【完結】売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と期限付き契約を交わす

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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8.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師への姿を選択する

8-5.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師への姿を選択する

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「立ち入り禁止区域なら、すぐに邪魔は入らねぇだろ。んじゃ、足を開けよ」
「嫌がらせの為だけに、俺を番にするの。好みでもなんでもないのに」

硬く冷たい床に押し倒され、ヴァントスは覆い被さるように迫ってきた。
だが性的な熱は持たず、探るような目つきで俺を見下ろしている。

「魔物を操る力もあんだろ。お前を支配する方が、服従魔法を習得するより早ぇ」

俺に拘束道具としての価値を見出した彼は、手篭めにしようと触れてきた。
それも魔法での契約上書きではなく、淫魔の本能を手懐ける形で。

(一度押し倒されると、力じゃ絶対勝てない。なら魅了で、主導権を奪うしかない)

元々淫魔は強い主人に擦り寄るのが本能だから、組み敷かれれば服従欲が顔を出す。
だから俺が虜になる前に、彼の方を支配下に置かなければならないが。

「はっ、生意気に誘惑しやがって。自傷行為にしかならねぇけどな!」
(ヴァントスの言う通りだ。けど俺にできるのは、色仕掛けしかない)

上体を起こして自ら擦り寄り、ヴァントスの肩に顔を埋める。
そして密着した体勢からフェロモンを浴びせ、優位に立とうと試みた。

(あれだけ凌辱に怯えてたのに、望んで武器にしてる。もう後戻りはできないな)

俺に与えられたのは誘惑する力だけで、結局抗う術は得られなかった。
それどころか体を対価にしても、望む結果が掴めるか分からない。

――けれど結果が出る直前で、ヴァントスが体を引き離す。

「クソ、もう追いつきやがった! 楽しむ時間くらい寄越しやがれ!」
「許すわけないだろう、そんなこと。そこを退け、ヴァントス」

カリタスは魔力が荒れ狂わせながら、部屋の扉を潜り抜けてくる。
吊り下げられた時計塔の鐘も揺れ、凄まじい音が鳴り響いていた。

「仕方ねぇ、一騎打ちでもするか? テメェだって、復讐の芽は摘みてぇだろ!」
「私は、お前に恨みなどない。それに今は戦う気もない」

孤軍奮闘したカリタスは限界まで消耗し、立っているのが不思議な有様だった。
だが表情に諦めはなく、纏う魔力も未だ部屋を軋ませている。

「……テメェ、諦めた訳じゃねぇな。それなら追いつく理由がねぇし」
「力を取り戻したお前に、単騎で適う奴はいない。だから私も魔道具を行使した」
 
鐘の音は更に大きくなり、その表面で尋常ならざる魔力が生成されていた。
それは揺れる事で、与えられた魔力を増幅する魔道具だったらしい。

(いつのまにか、時計の針が動いてる。でもこれ、逆回転してるんじゃ)

鐘に繋がった時計盤も起動し、眠っていた塔の仕掛けが目を覚ます。
起動したのは周囲の時間を遡らせる、奇跡に近い大魔術だった。

「チッ、時間操作魔術を起動しやがったな!? 傷の回復が目的か?」
「いや、これは元々対魔物魔術だ。治療も不老不死も、その副産物に過ぎない」

確かにカリタスの怪我は消失するが、俺やヴァントスにも同じ現象が発生している。
だが効果が現れたのは傷だけではなく、体質にまで及んでいた。

(ヴァントスと俺の姿が、人間に戻っていく。肉体の時間が、巻き戻されてるんだ)

ヴァントスが覚醒したのは少し前だから、僅かでも過去に戻れば力を失う。
解決方法は魔道具の破壊だが、彼は能力発現前の姿に戻ってしまっていた。

「長らく放置されていたが、お前が祝祭で復元させた。今なら私でも相手になるな」
「卑怯だぞテメェ! 強さで競り合えよ、過去の遺物なんか使いやがって!」

以前ここは貴族の館だったから、その血筋のカリタスは時計塔の力を知っていた。
だが本人も負の遺産など使いたくなかっただろうに、躊躇なく発動させたのは。

「残念ながら、私は聖人ではない。リベラを取り返しに来た、ただの男だ」

口に残った血を吐き出しながら、カリタスは口角を上げて笑ってみせる。
そして手詰まりになったヴァントスは、壁際まで追い詰められていくが。

「まぁいい。こちとら弱ぇ人間になってから、使えるモンは何だって使ってきた!」
(ヴァントスが壁に手をついて、時計塔全体に魔力を張り巡らせてる)

元が古かった時計塔は若返ってもひび割れ、今にも崩れそうな姿を晒している。
そして鐘を支える柱が、大きな悲鳴を上げた。

「伏せろリベラ、時計塔が崩壊する! 自身諸共、巻き添えにするつもりだ!」
「いつだって、何も叶いやしねぇ! なら全部、ブッ壊れろ!」

最後の力を振り絞ったヴァントスの魔力が、時計塔全体に波及していく。
力が不完全だったから崩壊は免れたが、代わりに落下物が俺達を襲ってきた。

(カリタスが俺を庇って、落下した鐘に直撃した。しかもヴァントスが走ってくる)

支柱が砕けて鐘が弾け飛んだ先には、乱れた服に纏わりつかれた俺がいた。
そして魔法も使う事が出来ない時間の中で、彼が選んだ手段は自己犠牲。

(カリタスに壁際へ投げられたから、俺は無事だ。けど)

砂埃の中に俺を逃がした代わりに、カリタスは足を潰され動けなくなってしまった。
そんな好機を見逃すはずもなく、ヴァントスが倒れ込んだ彼に襲い掛かる。

「《這いつ「昔みてぇに、その綺麗な顔に一撃入れてやる! もう逃げんなよ!」」
(まずい。罪悪感を利用して、逃げ場を塞いできた!)

見殺しにした過去に追いつかれたカリタスは、遂に逃げ切る事ができなかった。
呪文は負い目によって遮られ、無抵抗に殴られて気を失ってしまう。

だが追撃を狙う腕は途中で止まり、不意に彼を撫で上げた。

「そうだ、次はコイツの体に乗り移るか。そうすれば全部、手に入るしな」
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