【完結】売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師と期限付き契約を交わす

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)

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8.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師への姿を選択する

8-6.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師への姿を選択する

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瓦礫を食らったヴァントスは四肢が折れたが故の、不自然な動きで躙り寄ってくる。
しかし目は不気味な程に輝き、倒れ伏したカリタスを捉えていた。

「肉体的な強さも、服従魔法も、全部俺のもんだ。もう小難しく考える必要もねぇ」

既に彼の肉体は、元通りになるとは思えない程の致命傷を負っている。
だがカリタスの体に乗り替えれば、全てが解決してしまうだろう。

「今までは憎たらしくて仕方なかったが、極上の素材だな。何もかも、揃ってやが」

しかし理想の体に奪われた目は、突如痛みで大きく見開かれる。
振り返ったヴァントスが見たのは、背後に立つ少年の姿だった。

「……誰だ、テメェ。どこに隠れてやがった、いや、見覚えがあるな」
「ずっと、ここにいたよ。姿は、リベラになる前のものだけど」

折れた角を突き刺す俺は、人形の美しさも可愛さも持たない平凡な姿だった。
代わりに男としての力を取り戻し、奇襲することにも成功している。

(時計塔の魔術は、俺の体も巻き戻した。まだ後天性サキュバスじゃない頃の姿に)

巻き戻された時間は、ちょうど俺が異世界に喚ばれた直後だった。
だが持ち物はまだ手元に残り、戦う力になってくれる。

「生意気に杖なんか構えてやがるが、テメェの体質じゃ「魔道具なら問題ないって、誰より知ってるでしょ」」

結局俺は魔法の才能に恵まれず、最終的に習得を放棄してしまっていた。
だがカリタスが代案を考え、事前に幾つかの魔道具を与えてくれた。

(暗い時計塔の中で、不意の光は攻撃になる。あとは大窓から、放り出すだけだ)

灯火の魔道具に目を焼かれたヴァントスは、俺相手でも勝てないほど弱っていた。
衣服を乱暴に掴まれ、自由の効かない体を引き摺られていく。

ただ俺自身の力も強くはないから、完全に勝利することも不可能だった。

「……言っておくが、テメェも引きずり落としてやるからな。無事で済むと思うな」
「分かってるよ、最初からそのつもり。でもカリタスが奪われるよりずっと良い」

俺が手に入れられる最良の結末は相打ちで、幸せな末路など用意されていない。
だから誰にも引き留められず、俺達の体は窓枠から放り出されていく。

(一緒くたに、魔物の海に落ちていく。俺の、時計塔の魔術も解けていく)

道連れを目論んでいた腕が離れ、影が二つに分かれていく。
鋭い風音を聞きながら、俺達の体は地面に近づいていた。

(体に後天性サキュバスの因子は残ってる、けど元の姿には戻れない)

クピド先生が言ったように、淫魔の残滓は体の細部まで侵食していた。
完全に取り除くことは不可能で、半端な防御本能が変化を促してくるが。

(痛い、痛い、防衛本能が、暴走している。人外へと変貌していく)

背中から角が生え、手足が羽毛で覆われ、牙が爪から生えてくる。
俺は悍ましい化け物と成り果て、魔物すら震え上がらせていた。

(怪物になったから、もう怖いものはない。けどカリタスとは一緒にいれない)

彼はずっと強い魔物を恐れ、契約条件も弱く在る事が暗に含まれていた。
だから今の俺は全てを破壊することが出来る代わりに、その約束は満たせない。

(でも、やっと望む力を手に入れたんだから。これ以上は望めないな)

大地に降り立った俺を襲う者はなく、次々に逃げ帰って静寂が訪れる。
血溜まりに映った姿は、もう面影なんか少しも残っていなかった。

「じゃあね、カリタス」

全てが終わって諦めた俺は、時計塔に置き去りにした主人へ別れの挨拶を呟く。
結局返せたのは感謝でも懇願でもなく、自分勝手な不義理だけだった。



あれから関係がない人達を怖がらせないように、校舎の屋根に身を潜めていた。
そして体の痛みが治まったら、誰もいない場所で生きようと思っていたのに。

「ここにいたのか、リベラ。まぁどこにいても、絶対に探し出すが」

包帯だらけのカリタスが屋根の上に這い上がり、真っ直ぐに駆け寄ってきた。
疲れ果てて微睡んでいた俺は反応が遅れ、逃げる機会を見失ってしまう。

(なんで分かるの。それにどうして逃げないの、カリタスが嫌う魔物の姿なのに)

魔物どころか怪物に落ちぶれた姿に、彼は強い嫌悪感を覚えているはずだ。
……けど責任感も強いから、俺を見捨られなかったのかもしれない。

(なら、もう甘えちゃいけない。強い魔物の振りをして、追い払わないと)

実際に俺は一人で生きていける力を手に入れ、彼も卒業資格を既に得ている。
契約は果たされたも同然なのだから、もう一緒にいる意味なんてない。

だが空気が揺れる程の咆哮を上げても、彼は視線すら逸らさなかった。

「その程度で、逃げると思われているなら心外だ。本気なら引っ掻いてみせてくれ」
(怯みもせず、カリタスが近づいてくる。腕は振り上げたけど、爪なんて出せない)

怪物めいた爪を叩きつければ、脆い人間など簡単に切り裂いてしまう。
結局覚悟は決め切れず、俺は前足を軽く押し付けるしかなかった。

「それでは肉球を当てているだけだ。人を攻撃するのに向いてないな、リベラ」

触れた前足に頬ずって微笑み、顔を埋める姿を見ていると胸が苦しくなる。
他の魔物相手であれば、こんな無防備な姿は晒さないだろうから。

(名前まで呼んでるし、全部バレてる。けど今更、どうするっていうの)

もはや人の世界に紛れ込む事すらできず、隣にいることも叶わなくなってしまった。
彼の意図するところが分からなくて、今までとは別の意味で怖くなる。

「だが一人でいなくなったことには、怒っている。だから私の話を聞いてほしい」
(いいよ、罰なら受け入れる。それだけのことをしてきたから)

彼を傷つけ、迷惑を掛けた事は、審判に掛けられるべき罪だった。
俺が唯一為せる誠実は、逆らわず裁きを待つことだけ。

「リベラ、姿がどうであっても問題ない。ただ逃げないで、傍にいて欲しい」
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