龍は暁に啼く

高嶺 蒼

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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~

小さな娼婦編 第二十三話

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 雷砂がせっせと依頼の消化をしている頃、複数の男女が正に問題の鉱山の内部へ進入しようとしていた。
 彼らは、雷砂が諦めざるを得なかったBランクの依頼を受けた2つのクランの混成チームだった。

 Aランククランの[シルヴァリオン]はリーダーの両手剣使いの重戦士を中心とした男4人の戦闘力重視の編成。
 もう1つのクランはBランクの[鋼の淑女]。リーダーを含む6人全員が女だが、各自それなりの実力を備えた歴戦の冒険者である。
 彼らは油断なく周囲を警戒しながら、暗い穴蔵へと潜っていく。


 「いいか。対象を見つけてもむやみに攻撃をするんじゃねぇぞ。今回の依頼は対象の調査のみだからな」


 [シルヴァリオン]のリーダー・アゴルの言葉に、他の面々も静かに頷いた。


 「分かってますわ。クランのランクはそちらの方が上ですし、この依頼の主導はそちらがとっていただいて結構です。ただ、1点提案なのですが」

 「なんだ?」


 [鋼の淑女]のリーダー・ヴェネッサの発言に、アゴルは耳を傾け問う。
 彼の視線を受け、彼女は自分の後ろに控えていたギルドのメンバーを自分の隣に呼び、


 「猫型獣人種のエメルですわ。彼女は索敵や隠密行動に長けておりますの。全員でぞろぞろ歩くのは隠密性に欠けますし、エメルを先行させたいと思うのですけれど、いかがかしら?」


 そう提案して、おっとりと首を傾げた。
 元々貴族階級出身のヴェネッサは、一々言動が上品だ。
 彼女のクランは、上品とは言い難い人間が多く集まる冒険者ギルドの中にあって、中々に異色な空気を放つ集団であった。

 アゴルは値踏みをするようにエメルを上から下まで無遠慮に眺めた。
 エメルは小柄だったが、中々俊敏そうに見えた。
 目つきも鋭く、それなりに経験を積んだ歴戦の冒険者の風格も感じさせる。

 男である自分たちがいるのに、女に危険な任務を押しつける事について思うことがあるのか、アゴルはやや不満そうに鼻をならしたものの、最終的には頷かざるを得なかった。
 混成チームで事に当たっている今回の作戦で、全員仲良くぞろぞろ移動するなど間抜けにも程があると言うものだ。
 先行してルートを探る斥候役に、エメルは最適であると思えた。

 アゴルはうなり声をあげつつ、自分のクランのメンバーにちらりと目線を流す。
 攻撃力重視で集めた面々は、みんな揃いも揃って隠密性の欠片もない。
 今までは力押しで何とかなってきたが、更に上を目指すのであればもう少しメンバーの見直しをする必要もあるだろう。


 (少なくとも、危なげなく斥候をこなせるスキルを持った奴が、1人くらいはほしいところだな)


 そんなことを思いながら、先行するため余分な荷物を仲間に託し、準備をしているエメルを眺めるともなしに眺めていると、横から突き刺すような視線が飛んでくる。


 「・・・・・・なんだ?」


 言葉短くそう問えば、


 「そんな物欲しそうな顔をしても、エメルは差し上げませんわよ?」


 うふふとにこやかに笑いながら、まったく笑っていない瞳で釘を刺された。


 「別にほしいなんて一言も・・・・・・」

 「目は口ほどに物を言う、ですわ。感情を隠すのが苦手なんですのね」

 「ちっ、くえねぇ女だなぁ」

 「ふふ、お褒めにあずかり光栄ですわ」

 「誉めてねぇっての」

 「あの~」


 表面上は和やかに、だがトゲが透けて見えるような言い合いをする両リーダーのやりとりを中断するように、申し訳なさそうな声が割ってはいる。
 2人がはっとして声の主に目を向けると、準備万端整えたエメルが2人を見上げるように立っていた。


 「ヴェネッサ、そろそろ行ってくるにゃ」


 語尾ににゃが付くのは猫型獣人種のお約束だ。
 まあ、種族の特長丸出しのこのなまりが恥ずかしいと、あえて矯正する者もいたりはするが。
 ヴェネッサは優しげに目を細め、エメルの猫耳をもふり、なめらかな頬を撫でる。


 「ええ。気をつけて。決して無理をしては駄目よ?危ないと思ったら迷わずに逃げていらっしゃい」

 「わかったにゃ。逃げ足には自信があるから、安心して待っててほしいにゃ」


 過保護なリーダーの言動に、エメルはにぱっと笑ってそう答えた。
 そうしてさっと踵を返すと、あっというまにその小柄な姿は闇の中へととけ込んでしまった。
 そんな彼女の後ろ姿を見送り、残されたメンバーは周囲の警戒をしつつ、交代で休憩を取る事にしたのだった。

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