウを仰ぎ見る。
総じて余裕そうな彼に、呆れ半分尊敬半分といった眼差しを向けていた。
「流石マラカイト財閥ね」
「もちろんだ。世界有数の財閥を舐めるなよ。ほら、これ」
「小切手ね」
手早く書いた小切手を、半ば押し付けるような形でユリーカに渡す。
ユリーカはそれを受け取り、何度かジロジロと眺めた。
「収納」
スキルだろうか。
メノウがそう呟いた瞬間、二千枚のチケットは跡形もなく消えてしまった。
「それでは失礼する。今日はお忍びだったからな」
「ありがとうございましたー」
棒読みでユリーカが返事をした。
それに構うことなく、メノウはアレクのほうを見る。
「アレクよ。このメノウの名を、どうか覚えていてくれ。いつかまた、垣間見える」
「う、うん……」
「それでは」
そのままメノウは去っていった。
アレクはユリーカと顔を見合わせ、呆然としたまま口を開く。
「解決、したね?」
「こんなラッキーそうそう起こらないわよ。アレク君に感謝ね」
「僕、何もしてないんだけどなぁ」
にしても、どこか見覚えのある顔をしていた。
どこで会ったのかは、思い出せない。
「メノウ……何者なんだろ」
◆ ◆ ◆
「メノウ坊ちゃま! 勝手に離れられては困ります!」
「まぁまぁ構うな、じぃ。ちょっと挨拶してきただけだ」
「挨拶……? どちらへ?」
「俺の天使へ、な」
ほらこれ、と、メノウはじぃ、と呼んだ老人に、紙切れを手渡す。
それを受け取った老人は、ギョッと目を剥いた。
「き、金貨二百枚お支払いになったので!?」
「ああ」
「そんな……! なにに使ったのですか! 無駄遣いは彼の方に叱られます!」
「心配するな。彼の方もわかってくださる。あと、信者を二千人集めろ」
「はぁ……」
メノウは目を細めて、愉悦極まりないといった表情を浮かべる。
「姉貴だけあいつに会うのは、ずるかったからな。これでチャラだ」
「……お嬢様のことですか?」
「ああ。しばらく会ってないが、あれでも姉だ」
メノウはアレクに大量の質問を浴びせた。
「その羽って本物なのか?」
「なっ、なわけないじゃん。作り物だよ。よくできてるでしょ」
アレクの雑な誤魔化しにも、特に引っかかることはない。
メノウは優しげに笑うと、アレクに向かって手を伸ばす。
「よく似合ってるけど、ハリボテはやはり違うな」
「……そういうものなの?」
「ああ。これが本物だったらよかったのに」
メノウはそっと羽を触る。
されるがままにしていると、メノウが再び口を開いた。
「お前の兄と姉はどうした」
「思ってたけど、やっぱり僕のこと知ってたんだね」
「当たり前だ。あれだけ目立っていればな」
目立つ。
一体どこのことを指しているのだろうか。
メノウは顔を上げると、その橙色の目を細めた。
「俺がいる財閥、どこにあるか知ってるか?」
「そもそも財閥がよくわからないって言うか」
「天下のマラカイト財閥だぞ? そっちで言うところの、そうだな。マウロス商会みたいな立ち位置だ」
「マウロス商会」
その名前は流石に知っている。
アレクの委員会の先輩である、レベッカことベッキーがマウロス商会の令嬢であるからだ。
よく皆が凄い凄いと持て囃す商会であるらしいが、アレクにはピンとこない。
「へー、凄いんだね」
「思ってないだろう。まあいい。お前に会うことが今日の目的だから、態度は気にしないさ」
偉そうに踏ん反り返ると、メノウは続けた。
「俺達のマラカイト財閥は、南のグラフィールに位置する財閥だ。最近は諸事情で、アルスフォードまで引っ越したがな。ディラン王を片付けたのはお前だろう?」
「何で知ってるの!?」
グラフィール王国。
今はアレクの妹となっている、スミレが元々いた王国の名前である。
四大大国の一つであり、その王国のかつての王、ディランを退位させたのは、間接的にもアレクであった。
今のグラフィールの王であるエヴァンが、アレク達の存在については、緘口令を敷いていたはずだ。
「俺はお前達が王宮にやって来た時、その場に居合わせた者の一人だ。商談のために王宮にいてな。その際に知った」
「そこにいたんだ」
「現地の兵士には、お前はまるで神のように見えていたらしい。きっと王に天罰を下しに来たのだろうと……滑稽だな。忘れてくれ」
その時、ユリーカが裏口から戻って来た。
とんでもない量のチケットを抱え、どこか複雑な表情を浮かべている。
「これ、二千枚分。……金貨二百枚」
「き、金貨二百枚!?」
その値段にアレクはギョッとした。
そうそう得られない金額だ。
莫大すぎるそれに、アレクは恐る恐るメノウのほうを向く。
「ああ、金貨二百枚だな。妥当な値段だ」
「ユリーカ、そもそもそれ、お金かかったの……?」
「ええ。一枚あたり銀貨一枚。アレク君達は友達だし、特別にお金取らなかったの。学園長先生から許可はもらってるわ」
ユリーカはメノウを仰ぎ見る。
総じて余裕そうな彼に、呆れ半分尊敬半分といった眼差しを向けていた。
「流石マラカイト財閥ね」
「もちろんだ。世界有数の財閥を舐めるなよ。ほら、これ」
「小切手ね」
手早く書いた小切手を、半ば押し付けるような形でユリーカに渡す。
ユリーカはそれを受け取り、何度かジロジロと眺めた。
「収納」
スキルだろうか。
メノウがそう呟いた瞬間、二千枚のチケットは跡形もなく消えてしまった。
「それでは失礼する。今日はお忍びだったからな」
「ありがとうございましたー」
棒読みでユリーカが返事をした。
それに構うことなく、メノウはアレクのほうを見る。
「アレクよ。このメノウの名を、どうか覚えていてくれ。いつかまた、垣間見える」
「う、うん……」
「それでは」
そのままメノウは去っていった。
アレクはユリーカと顔を見合わせ、呆然としたまま口を開く。
「解決、したね?」
「こんなラッキーそうそう起こらないわよ。アレク君に感謝ね」
「僕、何もしてないんだけどなぁ」
にしても、どこか見覚えのある顔をしていた。
どこで会ったのかは、思い出せない。
「メノウ……何者なんだろ」
◆ ◆ ◆
「メノウ坊ちゃま! 勝手に離れられては困ります!」
「まぁまぁ構うな、じぃ。ちょっと挨拶してきただけだ」
「挨拶……? どちらへ?」
「俺の天使へ、な」
ほらこれ、と、メノウはじぃ、と呼んだ老人に、紙切れを手渡す。
それを受け取った老人は、ギョッと目を剥いた。
「き、金貨二百枚お支払いになったので!?」
「ああ」
「そんな……! なにに使ったのですか! 無駄遣いは彼の方に叱られます!」
「心配するな。彼の方もわかってくださる。あと、信者を二千人集めろ」
「はぁ……」
メノウは目を細めて、愉悦極まりないといった表情を浮かべる。
「姉貴だけあいつに会うのは、ずるかったからな。これでチャラだ」
「……お嬢様のことですか?」
「ああ。しばらく会ってないが、あれでも姉だ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。