ガチャで大当たりしたのに、チートなしで異世界転生?

浅野明

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第一章 新しい世界

神が実在する世界

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「貴方が私を不審に感じているのは仕方がないことです」
何せ通りすがりに突然馬車に乗せたのだから、と少年はにっこり微笑む。
「しかし、私は主神フェルリア様の神官。どうか信じてはいただけないでしょうか」
そういって少年が差し出してきたのは、美しい女性の顔が描かれた手のひらサイズの銀のメダル。確かに改めて良くみてみると、少年がきているのは仕立ての良い白い服だ。袖口やすそなど、金と銀の糸で細かなつたと花の模様が刺繍されている。

「神官……」
神官といわれると、そうかもしれないと思ういでたちである。だから信じられるかといえば、それはまた別の話だが。
「お告げってどんなものなの?」
そう聞くと、少年はにっこり微笑んで答えてくれた。
「『神の色をまとった少女がリサナ街道に現れるから保護してほしい』という内容ですよ」
「神の色?」
「ええ。主神様はあなたと同じ、雪のように白く、光の加減で薄青にも見える不思議な色合いの髪を持っていらっしゃると伝えられているのです」
いわれてみれば、ゲームではそのような変な髪色に設定した記憶がある……かもしれない。
「じゃあ、私はどうなるの?」
「必要であれば神殿で保護させていただきますが、基本的にはあなたの望むように、自由に。必要なものはこちらで準備いたします」

少年の言葉に、蓮はぱちぱちと瞬いた。こういう時は、神殿にとらわれるなりなんなりするのが、異世界転生物の定番のような気がするのだが。
「主神様から、『貴方の自由を奪うことは許さない』というお告げもいただいているので」
その言葉に、なるほどと納得する。神が身近に息づく世界であるから、神の意向が重視されるのだろう。蓮が思い描いている欲にまみれた俗物的な神官もいるかもしれないが、少なくとも目の前の少年は幼いながらも立派な神官なのだろう。しかし、仕立ての良い服と所作から見るに、本人は小さくても位は高そうである。

「信じられないという表情をされていますね。ですが、どうか信じていただきたいのです。我らにとって主神様のお言葉は絶対なのですから」
「……わかったわ、少年。私の名前は篠宮蓮よ。レンって呼んで」
そもそも「神のいたずらに巻き込まれたもの」という称号があることから、神が実在するのだろうと推測はできる。悪戯、という部分が非常に気になるところではあるが、少なくとも目の前の少年は、得体のしれない蓮を助けてくれた、というのはわかる。蓮はいろいろあきらめて、名を名乗ることにした。
「ああ、失礼いたしました。私の名前はオーリです。よろしくお願いいたしますね」
まだ名前を名乗っていませんでした、と申し訳なさそうに笑う少年には、裏表はなさそうだ。ひとまず神様とやらに出会う機会があったら小一時間問い詰めることとして、蓮はオーリと神殿へ一緒に行くことにした。なぜなら、彼女にはこの世界の知識も戦うための力もなく、お金もないからだ。このままではうっかり悪者につかまって奴隷人生まっしぐら。そのような人生はご免である。……いや、本当にあのガラガラには何の意味があったのだろうか。謎である。

※※※※

馬車が3時間程度走ってたどり着いたのは、クレリス王国首都ミネス。馬車に乗っている間にこの世界のことや通貨の単位など、ある程度の常識を教えてもらった。神託のせいか、オーリはとくに疑問にも思わず、丁寧に教えてくれたのは助かった。

この世界には5つの大陸があり、それぞれ人族の住む大陸、エルフの住む大陸、獣人族の住む大陸、ドワーフの住む大陸、魔族の住む大陸と分かれているらしい。とはいっても、それぞれの大陸とは交流もあり、人の行き来は頻繁にあるし、人族の大陸にもほかの種族も住んでいる。また、魔族は単なる一種族であって、敵対しているとかそういった話はないらしい。現在冷戦中や仲の悪い国はあっても、大規模な戦争は起こっていないということ。おおむね世界は平和といえるだろう。なのに、なぜ異世界から人を召喚したのか、非常に謎である。とはいえ、そこまで突っ込んだことを会ったばかりのオーリに聞くことはできないわけなのだが。

ここは人族の住む大陸で、サイロディル大陸と呼ばれている。サイロディル大陸には5つの大国と12の小国があり、すべて人族の国だ。今いるのはクレリス王国で、サイロディル大陸にある国の中でも最も大きい国なのだとか。実際に王都に近づくごとに街道には人が増えていく。

「おお~」
全体的にファンタジーっぽい服装を着た人々が行きかう様子を見ると、年甲斐もなく(外見的には子供でも中身は38歳なのだ)興奮してしまう。ちょっと恥ずかしいが、こればっかりは仕方がないだろう。何より、数は少ないもののエルフやドワーフ、獣人といったいかにもゲームで見るキャラクターのような人々が混じっているのが、なおさら興奮させるのだ。

これだけゲームやラノベに出てくるような人々を目の当たりにしてしまうと、神だっていてもおかしくないかな、という気分にもなってくる。
「まあ、うん。こういった世界も悪くないかな」
今のところ、異世界に悪い印象はない。異世界についてすぐにオーリに拾ってもらえたのも大きいだろう。蓮は手の中の銀貨をもてあそびながらも、街道を行く人々をしっかり観察する。銀貨は、オーリがくれたものだ。お金の単位は「ロイエ」で、1ロイエが日本円にして10円程度。10ロイエあれば小さなパンが1個買えるとのことだ。宿代は、食事なしの素泊まりで一般的な宿なら300ロイエ前後だという。朝と夕食がつくと400~500ロイエといったところ。

「でも異世界にはパソコン、ないよねえ」
異世界でもやっていけるのではないか、と一瞬思ったが、残念ながら蓮の職業柄異世界では仕事自体がないだろう。ちなみに、仕事以外はほぼ何もできない蓮だ。生活能力は皆無といえる。辛うじて月に1回掃除機をかける程度で、料理は全て冷凍食品で賄っている。ぶっちゃけ、便利家電があった日本でもまともに家事はしていない蓮は、異世界で一人暮らしをする自信は全くない。かといって、神殿で暮らすのも無理そうだ。ガラガラで大当たりしたにもかかわらずラノベでは必ずといっていいほどもらえるチートもないので、野垂れ死ぬ未来しか見えない。……なるべく早く日本に帰る方法を見つける方が無難かもしれない。

「うん、無理だね」
蓮は自身の未来を想像して、頭を振った。
「異世界転移…甘くないな」
小説のようには、うまくいきそうにないとため息をつく蓮だった。
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