ガチャで大当たりしたのに、チートなしで異世界転生?

浅野明

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第一章 新しい世界

精霊王と王都散策

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おじさんの精霊は唯一残ってくれた精霊だが、案外根性があるのだろうか。

「ねえねえ、あの2体は何なの?さっきからめっちゃ喧嘩してるんだけど」

『知らないのであるか?』

おじさんの精霊が声を低めてささやいてくる。違和感半端ない背中の羽根はどうにかならないのだろうか?蓮はいらんことを考えながらもうなずく。

「知らないよ。そもそも精霊を知ったのだってついさっきなんだからね」

『むむむ、そうであるか。ならば吾輩が教えてやるのである。あの方々は、精霊を束ねる精霊王様である』

「精霊王って一人じゃないの?」

『うむ、系統ごとにおられる。あの方々は水の精霊王様と火の精霊王様である。それと光の精霊王様もおられる』

「……は?」

精霊王は二人ではないのか。目を凝らしてみるが、蓮には青い髪の女性と赤い髪の男性しか見えない。

「二人しかいないけど」

『何を言っておるのだ!!ほれ、あの窓際のところに光の精霊王様がいらっしゃるだろう!』

「ん~?」

指さされたのは、精霊王たちの後ろの小さな出窓。そこにはよくよく見ると小さなヒヨコがちょこんと座って?いた。

「ひよこ……?」

ふわふわっぽくて、かわいい。

『無礼者!光の精霊王様であるぞ』

「……まじで?」

なぜに光の精霊王はヒト型ではないのか。しかし、ふわっふわで手触りがよさそうである。

「契約するなら光の精霊王がいいなあ」

もしかして、契約をしたらもふり放題?!と考えていたのが口に出ていたらしい。バッと音がしそうな勢いで水と火の精霊王が蓮を見る。

『なんでよう』

『どう考えても俺だろうが!!』

いや、俺様はちょっと好みではない。美人なお姉さんは好きだが、もふには負ける。じっと二人の精霊王を見つめて失礼なことを考えていると、光の精霊王がパタパタと飛んできて、思わず差し出した蓮の手の平に止まった。

『かわいさの勝利ぞな。我と契約するが良いぞな』

何やら変わった話し方をする鳥…ではなく精霊王だが、思った通り、その羽毛は非常にもふもふであり、蓮は満足である。流されるようにこくりとうなずいてしまった。

『ちょっと、ずるいわよう、シャーレイ!ワタシが初めに目をつけたのに』

『いいや、俺が初めだ!だから俺とも契約しやがれ!』

「え、契約って精霊一人だけとしかできないんじゃないの?」

『んなわけねえだろうが。あんたほど親和力があれば俺とも十分契約できるぜ?』

何をばかなことを言っているんだ、とあきれたような目で見られた。納得いかない。

『もう、仕方ないわねえ。三番目で我慢してあげるから私とも契約をするのよう』

『納得いかないぞな。契約は我が結んだぞな。お前たちは用ナシぞな』

『ふざけんな!』

『ばかをいわないのよう!』

光の精霊の言葉に、水と火の精霊王が殺気立つ。一触即発のピリピリした空気に、とうとう最後まで残っていたおじさんの精霊も逃げ出してしまった。ぶっちゃけ、蓮も逃げたい。ちなみに、床に転がっていた騎士は、精霊王たちの殺気に充てられて気絶している。オーリはといえば、いつの間にか壁際に避難していた。さすがに部屋を出てはいないが、だからといって手出しや口出しをする気はないらしい。つまり、何が言いたいのかというと、助けは期待できないというわけだ。

「もう、喧嘩しないでよ」

光の精霊王も混じってけんかを始めてしまったため、さすがにイラっとした蓮が声を上げると、精霊王たちがいったん口をつぐむ。蓮の不機嫌さを感じて、まずいと思ったようである。

『むう、仕方ないぞな。とりあえず三人とも契約するぞな』

『そうねえ』

『だな』

「え、それって決定なの?」

蓮の意思はどこに行ったのだろうか。正直、精霊王とかではなくて普通の上級精霊でよかったのだが。

『俺らを拒んだら、上級精霊や超級精霊が契約するはずないだろうが』

まあ、それはそう。よく考えれば、社長からのヘッドハンティングを断れば、その会社には就職できないようなものであろう。

「うーん、わかった。まあ、出来るならいいよ」

いまさらほかの精霊を召喚するのも面倒なので、仕方なく妥協する蓮である。


※※※※


三人の精霊王と契約するという偉業をあっさり成し遂げた蓮であるが、実際のところ、それがどれほどの偉業なのか本人は全くわかっていない。ちなみに、失神した騎士はオーリの指示によって宿舎へ運ばれている。オーリはといえば、その瞳に諦観を宿して、穏やかな笑顔で蓮をみていた。顔色は真っ青で、今にも倒れそうではあったが。とりあえず蓮を快く?王都散策へ送り出してくれたのである。彼には世話になりっぱなしなので、何かお土産を買って帰ろうと思う蓮だった。ちなみに、オーリはお小遣いもくれようとしていたのだが、アイテムボックスに大量のお金があるため、断った。

王都の大通りは、かなり多くの人が行き来していて、非常に活気がある。

「ほう、なかなか発展しているじゃねえか」

「それはそうよねえ。花の都と称されるほどですものう」

「うむうむ、なかなか楽しめそうぞな」

火の精霊王クレイと水の精霊王シャナは、人の姿になって実体化している。この姿であれば、だれの目にも映るので、蓮が空気に話しかけるアホの子と思われる心配がない。ちなみに、光の精霊王は相変わらず小さなひよこの姿で、蓮の頭に乗っかっている。存外器用で、多少激しい動きをしても落っこちる心配はなさそうだ。

「それよりい、どこにいくのよう」

「うーん、特に目的はないかなあ」

「だったらあっちの武器屋」

「お菓子屋さんぞな!!おいしそうなにおいがするぞな!!」

クレイの言葉に被せるように、シャーレイが騒ぎ立てる。

「おい、このクソ鳥が‥‥!」

「ぞな、ぞな。言葉が悪いぞな!」

青筋立てて怒るクレイに、歌うような声でシャーレイが応える。とても楽しそうだ。

「相変わらず、性格悪いわねえ」

これだから光のは嫌いなのよう、と肩をすくめたシャナが、蓮の手を引き、楽しそうに近くの服屋に誘う。

「あのひとたちは放っておいて一緒に服でも選びましょうよう。その神官服は目立つもの」

シャナにいわれて、はじめてそういえば神殿で貸してもらった服を生きているんだった、と気づいた。アイテムボックス内にはそれなりに服も入っていたようだが、それとこれとは別である。特別おしゃれに興味はないが、蓮だって女子だ。服屋というのは、それだけで何となく楽しくなってくるものである。

「そうだね。服は大切」

いまだに言い争っているクレイとシャーレイを放置して、シャナにうなずいて服屋に入ったまでは良かったが、あっという間に目をハートマークにした店員に囲まれてファッションショーをさせられたのは、想定外であったといえよう。しばらくは服屋には入りたくない、と流されるままに服を試着しながら蓮は思うのであった。
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