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第二部 旅のはじまり~小さな娼婦編~
小さな娼婦編 第十九話
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ミカを背負ったガッシュの背を見送り、雷砂はゆっくりと宵闇の中を歩き始める。
向かう先は娼館「蝶の夢」。
宿へ戻る前に、アレサの様子だけ見ていこうと思ったのだ。
ミカとガッシュにつき合う内に、気がつけば随分遅い時間になってしまった。
アレサはきっともう眠ってしまっているに違いない。
だから、とりあえず寝顔だけ見て、帰るつもりだった。
昨夜と同じように、無駄に立派な娼館の店先に足を踏み入れると、昨日も顔をあわせた男が何とも言えない表情で雷砂を見た。
強面だが、人の良さそうな男だ。
にっこり笑って、お疲れさまと声をかけると、
「そんな小さななりで娼館通いは感心せんな」
苦虫を噛み潰したような顔で、そう返された。
「まあ、色々事情があるんだよ。しばらくは通うことになるからよろしく。ちょっとくらいはイーリンから事情、聞いてるんでしょ?」
小首を傾げてそう問えば、
「マダムはそんなこと話しちゃくれんよ。ただ、お前さんは客だから、今度来たら黙って通してやるように言われただけだ」
渋面を返される。
「ふうん。そうなんだ。オレとしては通してくれるなら別にどうでも良いけど」
「生意気な奴だな。まあ、いい。今日はどうするんだ?またマダムのところか?」
にっと雷砂が笑うと、男も呆れた様な笑いをその面に浮かべた。
イーリンのところへ行くのかと問う男に、雷砂は首を横に振った。
「いや、アレサって子の部屋に行きたいんだ。お金昨日、イーリンに直接払ってあるんだけど」
「ああ、新入りの子か。支払いが済んでいるのなら話は通って居るはずだ。俺のところまでは伝わってないがな。まあ、いい。部屋の場所は知ってるんだろう?」
「うん」
「なら、そのまま向かうといい。マダムと受付担当には、俺から話を通しておこう」
「ありがとう」
雷砂は再び微笑んで、すたすたと店の奥へと進んでいく。
その後ろ姿を、用心棒の男は何とも複雑な表情で見送るのだった。
眠っているだろうと、ノックもせずにそっと部屋に入り込むと、案の定アレサは心地良さそうな寝息を立てて眠っていた。
だが、場所はベッドの中ではない。
何か作業をしていたのか、机に突っ伏すようにして眠るアレサの、その手元をのぞき込むと、質の悪い紙で文字の練習をしていたようだと分かる。
どうやら、娼婦としての教育の一環として、文字の手習いをしていた様だと気づき、雷砂は感心したように目を見張った。
昨夜のイーリンの言葉を思い出し、1人の娼婦を作り上げるのにかかる費用には、こう言った知識的な事も含まれているのかとそんなことを思いながら。
娼婦の身請け代が高くつくはずだと、雷砂は苦笑しながらそっとアレサの体を抱き上げた。
起こさないように、そうっと慎重に。
だが、ベッドに降ろした瞬間、アレサの目がぼんやりと開かれて雷砂の姿を認める。
「あれ?雷砂?」
「ああ。そうだよ」
寝ぼけたような声に優しく答え、雷砂はアレサの体を毛布で包んでその髪をそっと撫でる。
再びの眠りを促すように。
「いつ?」
言葉足らずな問いかけに、雷砂は小さく微笑んで、
「ついさっきだよ。色々頑張ってるみたいだな、アレサ」
そう答えた。
褒められたアレサが嬉しそうに頬を緩める。
「マダムがね、雷砂が私のために頑張ってくれるんだから、あんたも頑張りなさいって、読み書きの先生をつけてくれたの」
「そうか。偉いな。覚えるの、大変だろ?」
雷砂の言葉に、アレサは首を横に振って微笑んだ。
「大変だけど、楽しいよ。こんな事が無かったら一生覚える機会はなかっただろうし」
「そっか。そうだな。アレサが頑張ってるから、オレも頑張るよ」
雷砂も微笑み、アレサの髪を優しく優しく撫でる。
そんな雷砂を、アレサは真剣な眼差しで見つめた。
「ね、雷砂」
「なんだ?」
「あんまりムリは、しないでね?」
「大丈夫。無理はしないよ。約束する。だから、今日はもう休みな」
頷き、雷砂はそう告げる。
アレサはほっとしたように頬を緩め、ふっと体の力を抜いた。
そのまま、甘えるように雷砂を見上げる。
「寝るまで、居てくれる?」
「いいよ」
雷砂の答えに安心したのか、アレサは今にもくっつきそうだった瞼を素直に閉じる。
それからすぐに、気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
アレサが眠るのを見届けてからしばらくそのまま、雷砂はその穏やかな寝顔を見つめていた。
向かう先は娼館「蝶の夢」。
宿へ戻る前に、アレサの様子だけ見ていこうと思ったのだ。
ミカとガッシュにつき合う内に、気がつけば随分遅い時間になってしまった。
アレサはきっともう眠ってしまっているに違いない。
だから、とりあえず寝顔だけ見て、帰るつもりだった。
昨夜と同じように、無駄に立派な娼館の店先に足を踏み入れると、昨日も顔をあわせた男が何とも言えない表情で雷砂を見た。
強面だが、人の良さそうな男だ。
にっこり笑って、お疲れさまと声をかけると、
「そんな小さななりで娼館通いは感心せんな」
苦虫を噛み潰したような顔で、そう返された。
「まあ、色々事情があるんだよ。しばらくは通うことになるからよろしく。ちょっとくらいはイーリンから事情、聞いてるんでしょ?」
小首を傾げてそう問えば、
「マダムはそんなこと話しちゃくれんよ。ただ、お前さんは客だから、今度来たら黙って通してやるように言われただけだ」
渋面を返される。
「ふうん。そうなんだ。オレとしては通してくれるなら別にどうでも良いけど」
「生意気な奴だな。まあ、いい。今日はどうするんだ?またマダムのところか?」
にっと雷砂が笑うと、男も呆れた様な笑いをその面に浮かべた。
イーリンのところへ行くのかと問う男に、雷砂は首を横に振った。
「いや、アレサって子の部屋に行きたいんだ。お金昨日、イーリンに直接払ってあるんだけど」
「ああ、新入りの子か。支払いが済んでいるのなら話は通って居るはずだ。俺のところまでは伝わってないがな。まあ、いい。部屋の場所は知ってるんだろう?」
「うん」
「なら、そのまま向かうといい。マダムと受付担当には、俺から話を通しておこう」
「ありがとう」
雷砂は再び微笑んで、すたすたと店の奥へと進んでいく。
その後ろ姿を、用心棒の男は何とも複雑な表情で見送るのだった。
眠っているだろうと、ノックもせずにそっと部屋に入り込むと、案の定アレサは心地良さそうな寝息を立てて眠っていた。
だが、場所はベッドの中ではない。
何か作業をしていたのか、机に突っ伏すようにして眠るアレサの、その手元をのぞき込むと、質の悪い紙で文字の練習をしていたようだと分かる。
どうやら、娼婦としての教育の一環として、文字の手習いをしていた様だと気づき、雷砂は感心したように目を見張った。
昨夜のイーリンの言葉を思い出し、1人の娼婦を作り上げるのにかかる費用には、こう言った知識的な事も含まれているのかとそんなことを思いながら。
娼婦の身請け代が高くつくはずだと、雷砂は苦笑しながらそっとアレサの体を抱き上げた。
起こさないように、そうっと慎重に。
だが、ベッドに降ろした瞬間、アレサの目がぼんやりと開かれて雷砂の姿を認める。
「あれ?雷砂?」
「ああ。そうだよ」
寝ぼけたような声に優しく答え、雷砂はアレサの体を毛布で包んでその髪をそっと撫でる。
再びの眠りを促すように。
「いつ?」
言葉足らずな問いかけに、雷砂は小さく微笑んで、
「ついさっきだよ。色々頑張ってるみたいだな、アレサ」
そう答えた。
褒められたアレサが嬉しそうに頬を緩める。
「マダムがね、雷砂が私のために頑張ってくれるんだから、あんたも頑張りなさいって、読み書きの先生をつけてくれたの」
「そうか。偉いな。覚えるの、大変だろ?」
雷砂の言葉に、アレサは首を横に振って微笑んだ。
「大変だけど、楽しいよ。こんな事が無かったら一生覚える機会はなかっただろうし」
「そっか。そうだな。アレサが頑張ってるから、オレも頑張るよ」
雷砂も微笑み、アレサの髪を優しく優しく撫でる。
そんな雷砂を、アレサは真剣な眼差しで見つめた。
「ね、雷砂」
「なんだ?」
「あんまりムリは、しないでね?」
「大丈夫。無理はしないよ。約束する。だから、今日はもう休みな」
頷き、雷砂はそう告げる。
アレサはほっとしたように頬を緩め、ふっと体の力を抜いた。
そのまま、甘えるように雷砂を見上げる。
「寝るまで、居てくれる?」
「いいよ」
雷砂の答えに安心したのか、アレサは今にもくっつきそうだった瞼を素直に閉じる。
それからすぐに、気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
アレサが眠るのを見届けてからしばらくそのまま、雷砂はその穏やかな寝顔を見つめていた。
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