僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

文字の大きさ
461 / 595
12歳の疾走。

炎と技術開発。

しおりを挟む
 バーナーが火を吹いた瞬間、僕はにやりとした。

「よし、成功。火食いトカゲの皮、あれをこう使えば……一点集中の加熱ができる。これなら鍛治にも……」
「リョウ様!」

 ドワーフの工房長、ヂョウギさんの声が低く、しかし激しく響いた。どしん、と僕の机に両手をつき、真剣な目をこちらに向ける。

「これ……これで鉄を炙れば、精度の高い細工が可能になります。しかも短時間で。まさか、このような“火の槍”を、リョウ様がお作りになるとは……」
「槍じゃないよ、ヂョウギさん。これはバーナー。その名前で商業登録した。炎を制御して狙ったところに熱を加える道具。吹き出し口のこの石は、炎の幅を調節できるように…」
「素晴らしいっ……!」

 ヂョウギさんは目を潤ませながらうなずいた。

「リョウエスト様、これは鍛治技術の革命です。我が工房ではすでに、五人の鍛冶師がこの試作品で作業を試しておりますが……皆、震えております。興奮のあまりに」
「ふふ……でも、まだ改良の余地はあるよ。耐久性と持ち運びの面で――」
「もう、このままで十分に神々しい!」

 いや、だから……

「…で、その、他のドワーフにも見せたって?」
「はっ、もちろんでございます」

 ヂョウギさんは神妙にうなずいた。

「お話したところ、隣の工房の者たちも『なんじゃそりゃ!』と驚きまして。翌朝には三件の依頼が殺到し、試作品を貸してくれと押しかけてきた次第です」
「……はやいな」
「ドワーフとは、道具のこととなると少々……我を失いがちでして」

 ヂョウギさんが言い終えるより早く、遠くから聞き慣れた叫び声が風に乗って聞こえた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!」
「……来た」

 僕は額を押さえた。

「誰だ……どこかで聞いたような……」
「間違いなく、あれは……」

 地鳴りのような足音がどんどん近づき、扉を吹き飛ばす勢いで突進してきたのは…。

「バァンンンンンンンンン!!!これか!!お前が作ったのは!!火を槍のようにする神の道具うううううう!!!!!」

 僕の友人であり、ドワーフ自治領の伯爵、グラドだった。顔は煤だらけ、瞳はぎらぎら、手には巨大な槌を握っていた。

「グラド、ついこの間にも来てたよね!? あのときは『ステンレス』の話で!」
「その間で進化してるだと!?ルステインの火は止まらねえのかぁああっ!!」
「落ち着いてえええええっ!!」

 僕の叫びが響く中、工房が一気にグラドの熱量で温度ごと爆発しそうになった。



「この細さでっ……この温度かああああっっ!!溶ける、溶けるぞおおおっっ!!!」

 僕の目の前で、グラドが金属片をバーナーの炎に突っ込んで叫んだ。汗まみれで瞳はぎらついて、完全に『鍛治がかった状態』になっている。

「グラド、待って! それ燃えすぎるってば! 加減しないと――」
「加減とはなんだ!? 鋼に慈悲などいらん!!熱せよ、撃てよ、叩き割れえええええ!!!」

 ドゴオォン!!

 グラドの槌が金床を打つたびに、工房の床が震える。ヂョウギさんが僕の肩をぽんと叩いた。

「……これは、仕方がございませんな。あれは『鍛治グラド』状態。止まりません」
「知ってるけど!なんでみんな平然としてるの!?」
「いつものことですので。慣れております」
「慣れないよ僕はっ!」

 その間にも、グラドはバーナーの火力調整機構に指を突っ込み、ぐるぐる回していた。

「おお……火の幅が狭く……狭くなった……一点集中、溶接すら可能……うおおおっ、魔剣が作れる!!!」
「そんな簡単に魔剣できないから!!」
「ヂョウギーッ!! このバーナー、百基用意しろォォッ!!明朝までに! 無理なら溶鉱炉の中で死ぬッッ!!」
「かしこまりました、お坊ちゃま。では作業工程を確認いたしましょう」
「確認しちゃうの!?止めて!? むしろ誰かブレーキかけてえぇっ!」

 僕が叫ぶ中、グラドは金属片に自作の紋章を刻みはじめていた。しかも、その焼印にもバーナーを使っている。

「ぬおおっっ!焼印が滑らかに!まるで手のひらの感触のようだあああ!!!」
「なんだその感想!?」
「……リョウエスト様、すでにドワーフ鍛冶師十名が見学に参っておりますが、よろしいでしょうか?」

 ヂョウギさんが静かに言う。ちらっと入口を見ると、髭と槌を持ったドワーフたちが、目を光らせて列をなしていた。

「この小僧か……!火を手懐けたという『火竜童子』とは……!」
「その呼び方やめてー!!」
「見ろ、あの火の色……!オレンジの中に青い芯が……完璧な燃焼……!!」
「これぞ『青き咆哮』……いや、『鍛冶神の舌』だ!!」
「命名やめてええぇ!!」

 いつの間にか、僕の開発したバーナーは『伝説の道具』扱いになり、グラドはそれを使って何かとんでもないものを作り上げようとしていた。

「リョウ……お前は……魔法技師の皮をかぶった、鍛冶の暴竜だ……ッ!」
「どんな評価!?魔法技師だからね!?理性あるからね僕!?」

 工房は熱気と怒号と、変な称号で満ちていた。これが……ドワーフたちの『技術愛』なんだろうか。

 でもちょっと、楽しそうにしてるグラドの顔を見て、僕も少し笑ってしまった。

翌朝。僕は工房の隅で、バーナーの吹き出し口を掃除していた。目の下にはくっきりクマ。体中が煙臭い。

「……はぁ……グラド、ようやく寝たか……」

 あのあと、彼は夜中じゅう槌を振るい続け、五本の短剣と謎の『火の勲章』を鍛え上げ、「これを……祭壇に奉納してから寝る」と言い残して倒れた。
「リョウエスト様、本当にお疲れ様でございました」

 ヂョウギさんが、湯気の立つハーブティーを差し出してくれる。ありがたく受け取った。

「お父さんとしては……あれ、心配にならないの? 毎回、爆発的に来て、爆発的に鍛えて、寝る……の繰り返しだけど」
「ええ、まあ……心配は尽きませんが……。ですが、あの子の『心』が何に向かって燃えているのかは、よく分かっております。わたくしも、若い頃はそうでございました」
「ヂョウギさんも……?」
「はい。初めて『火食いトカゲの皮』に出会ったときなどは、それはもう、衝撃で……。あの皮が火を吸ってから吐く『間』……あれを見てから三日三晩、火口を眺め続けておりました」
「……ああ、やっぱドワーフだ……」

 僕が思わず苦笑いをすると、ヂョウギさんは楽しそうに目を細めた。

「リョウエスト様、今回の改良は……単なる『発明』ではございませんな。これは、『問い』を作ったのです。“火をもっと自在に操れたら、何ができるのか”――それを、皆が自分に問い始めた。だからこそ、グラド坊ちゃまも、あれほど熱く……」
「問い、か」

 僕はバーナーの先を見つめた。確かに、最初はただ『便利にしたかった』だけだった。でも、それを見た誰かが、次の可能性を考え始める。それが、技術の広がりになる。

「……じゃあ、答えはひとつじゃないんだ」
「まさに。人によって、鍛治によって、そして……未来によって変わる。素晴らしいことですな」

 そこへ、よろよろとした足音が近づいてきた。

「リョウ……おはよう……あれ……昼か?」
「グラド、ちゃんと布団で寝なよ……」
「いや、俺は……バーナーの夢を見てたんだ……火がこう、ぐおーってなって、剣がしゃーって生まれて……」
「擬音多すぎ!」
「でな……俺、考えたんだ。これを……ドワーフ全体に配ろう。すべての工房に。お前が設計図と作り方を広めてくれれば、俺が資材を用意する!」
「やっぱり広めるんだ……」
「そのかわりに……今度の『ドワーフ鍛治競技会』、お前も出ろ。テーマは『炎と技術』。お前のバーナー、ぶちかませ!」
「……え、なにそれ知らない」
「今日決めた!! 俺が!!」
「やっぱりーーーッ!」

 叫ぶ僕の背後で、ヂョウギさんがまた、くすりと笑っていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

Gランク冒険者のレベル無双〜好き勝手に生きていたら各方面から敵認定されました〜

2nd kanta
ファンタジー
 愛する可愛い奥様達の為、俺は理不尽と戦います。  人違いで刺された俺は死ぬ間際に、得体の知れない何者かに異世界に飛ばされた。 そこは、テンプレの勇者召喚の場だった。 しかし召喚された俺の腹にはドスが刺さったままだった。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...