【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

段取り八分の現場入り。

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 段取りは八分まで来た。ここからは目で確かめ、手で整える番だ。僕はミザーリ、ローランと連れ立って、自分の運河船に乗り込んだ。薄曇りの空の下、船は静かに岸を離れる。川面の匂いと木の船縁の感触が、心の調子を一定にしてくれる。道中、ローランは控えを読み返し、必要な連絡先を短く書き足している。ミザーリは甲板の端で槍の点検をしながら、ときおりこちらを見て笑った。

 ルステインに着くと、手回しよく馬が揃っていた。鞍を締め直し、三人で一気に丘を越える。訓練しておいて本当に良かった……息が荒れすぎない。脚が迷わない。道標は全部、頭の中に入っている。

 静養の家に到着すると、すでに準備は佳境だった。門をくぐったところで、家政の柱が駆け寄ってくる。僕はすぐに輪に入り、動線の確認から見て回った。入口から主室、控え、湯殿、裏庭への流れ。人と物がぶつからないか、向きは逆になっていないか。曲がり角の絵札は目に入る高さか。案内の言葉は短く、迷いが出ないか。次に設え。調度の高さ、座具の位置、卓の奥行き。触れたときの冷たさまで確かめる。器具は揃っている。蓋と布の合わせが良い。注ぎ口の角度が合っている。持ち手は滑らない。

 音の出ない工夫は、最後にもう一段深く。戸の当たりを布に替え、器の間に薄い木を挟む。棚に指先を置いて引き出す稽古をしてもらい、歩幅が伸びていない者にはそっと肩に触れて合わせ直す。庭では低木の刈り込みが終わり、散策路の砂利の厚さがちょうど良い。腰掛けの向きと日陰の幅も見やすい。水音は弱めてある。香りは薄い花ばかりで、遠くの風に混じる程度だ。

 働く人たちには短いリハーサルをお願いした。朝の支度から一巡、昼の入れ替えをもう一巡、夕の片付けまでを小さく通し、合図と受け渡しの位置を身体に覚え込ませる。焦らない、足音を立てない、指示ははっきり、声は小さく。四つだけ徹底してもらえば、全体は自然に整う。家政、厨房、庭、湯の担当が順に流れをなぞり、要所で止まって自分たちで修正案を出してくる。頼もしい。ローランはその間に連絡網を組み上げていた。王城の侍従、厨房、近衛詰所、こちらの家政、現地詰所、そして街道の宿。誰が誰に、どの刻に、何を伝えるか。札の束と小さな図で一枚にまとまる。

 外回りの様子を見に詰所へ向かうと、お爺様……ナフェル騎士爵が自警団の稽古をつけていた。掛け声は短く、間は詰めすぎない。列がきれいに動く。自警棒の素振りは刃物のように冴えて、足さばきに迷いがない。肩の力がふっと抜け、胸の奥が温かくなる。お爺様とトーマスを呼び、行程と受け渡しの段取りをもう一度、突き合わせた。道中の並び替え、宿の入りと出の順、門の開閉に合わせる見張りの寄せ方。万一のときの連絡の順番。二人の返事は短く、動きは速い。

 詰所から戻ると、エメイラが門のところに立っていた。白い外套の襟を指でつまんで、こちらに一歩。目が笑っている。

「ね、大丈夫でしょ?」

「うん。ありがとう。ここまでの整え、とても助かった」

「仕上げはあなた。余計を足さず、足りないところにだけ手を置いて」

「任せて」

 彼女の手が一瞬だけ僕の袖に触れ、すぐに離れた。その軽さで、残っていた不安が薄くなる。僕は現場の柱たちに最後の言葉を伝えた。今日ここからは、維持と観察。変えるべきところが出たら、その場で小さく直す。紙は回すが、紙より先に人の顔を見ること。皆が頷く。

 日が傾く前に、三人で馬に跨がった。家の門が背後で静かに閉まる。帰路は短く感じる。丘を越えてルステインに戻り、アトリエへ駆け込む。速文机に向かい、王城へ、タウンハウスへ、現地へ、宿へと一気に文を飛ばした。確認済みの点、差し替えた点、次の刻の受け渡しの要点。返事が次々と戻る。文の調子に乱れはない。目を閉じて深く息を吐く。

 再び運河船に乗る。岸がほどけ、街灯の光が水に沈む。甲板に出ると、風が顔を撫でた。船体が小さく鳴る。眠気が、波のようにやってくる。抗う理由は、もうどこにもない。ミザーリが僕の肩越しに空を見上げ、口元だけ動かした。

「大丈夫。見てるから、寝て」

「……頼んだ」

 言葉が終わる前に、瞼が落ちた。足元の揺れは弱く、音は薄い布の向こう側にある。遠くでローランが誰かと低く言葉を交わす気配。ミザーリが柵にもたれ、馬具の金具を指先で確かめる気配。川の匂いと木の匂い。静養の家の白い壁、庭の浅い影、お爺様の稽古場の土の色、エメイラの笑顔が、ひとつの画の上に重なっていく。準備は十分。あとは迎えるだけだ……その思いに触れたまま、意識は水面の下へ静かに沈んでいった。
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