【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ

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14歳の助走。

ミザーリの登場。

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 次の日の朝は厨房へ出向き、台所頭と細部のすり合わせを終えた。器の受け渡し場所、温の管理、道中の食の要点まで、紙に落ちた印が滑らかにつながる。屋敷に戻ると、広間の卓でローランが最後の一葉に印を置いていた。書類一式はすでに封が済み、僕は侍従長サイスさん宛の表書きを確かめて頷く。アールに託すと、彼は馬の鐙に足を掛けて軽く手を上げた。

 王城からの返しは早かった。サイスさんが受け取り済み、と短く整った文で届く。その足でアールは近衛詰所へ挨拶に回り、今回の行幸にまつわる要点だけを交わす。玄関先で礼が返され、空気に無駄な張りがないのを確認して、タウンハウスへ戻ったと報告する。

 廊下の先の控え室では、ストークが次々と来客に向き合っていた。仕官や奉公を望む者の釣り書きと顔、礼の角度や言葉の骨。脇目でそれらを見ながら、僕は控板の項目を一つずつ追って、漏れがないか確かめる。夕方、紙が今日のぶんだけ薄くなり、胸の底の硬さが少しほどけた。

 さらに翌朝、ゼクスの一報が飛び込んだ。宿、全て押さえました……短いが力のある文だ。二日目、三日目、四日目は静かな宿、初日は裏庭の広い宿。押さえの手は確かだ。ゼクスは一度現地で短く体を休め、すぐに馬で戻ると添えられている。紙を置いたとき、肩の力がふっと抜けるのを自覚した。

 その足でルステイン家のタウンハウスへ向かい、マックスさんと互いの進捗を重ね合わせる。紙束を広げる前に、彼が先に口を開いた。

「こっちからも報せだ。うちの騎士団がもう王都へ向かった。近衛と並んで道中の護りに付く」

 短い言葉に、現れぬ刃の手際の良さが滲む。僕は宿と献立、器の運び、贈答の取り扱いの紙を並べ、重なる部分に印を入れていく。抜けはない。帰り際に目を合わせると、マックスさんは顎で軽く送り出し、背で役所筋の段取りへ戻っていった。

 屋敷へ戻ると、レラサンスが静かに告げる。

「ミザーリ様がお越しです」

 玄関に出ると、日差しの中でミザーリが笑っていた。背後には九人の陽炎隊、繋がれた手綱には十匹の馬。頼みの綱がそのまま形になって現れたみたいで、思わず胸に手が上がる。

「先導がいるだろ?」

「本当に助かる」

「エメイラと一緒に手配して来た。段取りを教えて」

 僕が道筋と受け渡しの要点を述べると、ミザーリはすぐに頷き、振り向きざまにトーマスへ声を飛ばした。

「あなたは先に出て準備。門、荷、馬の扱い、全部まとめておきなさい」

 トーマスは言葉少なに敬礼し、陽炎隊の面々へ視線で合図を送る。空気に緊張が走り、しかし刺さらない。ミザーリは改めてこちらに向き直り、短く言った。

「主であるあなたの命は、私が命に代えても守る」

 強い言葉なのに、妙に静かに胸に落ちた。続けて彼女は、袖から小さな紙片を出してトーマスに渡す。

「スサン商会から運河貨物船を一台借りてある。人と馬はそれにまとめて乗せて、ひと筋で行きなさい」

 段取りが二つ三つ、目の前で形になる。僕はその場でエメイラへ速文を打った。器と布、花材の手当、現地家政とのやりとりの進捗。返しはすぐ来た。

「ばっちり。あとはあなたの目で軽く整えば完璧よ」

 安心の文字だ。つづけて、マックスさんへ先導の兵を呼んだことと、一度現地に入る旨を知らせる。返文は簡潔だった。

「役所筋はかなり進んだ。宿の準備はこっちでやる。現地を頼む」

 紙を畳むと、廊下の向こうでミレイユとカレルが走り書きを交わしているのが見えた。札と図の束、受け渡しの記録、礼状の控え。ストークは面接の合間に馬の替えの表を見直し、アールは王城と現地の窓口へ次の刻の連絡を走らせる。ローランは控板の進捗の印を軽く押し、空いた片手で家政の稽古の順を整えていた。

 僕は門の外の光を見る。道はもう一本、静かに敷かれている。宿は確保済み、器は動き出した、護りの列は王都へ向かった。残るのは、余計な波を立てないことと、目に見えないほころびに先に手を当てること。深呼吸をひとつして、紙束を抱え直した。

 夕刻、厨房での再確認の刻がもう一度巡ってきた。王城側から料理番が二名。器を並べ、盛りの高さを合わせ、注ぎ口の角度を揃える。熱が逃げにくい蓋と布、揺れても崩れないまとめ方。言葉は短く、手が先に動く。終わり際、料理番が小さく笑って言った。

「これなら、道でも卓でも乱れませんな」

「お願いします」

 帰り道、空がゆっくり色を変えていく。門を入ると、レラサンスが灯をひとつ増やし、控室の板には今日の来訪と明日の予定が新しい紙で重ねられていた。端に小さく、ゼクス帰還の刻。さらにその下に、陽炎隊前乗り出立の印。目に見える安心が、薄い紙の重さで積み上がっていく。

 夜更け、机に向かい、献立の骨をもう一度見直した。朝は喉にやさしいものを短く。昼は力が落ちない組み合わせを軽く。夕は温かさを中心に、長居にならない皿をいくつか。甘味は薄く、小さく。道中は同じ基調で、揺れに負けない形に。余計な飾りは要らない。欲しいのは、静かな満足だけだ。

 筆を置くと、庭の方から小さな水音がした。遠くで蹄の気配。誰かが出立し、誰かが戻ってくる。紙は飛び、人が動き、家が息をする。明日の朝にはまた別の紙が必要になるだろう。けれど、輪は途切れない。仲間の顔を思い浮かべ、僕は灯をひとつ落とした。
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