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12歳の疾走。
チェーン店限定メニュー争奪戦。
ルステイン本店『スサンの天使』の厨房に、怒声が響いた。
「ロマァ!何度言やぁ気が済むのさ!?料理は根性と火加減!ちまちま計るんじゃないよッ!」
「す、すんませんっす!でも黒牛の皮、火力が強すぎるっすから、秒単位で見ないと……!」
「だからこそ感覚で覚えるのさ!『舌の記憶』があんたの命でしょーが!!」
鍋をガンッと置く音。炎の音。漂う香ばしい匂い。厨房はいつものように戦場だ。
けれど今日は、厨房の外も騒がしかった。
「ムーヤ様!各支店から続々とメニュー案が届いてます!」
「はーいはーい、持ってきな!」
給仕の少年が抱えた紙束を差し出すと、ムーヤはエプロンで手を拭きつつ紙束をばさっと開いた。
「よっと……さてはて、今年も始まったねえ、『チェーン店限定メニュー争奪戦』。どうせまたカラフルなだけのサラダとか、妙に尖ったスープとかばっかりでしょーよ!」
「……でも毎年レベル上がってるっすよ、ムーヤ師匠」
「それがムカつくのさ! 若いのが調子こいて……くぅ~っ、こちとら本店の看板背負ってんのよォ! 舐められてたまるかっての!」
ムーヤは紙束をめくりながら、鼻息を荒くした。
「ロマ、今年のテーマ知ってるかい?」
「えっと……『リョウエスト様の思い出』っすよね」
「そーよ。あの子が昔作ってくれた料理や、お屋敷でよく食べてた味を、各店が勝手に想像して料理にすんの。そんなの、ウチが一番詳しいに決まってんじゃない!」
「それは……そうっすけど、思い出って言っても、人によって感じ方が違うっすから……」
「違わしてたまるかーっ!こちとら、あの子が『泣きながら失敗したプリン』の味まで再現できる女よ!勝つに決まってるの!」
「それ再現する必要あるっすか……?」
ロマが苦笑していると、厨房の奥から煙がぼわっと立ち上った。
「……ちょっと!さっきの火、止めたと思ったの誰さ!?また焦げてんじゃないかい!」
「あっ、す、すみませんっす!」
「ったくもー……こんな調子でメニュー提出間に合うと思ってんの!?ロマ、今夜は徹夜よ!『あの子の一皿』ってやつを、わたしたちで叩き出すの!」
「……はいっす!」
ムーヤの目はぎらりと光り、ロマも小さくうなずいた。
本店の意地をかけて、今年の『限定メニュー戦争』が始まった――!
けっこう本気出してんじゃないのさ、支店ども……!」
本店厨房に集まった十数枚の提案書。ムーヤが腕を組みながら唸った。
「『リョウ様が風邪をひいた夜に飲んだ特製スープ』。『家族に出す初めての手作りパイ』。『料理失敗して焦げたけど笑い合ったハンバーグ』……なんでどこもこぞってエモ路線なのさ!!」
「やっぱ、テーマが『思い出』っすから……」
ロマが小人用の踏み台に立ち、真剣な目でレシピ案を読み込んでいた。
「でもムーヤ師匠、正直、どれも悪くないっす。中でも西街道支店の『きらめく春のピクルス』は……かなり、来てるっす」
「ぬう……あそこの料理長、二年前に本店から引き抜かれた奴じゃないかい。舌の記憶を裏切った裏切り者!」
「言い方っす!」
ムーヤは髪をひとつに結び直すと、がしっと調理台を両手で叩いた。
「ロマ、そろそろ出しな。あんたが考えた『本店案』。どうせ昨日の夜、こっそりメモ帳とにらめっこしてたんでしょ?」
「……バレてたっすか」
「師匠だよ?」
ロマはふっと笑い、ポケットからレシピを書いた紙を差し出した。
「『金銀の昼下がり』っす」
「名前がもう気取ってる!」
「…リョウ様が、よくお昼に庭で食べてた『たまごサンド』をベースに、黄身とチーズの二層仕立てにしたっす。温かさと冷たさ、両方の記憶を一口に込めた、ってコンセプトで」
「ふ~~~ん……ちょいとやるじゃないの……」
ムーヤは受け取った紙を黙って読み込み、数秒の沈黙ののち――
「……で、それを『本店案』にするには、あたしの許可がいるってこと、分かってるわね?」
「……もちろんっす。でも、『たまごサンド』を料理にしたいって思ったのは、あの人が言ったからっすよ。『思い出って、なぜかパンの匂いがする』って」
「……」
ムーヤはふっと顔をそらして、目頭を押さえた。
「もう、あの子は……憎いこと言うんだからさ……。ロマ、あんた、あたしの弟子でよかったよ」
「そ、そんな泣くようなことっすか!?やめてっすよ、師匠……!」
「泣いてない!汗よ、汗!厨房の湿気ってやつ!!」
「むちゃくちゃな言い訳っす!!」
二人が大騒ぎしていると、厨房の外からスタッフが駆け込んできた。
「ムーヤ様、ロマ様!街の掲示板で『支店人気投票』が始まりました!『スサンの天使・限定メニュー戦』、一般審査も始まるそうです!」
「はァ!?なんでそんな勝手な……あの支配人、私に断りもなく!!」
「ロマ、厨房片付け!わたしたちも投票所に殴り込みよォ!」
「殴っちゃダメっす!師匠落ち着いてえぇ!!」
投票が始まると、ルステインの街中が『スサンの天使』の限定メニュー話題で持ちきりになった。各店舗が自慢の一品を掲示板に貼り、通行人が熱心に眺めては投票用紙を手に列を作る。
「ムーヤ様、ロマ様!支店からも応援団が続々来ております!」
厨房の外からスタッフが報告に来る。ムーヤは胸を張り、ロマは汗を拭った。
「ふふん、これで本店の名に泥を塗らせると思うなよ!」
「けど、師匠……人気投票って言っても……味じゃなくて見た目勝負になってる気がするっす」
「いいのよ、勝てばそれで!ただ、味でリョウ様を感動させるのが本当の勝ちだけどね」
そこへ、リョウエスト本人が姿を現した。
「おお、皆さん元気そうだね。限定メニュー戦の噂は聞いてるよ。味見させてもらおうかな?」
厨房が一気に静まり返る。
「リョウ様……!」
「おお、気楽に来てよ。これも僕の味の記憶を再現しようって企画だからね」
リョウエストは各店舗の料理を順に味見し、時折驚き、時折笑みをこぼす。
「この『金銀の昼下がり』は、いいね。温かさと冷たさのコントラストが懐かしいよ」
「師匠のムーヤさんの指導もあって、ロマは随分腕を上げました」
ムーヤが誇らしげに言うと、ロマは「~っす」と頭を下げた。
「僕は、どの店のメニューも、それぞれの工夫があって素晴らしいと思う。みんなの思いが込められてるからね」
「リョウ様……」
その言葉に、厨房スタッフも応援団も胸が熱くなった。
「でも、やっぱり本店の料理は特別だったな。だから、優勝は……」
リョウエストは一呼吸おいてから笑った。
「みんなで分け合おう。これからも、思い出を形にする料理を一緒に作っていこうよ」
「はっ、そうこなくっちゃ!」
ムーヤが拳を突き上げ、
「ロマ、来年はもっとすごいの作るわよ!」
「はいっす! 師匠、任せてくださいっす!」
厨房に歓声が響き、街の人々も拍手を送った。
「ロマァ!何度言やぁ気が済むのさ!?料理は根性と火加減!ちまちま計るんじゃないよッ!」
「す、すんませんっす!でも黒牛の皮、火力が強すぎるっすから、秒単位で見ないと……!」
「だからこそ感覚で覚えるのさ!『舌の記憶』があんたの命でしょーが!!」
鍋をガンッと置く音。炎の音。漂う香ばしい匂い。厨房はいつものように戦場だ。
けれど今日は、厨房の外も騒がしかった。
「ムーヤ様!各支店から続々とメニュー案が届いてます!」
「はーいはーい、持ってきな!」
給仕の少年が抱えた紙束を差し出すと、ムーヤはエプロンで手を拭きつつ紙束をばさっと開いた。
「よっと……さてはて、今年も始まったねえ、『チェーン店限定メニュー争奪戦』。どうせまたカラフルなだけのサラダとか、妙に尖ったスープとかばっかりでしょーよ!」
「……でも毎年レベル上がってるっすよ、ムーヤ師匠」
「それがムカつくのさ! 若いのが調子こいて……くぅ~っ、こちとら本店の看板背負ってんのよォ! 舐められてたまるかっての!」
ムーヤは紙束をめくりながら、鼻息を荒くした。
「ロマ、今年のテーマ知ってるかい?」
「えっと……『リョウエスト様の思い出』っすよね」
「そーよ。あの子が昔作ってくれた料理や、お屋敷でよく食べてた味を、各店が勝手に想像して料理にすんの。そんなの、ウチが一番詳しいに決まってんじゃない!」
「それは……そうっすけど、思い出って言っても、人によって感じ方が違うっすから……」
「違わしてたまるかーっ!こちとら、あの子が『泣きながら失敗したプリン』の味まで再現できる女よ!勝つに決まってるの!」
「それ再現する必要あるっすか……?」
ロマが苦笑していると、厨房の奥から煙がぼわっと立ち上った。
「……ちょっと!さっきの火、止めたと思ったの誰さ!?また焦げてんじゃないかい!」
「あっ、す、すみませんっす!」
「ったくもー……こんな調子でメニュー提出間に合うと思ってんの!?ロマ、今夜は徹夜よ!『あの子の一皿』ってやつを、わたしたちで叩き出すの!」
「……はいっす!」
ムーヤの目はぎらりと光り、ロマも小さくうなずいた。
本店の意地をかけて、今年の『限定メニュー戦争』が始まった――!
けっこう本気出してんじゃないのさ、支店ども……!」
本店厨房に集まった十数枚の提案書。ムーヤが腕を組みながら唸った。
「『リョウ様が風邪をひいた夜に飲んだ特製スープ』。『家族に出す初めての手作りパイ』。『料理失敗して焦げたけど笑い合ったハンバーグ』……なんでどこもこぞってエモ路線なのさ!!」
「やっぱ、テーマが『思い出』っすから……」
ロマが小人用の踏み台に立ち、真剣な目でレシピ案を読み込んでいた。
「でもムーヤ師匠、正直、どれも悪くないっす。中でも西街道支店の『きらめく春のピクルス』は……かなり、来てるっす」
「ぬう……あそこの料理長、二年前に本店から引き抜かれた奴じゃないかい。舌の記憶を裏切った裏切り者!」
「言い方っす!」
ムーヤは髪をひとつに結び直すと、がしっと調理台を両手で叩いた。
「ロマ、そろそろ出しな。あんたが考えた『本店案』。どうせ昨日の夜、こっそりメモ帳とにらめっこしてたんでしょ?」
「……バレてたっすか」
「師匠だよ?」
ロマはふっと笑い、ポケットからレシピを書いた紙を差し出した。
「『金銀の昼下がり』っす」
「名前がもう気取ってる!」
「…リョウ様が、よくお昼に庭で食べてた『たまごサンド』をベースに、黄身とチーズの二層仕立てにしたっす。温かさと冷たさ、両方の記憶を一口に込めた、ってコンセプトで」
「ふ~~~ん……ちょいとやるじゃないの……」
ムーヤは受け取った紙を黙って読み込み、数秒の沈黙ののち――
「……で、それを『本店案』にするには、あたしの許可がいるってこと、分かってるわね?」
「……もちろんっす。でも、『たまごサンド』を料理にしたいって思ったのは、あの人が言ったからっすよ。『思い出って、なぜかパンの匂いがする』って」
「……」
ムーヤはふっと顔をそらして、目頭を押さえた。
「もう、あの子は……憎いこと言うんだからさ……。ロマ、あんた、あたしの弟子でよかったよ」
「そ、そんな泣くようなことっすか!?やめてっすよ、師匠……!」
「泣いてない!汗よ、汗!厨房の湿気ってやつ!!」
「むちゃくちゃな言い訳っす!!」
二人が大騒ぎしていると、厨房の外からスタッフが駆け込んできた。
「ムーヤ様、ロマ様!街の掲示板で『支店人気投票』が始まりました!『スサンの天使・限定メニュー戦』、一般審査も始まるそうです!」
「はァ!?なんでそんな勝手な……あの支配人、私に断りもなく!!」
「ロマ、厨房片付け!わたしたちも投票所に殴り込みよォ!」
「殴っちゃダメっす!師匠落ち着いてえぇ!!」
投票が始まると、ルステインの街中が『スサンの天使』の限定メニュー話題で持ちきりになった。各店舗が自慢の一品を掲示板に貼り、通行人が熱心に眺めては投票用紙を手に列を作る。
「ムーヤ様、ロマ様!支店からも応援団が続々来ております!」
厨房の外からスタッフが報告に来る。ムーヤは胸を張り、ロマは汗を拭った。
「ふふん、これで本店の名に泥を塗らせると思うなよ!」
「けど、師匠……人気投票って言っても……味じゃなくて見た目勝負になってる気がするっす」
「いいのよ、勝てばそれで!ただ、味でリョウ様を感動させるのが本当の勝ちだけどね」
そこへ、リョウエスト本人が姿を現した。
「おお、皆さん元気そうだね。限定メニュー戦の噂は聞いてるよ。味見させてもらおうかな?」
厨房が一気に静まり返る。
「リョウ様……!」
「おお、気楽に来てよ。これも僕の味の記憶を再現しようって企画だからね」
リョウエストは各店舗の料理を順に味見し、時折驚き、時折笑みをこぼす。
「この『金銀の昼下がり』は、いいね。温かさと冷たさのコントラストが懐かしいよ」
「師匠のムーヤさんの指導もあって、ロマは随分腕を上げました」
ムーヤが誇らしげに言うと、ロマは「~っす」と頭を下げた。
「僕は、どの店のメニューも、それぞれの工夫があって素晴らしいと思う。みんなの思いが込められてるからね」
「リョウ様……」
その言葉に、厨房スタッフも応援団も胸が熱くなった。
「でも、やっぱり本店の料理は特別だったな。だから、優勝は……」
リョウエストは一呼吸おいてから笑った。
「みんなで分け合おう。これからも、思い出を形にする料理を一緒に作っていこうよ」
「はっ、そうこなくっちゃ!」
ムーヤが拳を突き上げ、
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厨房に歓声が響き、街の人々も拍手を送った。
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