追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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留年回避編

第百六話 ボーナスステージ

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歴史学。
主に学ぶ分野が二つに別れ、その分テストがある、特殊な教科。
自国のことを学ぶトリティカーナ史と、それ以外のことを学ぶ世界史。
テストは百五十点満点であるものの、クラス落ちの基準は他の教科と変わらない。
故に、生徒達からは「ボーナスステージ」「イージーゲーム」「救済措置」とまで言われていた。
ーーアリーシャが担当になるまで。

「ほほーん、ライアン君は、歴史学で百点取りたいわけだ」
「なんとかお願いしますっス!」

放課後、ライアンと二人、アリーシャの前に並ぶ。
アレクは教師の雑用係ではあるが、ライアンを放っておくことができないと判断した。
ちなみにこの後、他の先生から言いつけられた、書類纏めの雑用が残っている。
ライアンはもう必死になって頭を下げた。
その必死さに、後日詳細を聞いた双子が憐れむレベルである。
人の心があるのか、とまで言われていた双子の心を動かしたライアンは、生徒会でちょっとした噂となるのだがーーそれはまた別の話。

「歴史学も舐められたもんだねぇ。ライアンく~~ん」

(うわぁ)

露骨にアレクは顔を歪めた。
これはちょっとばかりウザい。
アリーシャはしたり顔で、そのボサボサの頭を掻き分けた。

「私はさ、これでも歴史学の教師なわけよ。赤点出したくないし、やさし~く作ってきたわけ。これ以上テストを簡単にはできないなぁ~」
「そ、そんな……しかも、あれで優しいんスか!?」

これにはアレクも驚いた。
数ある教科の中でも、歴史学は少しクセがあるとアレクは感じていた。
独特の感性を持つアリーシャが作ったからなのかはわからないが、点数の取りづらさが伝わってくる。
正直、地道に他の教科を勉強したほうが早いだろう。
しかしそれはアレクだからであって、ライアンとなると話は別だ。
本人曰く「文字が並んでいるのを見ると眠くなる」。
これは小説の一ページ目で寝落ちるライアンの言葉である。
もちろん、国語のテストなど毎回補習。
補習に敵わなかった生徒はBクラスに落とされるのだが、それを間一髪で潜り抜けてきた。
そんなライアンだが、百点となると頭を抱える羽目になったらしい。

「ど、どうにか、どうにかお願いしますっス……! 俺、これが叶わなかったら、留年なんスよ!」
「それは知ってるって。んも~~、しょうがないな」
「!」

アリーシャの対応に、ライアンが目を輝かせて顔を上げた。
そんなライアンに、アリーシャは優しく笑いかける。

「今日から放課後居残りね」
「え?」
「私が担任として、ちゃーんと責任持って面倒見てあげる」
「……え?」
「じゃ、そういうことで」

ポン、とライアンの肩に、アリーシャの手が乗った。
しばらく呆然とするライアンに、アレクは気遣って声をかける。

「その……よかったじゃん? 多分なんとかなるよ」
「う……」
「ライアン?」
「嘘だろ……」

彼は自他ともに認める勉強嫌いであった。
ワナワナと震えたかと思うと、そのまま後ろに向かって倒れる。

「らっ、ライアーーーーン!!」
「もう無理だ……助けてくれ……」
「大丈夫だって! これを耐えれば留年回避だから!」
「死ぬ……」
「ライアーーーーン!!」

しかしここで、アレクに雑用の声がかかる。
ライアンがテストで百点を取らなくてはならないのと同じように、アレクも雑用をこなさねば留年である。

「ごっ、ごめんライアン。もう僕行くから」
「見捨てるのかよアレク!」
「見捨てるもなにも」

泣いて縋り付くライアンを置いて、アレクはそのまま雑用に向かう。
どうかライアンには、頑張ってもらうことを祈ることしかできない。

「アレク君、お願いしても?」
「はい! なんでしょう!」
「これ、今日中にお願いね」

山のように置かれた書類に、アレクも思わず眩暈がした。
これを今日中に捌けなど、鬼の言うことである。

「じゃ、よろしく」

英雄学園の教師は、例外なく鬼の一面を持ち合わせていた。
か細い声でアレクは「はい……」と鳴いた。

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