【完結】売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と期限付き契約を交わす

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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3.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師の友人に紹介される

3-3.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師の友人に紹介される

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その後カリタスの服は、素材として問題ないとディコラルタさんに判断された。
次はどのような意匠にするか、生地や図案を眺めながら三人で相談する。

「それでリベラちゃんは、どんな服がいいの? 好きな色も教えて頂戴」
「可能なら、露出の少ない服を頼む。肌を出しているのは不安だろうから」

だがディコラルタさんの質問を、俺が答える前にカリタスが遮ってしまった。
正直異論はなかったが、ディコラルタさんは強い不快感を示している。

「カリタス、一旦黙って頂戴。今はこの子に聞いてるの、心配なのは分かるけど」
「そうだな、済まない。リベラが望む通りにしてくれ」

叱られたカリタスは縮こまって口を閉ざし、改めてディコラルタさんが向き直る。
けれど自分の外見に興味などなかったから、俺も返答に困ってしまった。

「肌は出来る限り出なくて、……赤が良いです、深い色味が良いかも」
「あら、赤が好きなの? 素敵ね、けど目立っちゃうのは大丈夫?」

だから今の生活から必要要件を抽出して、拙くディコラルタさんに伝えていく。
しかし話を進めていくほど、彼の表情が不安げに曇ってしまった。

「それ、は「早速口を挟んで悪いが、多分リベラは出血による汚れを恐れている」」

遂に口籠ってしまった俺を見かねて、黙っていたカリタスが再び割り込んでくる。
しかし今度はディコラルタさんも邪険にせず、難しい顔で額に手を当てていた。

「……その選び方だと、肯定し辛いわね。前言撤回になって申し訳ないけど」
「血など魔法で洗浄できるが、どうもリベラが気に病むみたいでな」

ディコラルタさんは俺の心情を考慮しながらも、選択基準には納得していない。
だが再び顔を上げた時には迷いを振り切り、強い決意に瞳を燃やしていた。

「決めたわ。一度、アタシの好きに作らせて頂戴。悪いようにはしないから」
「分、かりました。でもお金払うの俺じゃないから、安く作って欲しいです」

勢いに押されながらも俺は条件を伝えるが、今度はカリタスに抑え込まれる。
彼は懐から金貨の詰まった袋を取り出し、ディコラルタさんに譲渡していた。

「価格は気にするな、お前が一番良いと思う服を作ってくれ」
「了解したわ! じゃあ明日、取りに来て頂戴!」

結局交渉の場において出資者の発言は強く、製作者も頷いてしまえば話は終わりだ。
猛烈な速度で図案を描き込んだ後、ディコラルタさんは作業場に消えていく。

「俺、そこまで価値があるものを返せないよ。カリタス」
「私の元に、留まると言ってくれた。それで十分だ」

取り残された俺とカリタスは顔を見合わせるが、彼は優しく微笑むだけだった。
ただ以前よりも距離が近く感じられて、気恥ずかしさで目を逸らしてしまう。

……段々と俺の方が、絆されている気がしてならない。



翌日工房に訪れると、婚礼衣装に見紛う仕上がりの服が飾られていた。
横ではやつれたディコラルタさんが、誇らしげに胸を張っている。

(すごい、真っ白でドレスみたいだ)

俺が圧倒されながら眺めていると、カリタスも感嘆したように目を見開いていた。
執念によって縫い上げられたのが素人でも分かる、芸術とも称されそうな逸品。

「お前の趣味は知っていたが、また随分と飾り付けたな。フリルとリボンだらけだ」
「手の込んだ服を着れば、大事にされているのが分かるもの。実用性も兼ねてるわ」

そんな素晴らしい衣装も、ディコラルタさんによって服掛けから取り外される。
俺は気後れを感じながら袖を通し、促されるまま鏡の前に立ってみた。

「でもリベラちゃん、動き辛かったら言うのよ? 着心地悪いと嫌になるから」
「それは大丈夫なんですけど、首元が結構空いてるんですね」

体質変化によって性別感がなくなった姿は、美しい衣装に違和感なく溶け込んだ。
しかし肩周りは大きく開いていて、下品ではないが露出具合が気になってしまう。

――だがそれは単なる意匠の関係ではなく、俺の守護を優先した結果らしい。

「羽根を出すのと、首輪を見せる為だな。それは保護関係の周知も兼ねている」

カリタスの言う通り魔力で刻まれる痕は、従魔の所有者が誰であるかも表していた。
首輪は隷属の証だが、同時に主人の力が強いほど後ろ盾としても強力に機能する。

そして調整の為に部屋を歩くと、ディコラルタさんが感極まった様子で手を叩いた。

「それはそれとして、本っ当に可愛いわ! アタシ達じゃ、これは着れないもの!」

けれど降り注ぐ掛け値なしの賞賛に、俺はうまく言葉を返すことができなかった。
だって淫魔の体質に、元の姿を奪われていると改めて理解してしまったから。

(……あぁ。俺、本当にそういう生き物になっちゃったんだな)

背が縮み、瞳が大きくなり、碌に抵抗できない少女のような容貌に変質していく。
だが良くない妄想に沈みかけた俺を、カリタスが横から引き戻してくれた。

「ディコラルタ、その手の発言は避けてくれ。私が言えたことじゃないんだが」
「っそうね、ごめんなさい。望んで変わった姿じゃないんだものね」

言葉の影響に気づいたディコラルタさんも口元を押さえ、慌てて頭を下げてくる。
けど誰も悪い事なんかしてないし、俺が過剰反応してしまっただけだ。

「ううん、大丈夫。俺がちょっと神経質になってるだけだから気にしないで」
「いいえ、アタシが無神経だった。でもこれだけは信じて頂戴」

しかしディコラルタさんは本気で反省し、俺の前に膝を着いて目を合わせてくる。
そして失言の取り繕いではなく、一夜を捧げた服飾の意図について語り出した。

「この服は、アナタを守る為に作られたの。誰にも傷つけさせない為に」

生地に紋様が縫われているが、それは防御魔術を構成しているのだと説明される。
服自体の意匠にも意味が全てあり、可能な限りの守りが施されているのだとも。

「服が純白なのも、私が信頼できなくなったら分かるようにか」
「えぇ。隠していたら、いつまで経っても信頼関係を築けないもの」

それは主人であろうと例外なく、加害を許さない作り手の趣向でもあった。
カリタスも気分を損ねることなく、その仕様を受け入れている。

「アンタはこの服を血染めにするんじゃないわよ、カリタス。血は拭えても、なかったことにはならないんだから」

最後にディコラルタさんが釘を刺し、試着会は幕を閉じる。
替えの服も包まれ、渡された袋を俺は大切に抱き締めた。



ディコラルタさんに今後の服も任せることを約束し、俺とカリタスは帰路につく。
膨大な服作りを頼んでしまったが、彼の表情は輝きを増していた。

「じゃあ二人とも、いつでもいらっしゃいね。別の服も着てくれると嬉しいわ!」
「あ、ありがとうございました。その時は、よろしくお願いします」

別れ際も挨拶はそこそこに、張り切る服飾師は作業場に戻っていく。
その背中を、カリタスは頼もしげな瞳で見届けていた。

「ディコラルタは理解できないが、信頼はできる奴だ。いざとなったら頼ってくれ」
「顔合わせも兼ねて、連れてきてくれたんだ。でも今は大丈夫だよ」

そう言うと俺は自ら腕を伸ばし、カリタスが抱えやすいように体勢を整える。
今までは促されるまで待っていたが、僅かでも信頼を伝えたかったから。

「俺を大事にしてくれてるのが、最近分かってきたから。本当にありがとう」

そして脱力するようにもたれ掛かると、カリタスも僅かに力を込めて距離を埋める。
元々壊れ物を扱うように抱かれているから、外見的には大した変化じゃない。

でも互いに手探りだった頃からは、想像もできないほどの進歩だった。

(けどこれ以上、カリタスの献身にどうやって報いればいいんだろう)

ただの愛玩動物ならば、主人に親愛表現で応えるだけで充分だろう。
けど俺は従魔として契約し、望まれた役目を果たす義務がある。

(期待に応えられなかった時のことを考えると、ずっと怖い)

与えられる優しさは契約の為であり、それに相応しくないと判断されたら。
想像だけで体が強張り、カリタスの服を強く握り締めてしまった。
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