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8.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師への姿を選択する
8-7.売られる為に召喚された後天性サキュバスの俺は、魔物嫌いな溺愛調教師への姿を選択する
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けれど彼が告げてきたのは判決ではなく、俺への願いそのものだった。
だがそれは出会った当初から変わらない、甘えてしまう原因でもある。
「初めて会った頃のように、好きなものを教えてくれ。好みも変わっているだろう」
信頼構築が出来なくて、手探りだった頃の誠実さをまだ彼は大切に抱えていた。
これだけ迷惑を掛けられて裏切られたら、捨てたって誰も責めたりしないのに。
(混ざり物の怪物を撫でて、目線を合わせてくれる。……こんなの、ずるい)
俺は前例のない化け物となり、今後も悍ましい変貌を遂げるかもしれない。
しかし傷だらけの彼は、意地でも俺から離れようとしなかった。
「人目が気になるなら、遠くの地へ行こう。屋敷を建てても、旅をしても良い」
(一人で生きるつもりだったのに、もう心が揺らいでる。本当は離れたくないから)
そしてカリタスの枷になるのは分かっているのに、俺もこの場を離れられない。
怪物の体であれば、人間など簡単に置き去りにできるけど。
「そうでなければ、私が魔物になっても良い。闇市には、変化薬もあるだろう」
(いや、それはダメだ! 一緒にいてくれようとしてるのは嬉しい、でも)
理性と感情が入り乱れて、俺は頭が上手くまわらなくなっていく。
彼には人として幸せになって欲しいのに、隣にいたいとも願ってしまうから。
「君が望むなら、私は親愛を注ぎ続けよう。だが一つだけ試して欲しい事がある」
(……なに? 俺にできる事なら、何でもするけど)
話は平行線を辿っていたが、やがて意を決したようにカリタスが顔を上げる。
けれど俺にはもう打つ手など思いつかず、首を傾げるしかなかった。
(後天性サキュバスの体質は、もう治らない。大魔術すら効かなかったんだから)
俺の体は時間を巻き戻しても、淫魔の因子を除去することが出来なかった。
治癒する薬も存在しないのに、彼は何に希望を見出したのだろうか。
「後天性サキュバスの防衛本能は、元々相対者の好みの姿に近づけるものだ。それを私に向けてほしい」
そして彼が探し出した解決方法は、淫魔の性質を利用することだった。
根本的な治癒が不可能なら、本能を操ってしまえば良いという逆転の発想。
問題は対象の好みの姿であって、俺自身という訳じゃないことだけど。
(でも他人の代用なんて、カリタスはさせない。気づかない振りも、もうできない)
彼は小狡い性格とは掛け離れてるし、なにより俺自身がずっと見てきていた。
契約の日から続く、カリタスの一途な献身を。
『本当に、俺で良いんだよね? 後腐れなく手放せる、最後の機会だったのに』
「それを選ぶことがないのは、君の姿で証明できるだろう」
怪物の声帯は嗄れているが、辛うじて意味の通じる言葉を紡ぐ事ができた。
するとようやく喋った俺に、カリタスは泣きそうな笑みを浮かべる。
「だが私は先程、君の過去の姿を見ている。望むなら、そちらでも構わないが」
『……ううん、カリタスの好きな方でいい。俺は、そうなりたいから』
そして俺自身が選ぶべき選択を、少しだけ悩んでからカリタスに渡した。
正直後天性サキュバスではない自分の姿に、未練はある。
――だが彼にはその姿を捧げても良いと思うくらい、好きになってしまっていた。
「ならば、私が恋したリベラになってほしい。ずっと、その姿を見つめていた」
カリタスの言葉で呪いが解け、俺は無力な姿に戻っていく。
けれど後悔はない、カリタスはこの姿に惚れた訳じゃないから。
「答えは今じゃなくて良い。でも私を選んでくれたのだから、期待はさせ、っ」
(カリタス、限界だったんだ! 倒れちゃった、けど俺じゃ運べない!)
そして張り詰めていた気が抜けたのか、カリタスが緩やかに崩れ落ちていく。
俺は慌てて支えようとするが、人形のような姿では力が足りない。
しかし共倒れする前に、俺達を探し回る声が聞こえてきた。
「カリタス、リベラちゃん、近くにいる!? 声が聞こえるなら、返事をして!」
「ディコラルタさん! 俺たち、屋根の上にいるよ!」
騒ぎを起こした直後だから隠れていたけど、あの人は信頼できるから大丈夫だ。
俺が屋根下を覗き込むと、青い顔のディコラルタさんとちょうど目が合った。
気を失ったカリタスを保健室に運び込み、回復薬を全身に掛けて寝台へ押し込む。
苦しげな寝息が落ち着いた後、俺達も座り込んで一息ついた。
「無事とは言えないけど、生きてて良かったわ。遅くなってごめんね」
「ううん、来てくれてありがとう。でもカリタスが呼んだの?」
聞けば魔物が跋扈する校内を駆け抜け、ずっと俺達を探してくれていたらしい。
けど最終的に居場所が分かったのは、救助を求める手紙を受け取ったからだった。
「連絡用の魔道具、カリタスにも渡しておいたの。けど使われると思わなかったわ」
「カリタス、自分で解決できるもんね。今回は俺が収まりつかなくしちゃったけど」
彼が孤独だった時は全てが制御可能で、他者を頼る必要がなかったと想像できる。
けどディコラルタさんは苦々しく首を振り、俺の知らない過去を教えてくれた。
「もっと酷い騒ぎ、前にもあったわよ。でも荒れてた時は全く頼ろうとしなかった」
聞けばカリタスも入学当初は生徒との交流を試みたが、上手く行かなかったらしい。
嫉妬や情欲の眼差しは彼を蝕み、次第に孤立へと追い立ててしまった。
それでも完全には終息せず、教師が鎮圧する事態もあったとか。
「アナタが、カリタスを孤独から救ったのよ。これは誰にもできなかったことだわ」
ディコラルタさんの瞳は潤んでたが、表情は憑き物が落ちたように晴れやかだった。
だからこの優しい人が気を病む事も、きっと少なくなっていくことだろう。
だがそれは出会った当初から変わらない、甘えてしまう原因でもある。
「初めて会った頃のように、好きなものを教えてくれ。好みも変わっているだろう」
信頼構築が出来なくて、手探りだった頃の誠実さをまだ彼は大切に抱えていた。
これだけ迷惑を掛けられて裏切られたら、捨てたって誰も責めたりしないのに。
(混ざり物の怪物を撫でて、目線を合わせてくれる。……こんなの、ずるい)
俺は前例のない化け物となり、今後も悍ましい変貌を遂げるかもしれない。
しかし傷だらけの彼は、意地でも俺から離れようとしなかった。
「人目が気になるなら、遠くの地へ行こう。屋敷を建てても、旅をしても良い」
(一人で生きるつもりだったのに、もう心が揺らいでる。本当は離れたくないから)
そしてカリタスの枷になるのは分かっているのに、俺もこの場を離れられない。
怪物の体であれば、人間など簡単に置き去りにできるけど。
「そうでなければ、私が魔物になっても良い。闇市には、変化薬もあるだろう」
(いや、それはダメだ! 一緒にいてくれようとしてるのは嬉しい、でも)
理性と感情が入り乱れて、俺は頭が上手くまわらなくなっていく。
彼には人として幸せになって欲しいのに、隣にいたいとも願ってしまうから。
「君が望むなら、私は親愛を注ぎ続けよう。だが一つだけ試して欲しい事がある」
(……なに? 俺にできる事なら、何でもするけど)
話は平行線を辿っていたが、やがて意を決したようにカリタスが顔を上げる。
けれど俺にはもう打つ手など思いつかず、首を傾げるしかなかった。
(後天性サキュバスの体質は、もう治らない。大魔術すら効かなかったんだから)
俺の体は時間を巻き戻しても、淫魔の因子を除去することが出来なかった。
治癒する薬も存在しないのに、彼は何に希望を見出したのだろうか。
「後天性サキュバスの防衛本能は、元々相対者の好みの姿に近づけるものだ。それを私に向けてほしい」
そして彼が探し出した解決方法は、淫魔の性質を利用することだった。
根本的な治癒が不可能なら、本能を操ってしまえば良いという逆転の発想。
問題は対象の好みの姿であって、俺自身という訳じゃないことだけど。
(でも他人の代用なんて、カリタスはさせない。気づかない振りも、もうできない)
彼は小狡い性格とは掛け離れてるし、なにより俺自身がずっと見てきていた。
契約の日から続く、カリタスの一途な献身を。
『本当に、俺で良いんだよね? 後腐れなく手放せる、最後の機会だったのに』
「それを選ぶことがないのは、君の姿で証明できるだろう」
怪物の声帯は嗄れているが、辛うじて意味の通じる言葉を紡ぐ事ができた。
するとようやく喋った俺に、カリタスは泣きそうな笑みを浮かべる。
「だが私は先程、君の過去の姿を見ている。望むなら、そちらでも構わないが」
『……ううん、カリタスの好きな方でいい。俺は、そうなりたいから』
そして俺自身が選ぶべき選択を、少しだけ悩んでからカリタスに渡した。
正直後天性サキュバスではない自分の姿に、未練はある。
――だが彼にはその姿を捧げても良いと思うくらい、好きになってしまっていた。
「ならば、私が恋したリベラになってほしい。ずっと、その姿を見つめていた」
カリタスの言葉で呪いが解け、俺は無力な姿に戻っていく。
けれど後悔はない、カリタスはこの姿に惚れた訳じゃないから。
「答えは今じゃなくて良い。でも私を選んでくれたのだから、期待はさせ、っ」
(カリタス、限界だったんだ! 倒れちゃった、けど俺じゃ運べない!)
そして張り詰めていた気が抜けたのか、カリタスが緩やかに崩れ落ちていく。
俺は慌てて支えようとするが、人形のような姿では力が足りない。
しかし共倒れする前に、俺達を探し回る声が聞こえてきた。
「カリタス、リベラちゃん、近くにいる!? 声が聞こえるなら、返事をして!」
「ディコラルタさん! 俺たち、屋根の上にいるよ!」
騒ぎを起こした直後だから隠れていたけど、あの人は信頼できるから大丈夫だ。
俺が屋根下を覗き込むと、青い顔のディコラルタさんとちょうど目が合った。
気を失ったカリタスを保健室に運び込み、回復薬を全身に掛けて寝台へ押し込む。
苦しげな寝息が落ち着いた後、俺達も座り込んで一息ついた。
「無事とは言えないけど、生きてて良かったわ。遅くなってごめんね」
「ううん、来てくれてありがとう。でもカリタスが呼んだの?」
聞けば魔物が跋扈する校内を駆け抜け、ずっと俺達を探してくれていたらしい。
けど最終的に居場所が分かったのは、救助を求める手紙を受け取ったからだった。
「連絡用の魔道具、カリタスにも渡しておいたの。けど使われると思わなかったわ」
「カリタス、自分で解決できるもんね。今回は俺が収まりつかなくしちゃったけど」
彼が孤独だった時は全てが制御可能で、他者を頼る必要がなかったと想像できる。
けどディコラルタさんは苦々しく首を振り、俺の知らない過去を教えてくれた。
「もっと酷い騒ぎ、前にもあったわよ。でも荒れてた時は全く頼ろうとしなかった」
聞けばカリタスも入学当初は生徒との交流を試みたが、上手く行かなかったらしい。
嫉妬や情欲の眼差しは彼を蝕み、次第に孤立へと追い立ててしまった。
それでも完全には終息せず、教師が鎮圧する事態もあったとか。
「アナタが、カリタスを孤独から救ったのよ。これは誰にもできなかったことだわ」
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