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4.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と授業に参加する
4-1.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と授業に参加する
しおりを挟む目覚めた時に鏡を覗く習慣が増え、外見の変化を意識する事が多くなる。
淫魔の容姿は大層整っているが、どうしても元の姿が恋しかった。
(後天性サキュバスの姿は、正直可愛い。毎日鏡を見ても感想は変わらない)
繊細に揺れる髪、零れそうに潤んだ瞳、そして瑞々しい肌に薄く輝く唇。
細い体は少女性に溢れた服に包まれ、男の理想を体現した姿に成り果てている。
(これが俺でさえなければ、無邪気に見惚れられたのに)
暗い表情をしても、愛らしさが先行する容貌にうんざりする。
だが背後から近づく音が聞こえ、無理やり平静を装った。
「今日の授業は参加を見送ろう、リベラ。顔が真っ青だ」
「大丈夫だよ。今日の為に色々してもらってきたんだから」
部屋の外に出る準備が整い、遂に契約の対価を支払う時がきた。
どんなに恐ろしくても、もう俺に選択肢は存在しない。
「そんな負担に思わなくて良い。機会はまたあるし、精神的な余裕がある時に」
「俺を待ってたら、ずっと出席できないよ。それに貰いっぱなしも辛いんだ」
衣装の中に隠した手は震えているけど、それを盾にする気はない。
この機会を逃せば、より立場が不安定になると分かり切っているから。
「……無理そうだったら、すぐに言ってくれ」
カリタスも最終的には折れてくれたが、彼の方が不安げに表情を曇らせている。
いつもより深く俺を抱き上げ、躊躇しながらも教室へと歩き出していった。
生徒たちが闊歩する廊下で、俺たちは異様な注目を浴びせられる。
遠巻きに噂話もしているが、好意的な内容など存在しない。
『カリタスが異世界の半淫魔と契約したという噂は、本当だったのか』
『しかし人形というか、まるで子供だな。色気の欠片もない』
『だが誑かす力は本物のようだ、大切に抱きかかえられている』
不躾な視線と言葉に晒され、俺はただ俯いていることしかできなかった。
しかしカリタスは俺を守るように、より深く胸に抱え込んでくれる。
「私の上着を被って、姿を隠すか。リベラ」
「平気、分かってたことだから」
敵意に晒される覚悟はしていたし、この程度の視線は耐えられる。
それに本当の問題は廊下ではなく、教室の中にあるのだと知っていたから。
魔物学科の教室に足を踏み入れると、様々な形状の瞳が俺たちに向けられる。
翼を持つ竜から、魔力を振りまく妖精、元素を纏う幻想生物。
(教室の中、魔物だらけだ。主人である人間もあるけれど)
調教師の卵である生徒たちも、教室に入ってきた俺たちに注目している。
そのせいで室内自体は広いのに、精神的な圧迫感を感じさせていた。
(円形型の教室で、中央に教卓がある。でもそれを退かせば、戦う場所ができる)
座学と戦闘訓練を一度に行うた都合上、教卓の周囲は大きく空けられている。
また必要時以外の魔物同士の接触を避ける為、机も離れて設置されていた。
「リベラ、後ろの席に行こう。授業が始まってしまえば、注目も散るだろう」
カリタスも負けじと睨み返しているが、数が多すぎてキリがない。
だから提案通り、二人で後ろの席に身を潜めようと考えたが。
「待ってカリタス、そろそろ降ろして。俺、自分で歩けるよ」
「確かに、子供扱いに見えてしまうか。では、――っ」
頼みに頷いたカリタスは、抱えていた俺を降ろそうと姿勢を屈ませる。
だが教室の床に着地する前に、何かが足に絡みつこうとしてきた。
(犬みたいな魔物が、飛びついてきた。小さいけど怖い!)
姿は小型犬のように愛くるしい魔法生物だが、外見だけで危険性は測れない。
俺は飛び上がってカリタスの腕の中に戻り、魔物の主人もすぐに走ってくる。
「すいません! すぐ向こうに連れていくんで! 本当にごめんなさい!」
(なんだ、じゃれついてきただけか。でも心臓が鳴り止まない)
許しを請いながら離れる姿を見るに、悪意は一切なかったのだと思う。
けれど俺は過剰に膨れ上がった警戒心を、宥めることができなかった。
「やはり、抱えたままでいいだろうか。いざという時に、守れるようにしたい」
「……ごめん、俺からもお願い。しばらくはこっちの方が良い」
俺を高く抱き上げたカリタスも、まだ庇護下に置くべきだと思い直したらしい。
結局カリタスに縋りついたまま、授業の始まりを待つ羽目になってしまった。
教師が入室してからは騒音も収まり、席につく主人に従って魔物も大人しくなる。
だが俺の心臓は静まらず、むしろ時間が経つにつれて酷くなっていった。
(実技が気になって、先生の話が入ってこない。俺、生きて帰ってこれるのかな)
今は服従魔法を語る教師の声しか届かないが、模擬戦が始まれば教室は戦場と化す。
俺には武器になる物が存在しないどころか、逃げる方法すら思いつかないのに。
『ではこれより、戦闘訓練に移る。希望者から前へ』
「っ」
教師の言葉で心臓が一際強く鳴るが、服ごと手で押さえつけて黙らせる。
カリタスも心配そうではあったが、俺の意思を尊重して立ち上がってくれた。
「リベラ、手早く終わらせる。君は立ってさえいてくれたら、それでいい」
「…… 大丈夫、それくらいはできる。それしか、できないし」
魔法で教卓が片づけられ、教室の中央には何も置かれていない空間が出来上がる。
そこに俺は降ろされ、守るようにカリタスの上着を肩に掛けられた。
「君には、傷一つさえ許「オイオイ、随分な自信じゃねぇか! カリタスよぉ!」」
(あ、あの人、俺をサキュバスにした人だ。俺を、売ろうとした)
そして現れたのは俺を異世界に引きずり込み、挙句淫魔にした張本人だった。
長い髪から覗く眼光は、未だ忘れられない悪辣さを帯びている。
「とっくに使われて、捨てられてると思ったが。まだ手元に置かれてんのか」
(まずい、息が苦しい。手も震えてきた)
後天性サキュバスとなった姿を眺められ、競売場での悪夢が蘇ってくる。
だが即座にカリタスが立ち塞がり、俺の視界は隠された。
「カワイー服も着せられちまって、よっぽど好き者「ヴァントス、壇上に来い。そこで私が話を聞いてやる」」
カリタスの冷たい声で下卑た冗談は止まり、代わりに鋭い舌打ちが返される。
しかし完全にやめる気はなかったのか、向かい合うと再び煽り出してきた。
「はっ、簡単に挑発に乗ったな。サキュバスの魅力ってのは存外強力なのか」
「この子はまだ、魅了の力に目覚めていない。タチの悪い誤認だ」
カリタスは腰から短鞭を取り出しながら、軽蔑を込めて言い返す。
教師も準備が整ったと判断し、戦闘開始の鐘が打ち鳴らされた。
「だがお前は理解した上で、嘲っているのだろう。ならば対話ではなく、沈黙をくれてやる」
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